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回復魔法が万能な異世界で、俺だけ治さない理由がある 〜触ると悪化するので、何もしない治療師やってます〜  作者: 夜凪レン


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第19話 使い捨ての行進

 街道に入った途端、空気が変わった。


 人の数が多い。

 だが、賑わいとは違う。


 整列した足音。揃えられた鎧の音。

 一定の間隔で進む、規則正しい行進。


 ――軍だ。


 俺は道の端に寄り、流れをやり過ごすことにした。

 関わる気はない。ただ、通り過ぎるのを待つだけだ。


 だが、視線は自然と引き寄せられた。


 先頭を歩くのは、まだ若い連中だった。

 十代後半から、せいぜい二十代前半。

 体格は整えられているが、動きが硬い。


 胸元には、同じ紋章。

 英雄候補。


(……早すぎる)


 誰もが誇らしげな顔をしているわけじゃない。

 むしろ逆だ。


 目が、静かすぎる。


 覚悟を決めた目、ではない。

 諦めを覚えた目だ。


 列の脇を歩くのは、白い法衣の治療官たち。

 負傷者はいない。

 それでも、彼らは一定の間隔で、候補生の身体に手を当てていく。


 光が、淡く灯る。


 治療魔法。


 ――いや。


(整えてるだけだ)


 怪我を治しているわけじゃない。

 歪みを無視して、動ける形に押し戻している。


 俺は、足を止めた。


 行進の列から、わずかに遅れた少年がいた。

 背は低く、鎧が少し大きい。

 呼吸が浅いのが、遠目でも分かる。


 治療官が近づき、胸に手を当てる。

 光が走り、少年の背筋が一瞬だけ伸びた。


「……大丈夫だ」


 治療官が、事務的に言う。


「祝福は正常に循環している」


 少年は、無言で頷いた。

 だが、その足取りは、少しも軽くなっていない。


(戻してない)


 戻していないから、軽くならない。


 列が進み、やがて俺の前を通り過ぎていく。

 誰も、俺に気づかない。


 それでいい。


 関わる理由はない。

 少なくとも――今は。


 行進が遠ざかるにつれ、街道に残ったのは静けさだった。

 風が、土の匂いを運んでくる。


 俺は、ゆっくりと息を吐いた。


 吐く方を、長く。


(また、同じだ)


 村でも、傭兵団でも、見てきた。

 形は違っても、中身は同じ。


 壊れる前提で、使う。

 戻すことより、動かすことを優先する。


 それが、この世界の“正しさ”だ。


 街へ向かうと、門の近くに掲示が出ていた。

 紙が何枚も重ね貼りされ、風で端がめくれている。


【英雄候補生 募集】

【国家に仕える名誉ある役目】

【神殿による完全治療保証】


 保証、か。


 俺は、その文字から目を逸らした。


 保証されているのは、

 命じゃない。


 役目を果たすまでの、稼働だ。


 門をくぐると、街はいつも通りだった。

 露店が並び、子どもが走り回り、酒場から笑い声が聞こえる。


 誰もが、行進の意味を考えていない。

 考える必要がないからだ。


 英雄がいる限り、

 自分たちは守られる。


 そう信じている。


 俺は、宿を探すために歩き出した。

 足は自然と、さっきの少年の姿を思い出している。


 呼吸の浅さ。

 無理に整えられた流れ。

 戻る時間のない身体。


(……見なかったことにできる)


 そうすれば、楽だ。


 だが。


 街の奥から、遠く鐘の音が聞こえた。

 行進の合図か、祈りの時間か。


 どちらにせよ、意味は同じだ。


 流れは、もう動いている。


 俺は、歩きながら小さく呟いた。


「……また、壊れる」


 誰にも聞こえない声で。


 この街で、

 次に倒れるのが誰かは分からない。


 だが、

 倒れる理由だけは――

 もう、はっきりと見えていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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