第15話 治療は、戦力か
次の戦が決まった夜、野営地の空気は明らかに変わっていた。
規模が違う。
相手は盗賊ではない。
装備も数も揃った、正規に近い部隊だ。
団員たちは無言で武具を整えている。
それぞれが、自分の身体の状態を測っているのが分かった。
そして――
その視線が、自然と俺に集まってくる。
「……なあ」
若い団員が、言いづらそうに口を開いた。
「出る前に、少しだけでいい。頼めないか」
後ろに、同じ顔が並ぶ。
期待。焦り。恐怖。
俺は、首を横に振った。
「今日は、副団長だけだ」
「なんでだよ!」
感情が、はっきりと表に出た。
「いつもは見てくれるだろ!」
「今日は戻す時間がない」
俺は淡々と言った。
「整えたら、確実に壊れる」
ざわめきが走る。
「でも……」
「それじゃ――」
「それでもだ」
言葉を切る。
「壊れる前提で戦わせるのは、治療じゃない」
副団長が、一歩前に出た。
「……今日は、俺だけでいい」
団員たちが副団長を見る。
「副団長まで、そんなこと言うのか」
「言う」
短い答えだった。
団長が、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
「勝てる戦だ」
「そうだな」
「お前の治療があれば、被害はさらに減る」
それは事実だ。
だからこそ、厄介だった。
「……確認させてくれ」
団長は、俺をまっすぐ見た。
「お前の治療は、“戦のため”に使えないのか」
空気が張りつめる。
俺は、少しだけ考えてから答えた。
「使える」
団員たちの顔が、一瞬明るくなる。
「だが」
続ける。
「使った時点で、それは治療じゃない」
「……違いが分からんな」
「生きるために戻すか」
「戦うために整えるか」
「後者は、消耗品の管理だ」
団長の表情が、わずかに硬くなる。
「傭兵団は、戦って金を得る」
「知ってる」
「理想論は要らん」
「理想でもない」
俺は、静かに言った。
「事実だ。壊れる」
しばらく、沈黙。
団長は、深く息を吐いた。
「……今日は、いい」
意外な言葉だった。
「副団長中心でいく」
団員たちがどよめく。
「だが」
団長は、視線を俺から外さなかった。
「この話は、終わっていない」
「分かってる」
戦は、激しかった。
だが、副団長の指示と慎重な動きで、被害は最小限に抑えられた。
勝利だ。
野営地に戻ると、歓声が上がる。
「やったぞ!」
「これなら、次も――」
その声を、俺は聞いていなかった。
団長が、再び俺の前に立つ。
「見ただろ」
「何をだ」
「勝てた」
団長は、はっきりと言った。
「次は、全員だ」
その一言で、分かった。
今日の拒否は、猶予だった。
選択は、まだ先送りにされただけだ。
俺は、何も答えなかった。
答えなくても、分かっている。
ここに、長く居られない。
副団長が、隣に立ち、低く言った。
「……すまん」
「謝ることじゃない」
「だが、次は――」
「次は、来ないかもしれない」
副団長は、黙った。
焚き火の向こうで、団員たちが次の戦の話をしている。
希望に満ちた声だ。
その中心に、俺はいない。
もう、同じ場所には立っていなかった。
別れは近いかもしれない。
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