第14話 信頼は、結果から始まる
副団長の動きが良くなった――その事実は、思っていた以上に早く広まった。
「今日の指示、分かりやすかったな」
「無駄な突撃がなかった」
「被害、少なすぎだろ」
団員たちは戦のあと、そんな話をしていた。
誰も「治療」の話はしていない。
だが、原因がどこにあるかは、全員が薄々分かっている。
副団長本人は、多くを語らなかった。
「少し調子がいいだけだ」
そう言って、話を切る。
だが、剣の振りが軽くなっているのは、誰の目にも明らかだった。
その日の夜、団長が俺を呼んだ。
焚き火から少し離れた場所。
背の高い男が腕を組み、俺を値踏みするように見ている。
「お前、名前は?」
「名乗るほどのものじゃない」
「そうか。なら、こっちも名乗らん」
団長は、そう言って鼻で笑った。
「だが、話はある」
「……何だ」
「正式に、うちの治療係になれ」
直球だった。
「副団長だけじゃない。団員全員だ」
「戦の前に、お前が“整える”」
「そうすりゃ、被害は減る」
理屈としては、正しい。
結果も、すでに出ている。
だが――
「断る」
俺は、即答した。
団長の眉が、わずかに動く。
「理由は?」
「整えるのは、生きるためだ」
「戦うためじゃない」
団長は、しばらく俺を見つめていた。
「……甘いな」
「知ってる」
「傭兵は、戦って金を稼ぐ」
「そのために、身体を使う」
「壊していい理由にはならない」
沈黙が落ちる。
団長は、深く息を吐いた。
「副団長は、どう思ってる」
「本人に聞け」
その場では、それ以上話は進まなかった。
だが、翌日から状況は変わる。
団員たちが、俺を見る目が変わった。
敬意――ではない。
期待だ。
「次の戦の前に、頼む」
「少しでいいから」
俺は、条件を付けた。
「一日一人」
「症状が重い順だ」
「無理はさせない」
それでも、行列ができる。
副団長は、その様子を黙って見ていた。
やがて、ぽつりと言う。
「……お前、居心地悪そうだな」
「まあな」
「俺は、助かってる」
それだけ言って、去っていった。
信頼は、言葉じゃなく結果から始まる。
それは、分かっている。
だが――
結果が出れば出るほど、
要求は増える。
そして要求は、
いずれ命令に変わる。
焚き火の向こうで、団長が誰かと話している。
その視線が、一瞬だけ俺に向いた。
(……そろそろだな)
俺は、そう予感していた。
居場所ができる前触れは、
同時に――
居場所が壊れる前触れでもある。
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