表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
回復魔法が万能な異世界で、俺だけ治さない理由がある 〜触ると悪化するので、何もしない治療師やってます〜  作者: 夜凪レン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/24

第13話 押して、戻る

 翌朝、副団長はいつも通りに起きてきた。


 剣帯を締め、鎧を身に着ける動作に、以前ほどの引っかかりはない。ほんのわずかな違いだが、本人はすぐに気づいたらしい。


「……朝一番で、これか」


 肩を回しながら、低く呟く。


「どうだ」


「最悪ではない」


 それが、この男なりの高評価だ。


 俺は焚き火のそばに腰を下ろし、手招きした。


「来い。動く前に、少しだけだ」


「昨日で終わりじゃなかったのか」


「“戻り始めた”だけだ。戻りきってない」


 副団長は短く息を吐き、文句を言いながらも前に座った。


 周囲では、他の団員たちが朝食の準備をしている。視線がちらちらとこちらに向けられているのが分かる。


「何やってんだ?」

「また変なこと始めたぞ」


 気にしない。


 副団長の背後に回り、肩甲骨の内側に指を当てる。昨日より、硬さがわずかに減っている。


(……ちゃんと戻ってる)


 ここで欲張ると、壊す。


 俺は一点だけを選び、静かに圧をかけた。


「……っ」


 副団長の喉が鳴る。


「痛いなら言え」


「……我慢できる」


「我慢は、必要ない」


 圧を、ほんの少しだけ緩める。


「吐け。昨日と同じだ」


 副団長は、半信半疑のまま息を吐いた。吐く息が長くなるにつれ、背中の硬さが、わずかにほどけていく。


 周囲の音が遠のく。


 触れて、押して、待つ。


 派手さはない。

 光もない。

 だが、確かに“動いている”。


「……おい」


 副団長が、低く声を出した。


「何だ」


「……剣を振ってみてもいいか」


「今はだめだ」


「即答かよ」


「即答だ」


 副団長は、不満そうに鼻を鳴らしたが、逆らわなかった。


 しばらくして、俺は手を離した。


「今日はここまで」


「短いな」


「短い方が、いい」


 副団長は立ち上がり、肩をゆっくり回す。


 昨日より、さらに動く。

 それを見て、周囲の団員がざわつき始めた。


「おい、今の見たか?」

「副団長、引っかかってねえぞ」


「……まじかよ」


 副団長は、俺を見る。


「……なあ」


「何だ」


「これ、本当に……治るのか」


 俺は、少しだけ考えてから答えた。


「壊さなければな」


 副団長は、しばらく黙っていた。

 やがて、低く笑う。


「……簡単に言いやがる」


「簡単じゃない」


 簡単だったら、誰も壊れない。


 その日の戦闘は、小規模だった。

 副団長は前に出ず、指示に徹した。


 それだけで、団の動きが変わる。

 無駄が減り、被害も抑えられた。


 夜、焚き火の前。


「なあ」


 団員の一人が、酒を片手に俺に声をかけてきた。


「お前、本当に治療係なんだな」


「そういうことになってる」


「魔法も使わずに?」


「使わない」


 団員は、しばらく考え込むような顔をしてから笑った。


「……じゃあさ」


「何だ」


「俺も、後で見てくれねえか」


 それを皮切りに、声が重なる。


「俺も」

「腰がな」

「古傷が――」


 俺は、小さくため息をついた。


(……増えたな)


 副団長が、こちらを見て言った。


「無理はさせねえ」


 その一言で、少しだけ気が楽になる。


「一人ずつだ」


 俺は言った。


「急ぐと、壊れる」


 団員たちは、顔を見合わせたあと、笑った。


「急がねえ治療係って、初めて見た」

「変な奴だ」


 変でいい。


 ここでは、

 それが――ちょうどいい。


 だが、その“ちょうどいい”が、

 長く続かないことを、俺は知っていた。


 治るということは、

 使われるということだ。


 そして――

 使われれば、必ず歪む。


 その兆しは、すでに見え始めていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ