第10話 追放
話し合いと呼ぶには、あまりにも一方的だった。
治療所の奥、普段は使われない集会用の部屋に、村の長老と治癒師、それから数人の代表者が集められた。俺は、その中央に立たされている。
「……結論は出ている」
長老が、疲れ切った声で言った。
「英雄を失った今、村は不安定だ。これ以上の火種は抱えられない」
誰も反論しない。
反論できない。
俺は、静かに頷いた。
「要するに、出ていけと」
「……そうだ」
言葉は柔らかいが、意味は明確だった。
「お前が悪だとは言わん」
「だが、正しいとも言えん」
「村にとっては……危うすぎる」
中年の治癒師が、目を伏せたまま言った。
「お前のやり方は、理解できない。理解できないものは……恐ろしい」
正直だと思った。
理解されないものは、恐れられる。
恐れは、排除に変わる。
俺は、何も言わなかった。
言う必要がなかった。
「今夜のうちに村を出ろ」
長老の言葉で、すべてが決まった。
部屋を出ると、すでに日が傾いていた。
村の中は、妙に静かだ。
誰もが、英雄の死を悼んでいる――それと同時に、目を逸らしている。
荷物は少ない。
最初から、持っていなかった。
治療所の裏で、足音がした。
「……待って」
少女だった。
まだ顔色は万全じゃないが、しっかりと立っている。
「行っちゃうの……?」
「ああ」
「……私、あなたのおかげで……」
言葉に詰まり、唇を噛む。
俺は首を横に振った。
「いい。言わなくていい」
それ以上、何かを背負わせたくなかった。
「でも……」
少女の手が、俺の袖を掴む。
「ここにいてくれたら……」
俺は、その手をそっと外した。
「ここにいたら、次に誰かが死ぬ」
少女は、息を呑んだ。
「俺がいる限り、この村は“選ばなきゃいけない”。英雄みたいに、無理をするか、しないかを」
それは、この村には早すぎる。
「……あなたは、間違ってない」
少女が、震える声で言った。
「そう思う」
俺は、少しだけ笑った。
「ありがとう」
その言葉だけで、十分だった。
村の門をくぐると、夜風が頬を打つ。
振り返らない。
振り返れば、戻れなくなる。
背後で、門が閉まる音がした。
――それが、この村との別れだった。
正しいことをして、居場所を失った。
だが、それでも――
俺は、間違ったことをしたとは思っていない。
歩き出しながら、小さく息を吐く。
吐く方を、長く。
それだけは、忘れなかった。
こうして、俺の旅は始まった。
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