光の庭園のひみつ
ひかりは十一歳。初冬の夜、空気がつんと冷たくなるころ、ひかりはひとりで家の外を歩いていた。親に預けられてから、心の中にぽっかり穴があいたような気がしていた。家の中にいると、その気持ちが大きくなる。だから、夜の風にあたりたくなったのだ。
細い道を進むと、古い鉄の門があった。さびた門は、ぎい、と小さな音を立てて開いた。その先には、ひっそりとした庭園が広がっている。土の匂い、枯れ葉の甘い香り、どこかで水がぽたりと落ちる音。夜なのに、庭は暗くなかった。
あちこちで、花が「きらきら」と光っていた。
小道のそばに、青白く光る小さな花があった。鈴の形をした花で、近づくと、ちりん、ちりんと音を鳴らす。風は吹いていない。不思議に思ったそのとき、ひかりの心に、そっと言葉が浮かんだ。
「さびしい気持ちは、まわりをよく感じる力になるよ」
ひかりは足を止め、目を閉じた。自分の息の音、遠くの静けさ。夜の中に、やさしいぬくもりがあることに気づいた。
少し進むと、金色に輝く花が見えた。光は花火のように広がり、甘い香りがふわりとただよう。
「楽しかった思い出は、消えないよ。暗い夜ほど、強く光るんだ」
ひかりの胸に、昔の笑い声がよみがえった。あたたかい手、やさしい声。その光は、今も消えていなかった。心が、ほんの少し軽くなる。
庭の奥には、白く淡い光の花があった。冷たい息のような光が、ゆっくりと広がる。
「待つ時間は、心を育てる」
ひかりは、ひとりで過ごした夜を思い出した。さびしくて、長かった時間。そのすべてが、無意味ではなかったのかもしれない。
いちばん奥で、最後の花が輝いていた。その花は、決まった色をしていない。ひかりの気持ちに合わせて、やさしく色を変える。
「探していた光は、きみの中にあるよ」
その瞬間、胸の奥があたたかくなった。小さな、小さな光。でも、たしかにそこにある。ひかりは、自分の中にも「きらきら」があることを知った。
空が少しずつ明るくなり、鳥の声が聞こえる。夜明けだ。花たちの光は朝露に溶け、静かに消えていった。
ひかりは庭園を出て、家へ向かって歩き出す。胸の中の光は、まだ輝いている。それは、どんな夜でも消えない。
新しい朝が、そこまで来ていた。




