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四 過去 聖域と彼女④

 旧都庁のエントランスを出た。肩をつかんでいるレイブンの合金製の足が頼もしい。父がこの国の統治者だということを軽蔑しているくせに、いまこうして倭族自治区を歩くのが、心細いのだ。


 もし兼平樹奈が、ぼくを憎んでいて乱暴な倭族のテロリストに引き渡したら……と想像した。不安と不信でのどが渇く。汗が出た。肉体的に子どものままのぼく。どこへ行っても疎外感はつきまとう。自作のレイブンだけが世間からの防波堤だ。


 うず高く積まれた瓦礫を、ショベルカーがトラックの荷台に乗せている。ロードローラーが地面を平らにならしていた。


 復興活動をしている重機の影からも、怪しい人物は現れなかった。


 兼平樹奈の歩調はゆっくりだった。途中、無人自動運転のタクシーがぼくらの前に止まった。彼女は「乗りませんか?」と聞いた。


 ぼくは躊躇した。


 初対面の倭族の女を信用していいのか? タクシーでぼくを拉致するかもしれない。いや、そうじゃない。


「ぼくは他人と並んで歩くこと自体が、ものすごく珍しいんです。このままおしゃべりしながら、歩いてもらえませんか?」


 この返答は意外だったらしい。兼平樹奈は一瞬目を見開いた。戸惑いの感情はあったけど、くつろいだ笑みの中には幼い子どもをあやすような潤いがある。


「でも、エンブレムが設置されていない地域がご希望なら、車の方がいいですよ」


「あ、そうか」


 うかつにも、そんなことすら気づかなかった。耳が熱くなる。


 自動運転のタクシーがドアを開き、ぼくらはシートに身を入れた。


 タクシー内のタッチパネルに、兼平樹奈が指を伸ばす。形よく切りそろえた爪が、なぜか印象に残った。なめらかに指先が動き、行き先を入力する。


「ここから九キロくらい離れた場所を目的地に入れました。……以前は河川敷公園だったんです。四月の大地震で、地下にあった水害対策用の貯水槽が破損したせいで、一面が湿地になっていますけど、高台には簡易式のソーラーパネルを並べてあります。この夏いっぱいは、日差しからかなりの電力がまかなえる計算です」


「たぶん、ぼくは君の想像以上に電力を使うと思う」


 タクシーが動き出した。ぼくは気難し気に眉を寄せる。できるだけ不愛想を装った。AI元首をはねつけてきたこのぼくが、初対面の倭族女性に心を許すなんてあり得ない。


「ロボットを作る場所は、ぼくにとってただの研究室でも工作室でもないんです。聖域だ。バッテリーやコンピュータをいくつも運び入れるし、生活に必要な簡易キッチンやベッドだって必要だ。ドアには必ず電子ロック。断固として他者の侵入を阻止する構造にしますから」


「警戒厳重にして、どんなロボットを?」


「まずはこのレイブンを二十羽。実際のカラスは群れのリーダーに従いますよね。同じように、ぼくのカラス型ロボットもそれぞれ自律しながら、リーダーレイブンに従うようプログラムしたいんです」


 どこが不愛想だ? 感じ悪くそっぽをむいてやりたいのに、自分からべらべらと……。まあ、兼平樹奈は聞き上手だから仕方がないか。


 ぼくは他者との会話に飢えていた。特に胡忠功と距離のある他者との、何気ない日常会話に。

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