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鶴乃の恩返し。


 私、専業主婦の鶴乃。あれは夫の吾作(仮名)。


 このアパートでつつましくもささやかな幸せを築いているの。


 私、とっても引っ込み思案で外に出ることが苦手だから、このまま一生誰とも結婚なんてできないと思っていたんだけど、ひょんなことから夫と出会うことができたの。


 それからはちょっとずつ外の世界とも繋がれるようになったんだけど、やっぱり外に出て働くことは苦手で、でも夫になにもかもおんぶに抱っこじゃいけないなと思って、ハンドメイドの作品を売ることにしたの。


 でも所詮は素人。いきなり販売なんておこがましいから、ちょっとずつSNSに写真をアップして、いろんな人の反応を見てから販売することにしたの。


 しばらくするとありがたいことに「いいね」や「欲しいです」なんてお言葉をいただけるようになって、自分でもちょっと自信がついて来たからいよいよ販売することになったんだけど。


 なんだかこういうのって、周りの人に知られるのって恥ずかしくって……。


 SNSで自分の作品を見てもらうのは平気なの。


 でも、実際に顔を見て、私の存在を知っている人に、自分の作ったものを見られるのがとても恥ずかしくって……。


 私、子供の頃から自分で描いた絵や作ったものに何か感想を言われるのがとても苦手なの。


 「下手くそ」って言われたらもちろん落ち込むし、「これ何を描いたの?」って言われても、あ、わかんなかったんだって落ち込む。


 「上手だね」って言われても、気を使わせちゃったって落ち込むし、「すごいね」って言われても、下手なのにこんなもの作って意気揚々と見せびらかす根性のこと「すごい」って言われてるのかしらって思っちゃう。


 だから私の顔を知っている人たちには、絶対私がハンドメイドの作品を作っていること、ましてやそれを売ろうとしていることなんて知られたくないの。


 もちろん夫にも。


 だから以前、私がSNSをやってるって知られたときには、見る専門でアカウント作っただけだからって誤魔化したわ。


 いくら夫婦でも、私のアカウント、見ないでねって。


 夫は優しいから、「見るだけのアカウントなのに?」って笑いながらも、私の気持ちを尊重してくれてた。



 と、思っていたんだけど。



 年末調整の時期になると奥さんにどれだけ収入があるか会社に申告しなきゃいけなくて。


 その頃には少しだったけど私も収入があったから思い切って夫に言ったの。ハンドメイドの商品が売れてるんだって。


 そしたら夫、「知ってる」って。


 半笑いで。


「収入あるって言ったって、103万超えてるわけじゃないんでしょ?そんな自慢げに言わなくていいよ」


 って。


「あれでしょ?どうせ、奥さんたちの助け合いみたいなもんでしょ?」


 って。


「他にいい商品いっぱいあるのに、たまたまSNSで目についたから買ってもらってるだけなんじゃない?あとは、ほら、暇そうな奥さんが退屈しのぎになんかやってるから、かわいそうだから買ってあげるか~って思われたとかさ」






 普段はね、優しい人なんだよ。


 だって、私と結婚してくれたんだもん。


 ひきこもりで、外に働きにも行けなくて、なんの役にも立たない私を貰ってくれたんだもん。


 家にいていいよって、言ってくれたんだもん。




 優しい人だったんだ~……。



 私が調子に乗っちゃったのがいけなかったのかな。ハンドメイドとかやりだしたから?夫が働いてる時間に?呑気に?なんかやり始めたから?さらにそれを売り始めたから?それを夫に言ったから?



 そんな人じゃないと思ってたんだけどなあ……。


 私が少しでも自立すること、応援してくれると思ってたんだけどなあ……。


 『自立』にも満たないからかな……。



 こんなとき、ちゃんと『自立』してたら離婚できたのになあ……。


 今さら思っても遅いよね。だって、私、外で働くの苦手だし、それを理解してくれた人と結婚したつもりだったし……。




 あとはもう、私が死ぬか、夫が死ぬのを待つしかないよね……。


 

 よく聞く話だよね……。






 



 私、ハンドメイド作家の鶴乃。


 最近、お人形も作り始めたの。大・中・小、さまざまな大きさがあるの。


 こっちの手のひらサイズの人形なんて、関節が動くのよ。


 心材は硬い骨を使ってるからとっても丈夫。


 ちょっと重いけど、そのぶん思いも込められてるわ。


 わけあって最近自立したの。


 人生初めてのひとり暮らし。

 

 鶴乃、生活のために、一生懸命がんばります!




               おしまい

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