表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/16

第3話:俺なんて、ただのモブだろ

「陽翔くんってさ、今のクールな感じも良くない?」「いやいや、あの時の熱血な感じがかっこよかっただろ?」


そんな声が、陽翔の耳には痛かった。

クラスの誰もが、優しかった。毎朝挨拶してくれて、話しかけてくれて、ノートを貸してくれて、昼休みに誘ってくれて――でもそれが、陽翔には苦痛でしかなかった。


(なんで、みんなこんなに……優しいんだよ)


自分が思い出せないだけで、きっと何か「凄いこと」をしたんだろう、ということはうすうす察していた。でも、それは自分じゃない誰かだと思えて仕方がなかった。


俺はただの陰キャだった。いつも一人で、本を読んで、誰かに話しかけられると声がうわずって――それなのに今、みんなが「俺じゃない誰かを見るような目」で俺を見る。

気持ち悪い。怖い。期待に応えられない。


「……俺は、何もしてないのに……」


言葉に出した瞬間、昼休みの教室で隣にいた美月が、はっとしたように顔を上げた。


「……陽翔くん?」


彼女の声が優しくて、思わず目をそらしてしまう。

陽翔は立ち上がり、教室を後にした。


──


屋上。無人の空間に風が吹く。


「……俺なんて、ただのモブなんだよ。何が“ありがとう”だよ……」


自分を知りもしないくせに、みんなは「思い出の中の俺」を見ている。そんなの、苦しかった。

そこへ、そっと足音が近づいた。


「……陽翔くん」


振り返ると、美月がいた。彼女は息を切らしながらも、遠慮がちに近づいてきた。


「……ごめん。ついてきた。無理に話そうとはしないから……でも、陽翔くんの顔、見たかった」

「……見ても意味ないだろ。お前が知ってる“俺”なんて、どこにもいないんだよ」

「それでもいいの」


美月の声は震えていた。


「今の陽翔くんに、私はまた……恋をするから。時間がかかってもいい。もう一度、好きになるところから始めさせて」


陽翔は目を伏せた。心の中が、何か温かくて重いものでいっぱいになるのを感じた。


(……俺なんかに、そんな風に思ってくれる人が……)


彼女の言葉は、まだすぐには信じられない。でも、今だけは――否定しきれなかった。


「……勝手にすれば」


ぽつりと、そう言った陽翔の声は、どこか弱く、そして優しかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ