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妖精物語  作者: シャチ
婚約破棄された侯爵令嬢
7/32

ノーリ・セルベイン

ちょっとメタくなってきますよ

 騎士団長に案内され、城の奥にある地下牢へと到着した。

 地下だけあって若干じっとりとした、空気がよどんだ感じがする。

「申し訳ありませんが、ここから先はおひとりでお願いいたします」

「騎士団長でも彼女の声を聴くのは危険ですか?」

「すでに、副団長も一度魅了されておりまして……」

 副団長すら魅了されたとなれば、騎士団長もおいそれと彼女の聴取などできないだろう。

「副団長は今、ご無事で?」

「解術が効いて、冷静な判断が下せるようになりました。経過観察中ですが」

「それほど強力な魅了を使う相手をどうやってとらえたのです?」

「みなで耳を塞いで拘束したのですよ。セルベインの声はそれほど強力だったのです」

 物理的な方法で何とかしたようだ。

 確かに、声が問題になるなら耳を塞いでいれば効果はない。

 声に魔力を乗せるタイプの魔法だとわかったのは魔術師による分析の結果だという。

 とはいえ、高位貴族は操られることがなかったため、国が完全に掌握されることがなかったといわけか。

 彼女へ食事を届けるメイドは両耳をふさいで給仕をしているという。

「では行ってまいります」

「お手数ですが猿轡を外される際は、再度彼女に着けるようお願いいたします」

「わかりました」

 騎士団長との会話を切り上げ私は地下牢を明りのあるほうへ向けて進む。

 奥を曲がると一人、質素なドレスを着た女が私を見て目を丸くしていた。

「あなたがノーリ・セルベイン?」

 私の問いかけに猿轡をされた女はコクコクと頷く。

 黒髪、黒目、黄色っぽい肌で幼い目鼻立ちをしている彼女は、私を見て目を丸くしている。

 確かにこの国の人間っぽくは見えないが、妖精学校で習った人間の王侯貴族に多い色彩をしているので、”貴族”の血が濃いというのは間違いではないようだ。

「これから貴女の猿轡をはずすから暴れないでもらえる?」

 私の言葉に再度彼女が頷くのを確認して、私は牢屋の中に入る。

 私は体が小さいので鉄格子の間を通り抜けられる。ノーリの後ろに回り猿轡を外すと、彼女は私へ素早く向き直った。

「本当に妖精がいるなんて! ついてるわ!! 私を助けてくれるんでしょ!?」

「なにいってるの? 犯罪者の手助けなんてするわけないじゃない」

 唾がかかりそうなほど食いつかれて私はげんなりしながら答えた。

 私の言葉に目を見開くノーリの顔はなかなか間抜けで笑いそうになってしまった。

「なんで初対面の私が犯罪者をわけもなく助けると思ったのかわからないけれど、私は国王陛下から許可をもらって貴方と話に来ただけよ」

「いいから私を出しなさいよ! 私のいう事が聞けないの!?」

「聞く道理がないからね。貴女の言葉にはすごく魔力が乗っているけれど、妖精族に人間の魅了の魔法は効かないわよ」

 私の言葉にノーリは目を丸くする。

「嘘よ、ゲームだと妖精とかマスコットってお助けキャラでしょ……」

遊戯(ゲーム)ね……あなたは異世界から召喚されたか、転生したとでも思ったのかしら?」

 私の質問にノーリはまた目を丸くする。

 この反応を見る限りそう思っているのでしょうね。

「そうよ、私はこのよくわからない世界に召喚されたのよ。目を覚ましたら男爵だとかいうおっさんが私を助けたとか言ってたわ」

 セルベイン男爵はもともと凄腕の冒険家だったという話を聞いている。彼はダンジョンで彼女を召喚したか、何者かに召喚された彼女を見つけたのだろう。

「残念ながら、ここは現実よ。あなた、セルベイン男爵に無理を言って貴族学校に入学したようね」

「当然じゃない!こういう展開だと私はヒロインでしょう!?」

 操っていたという感覚はないようね……単純に頭の中がお花畑のままここまで来たというところかしら? セルベイン男爵は、何故彼女を学校へ入学させたかわからないと供述しているらしい。

 間違いなく彼女の言葉に操られてそれが正しいと思い込んでいたんだろう。

 ノーリは事実を誤認したまま、自分の能力もわからぬままに都合のいいように周りを操ったという事だろう。

 彼女の外見特徴をみても、異世界から召喚されたと言われたほうがしっくりくるところはある。

 さて、私はノーリに一つ言わなければいけないことがある。

 これは私たち妖精族に伝わる過去の歴史から得られた知見の一つだ。


「逆に聞くけれど、ヒロインが最後に”ざまぁ”されて倒される作品は見てこなかったの?」


 私の言葉にノーリが再び目を丸くする。

 そう、世の中には”シンデレラストーリー”と呼ばれる苦難の人生を送った人物がが最終的に幸せになる物語もあれば、逆にその立場に胡坐をかき、自分の都合がいいようにすべてを解釈して断罪される物語もある。

 どちらの物語も”現実”が見えいれば回避できるものが多い。

 特に後者の場合はなおさらだ。

 だが、こういった物語においては話を面白くするために敵役は”現実”が見えていないことが多い。

 さらに、この世界にはたまにノーリ・セルベインのように”異世界に来てしまった”と勘違いするものが現れる。

 妖精族は古代遺跡のせいだと考えているが、人間族には伝わっていない場合が多い。きっと、その影響もあって彼女をここまでのさばらせてしまったのだろう。


「ところで、ノーリだっけ? あなた助かる気はあるの? お願いの仕方って忘れた? 言えば何でも自分の望みを叶えてもらえていたから、もうすっかり忘れているのかもしれないけれど」

「……おねがいします。助けてください」

「よくできました。じゃあ、貴女の背後に誰がいたか記憶にあるかしら?」

「背後?」

「男爵令嬢が魅了を仕えたとろで高位貴族、しかも王族に簡単に近づけるわけないでしょう? 手引きした者はいないのかって意味よ」

「いいえ? 学園に行ってからは男子も女子もみんな私のいう事を聞いてくれたから、すぐに王太子に会えたわ」

「高位貴族の令息令嬢で誰がつなぎを付けてくれたの?」

「一番最初に知り合ったのは騎士団長の息子とかいう脳筋よ。そのあと宰相の息子とかいう侯爵令息が私の話を聞いて殿下に合わせてくれたの」

 なるほど、多分ここでいう騎士団長の息子というのは事件に関係していないだろう。彼は下級貴族の血が流れており完全に操られていたと聞くし、たぶんそうだと私も思う。

 だが、同じく操られていたと供述している侯爵令息が怪しくなってくる。

 彼の父親はノーリの洗脳を受けなかった。貴族の血が濃いからだろう。

 侯爵令息も同様であると考えられる。

「なるほどね……貴女、宰相の息子から何か言われた?」

「なにか? うーん、君ならきっと殿下の気を引けるとか一緒に婚約者の罪を暴こうとか勇気をくれたわ!」

 勇気ね、それは蛮勇というのだけれど、侯爵令息はノーリと共闘して証拠を集めたという事でしょう?

 知らぬ存ぜぬ、私は操られていたなんて言う人間が、自ら提案して相手を陥れる行動なんてとるわけがない。

 これが入り口だ。ここから紐づけられる事実がいっぱいある。

 間違いなくこの裏で手引きしていたのは宰相だろう。

 だが、当然どこにも証拠がない。むしろ息子を切り捨てるだけで何食わぬ顔で宰相を続ける可能性が高い。

 宰相がセルベイン家とつながりが無い事は証明されているらしいが、きっとどこかにつながりがあるんじゃないかしら?

「あなた、他になにか覚えていることはない? 隠し立てしなければ減刑されるんじゃないかしら?」

「覚えてること? これ以上はないわよ。みんながちやほやしてくれて、あの悪役令嬢みたいなマドレーヌとかいう女が追放されたのだって別に私は直接かかわってないわ」

「ふーん、教えてくれてありがとう。じゃあもう用はないわ。おやすみなさい」

「は? えっ! 待ってよ!! 助けてくれるんじゃないの!?」

 私は彼女の言葉を無視して魔法を使うと、ノーリ・セルベインはくたりと横になる。

 睡眠の魔法がきいたようだ。私は彼女に猿轡をはめて、牢屋を出る。

 悪いが彼女を助けるつもりはない。

 私たち妖精族の教義から言っても、悪事を働いてしまった彼女は何らかの方法で償ってもらう必要がある。

 これは人間世界で起こった事件だからだ。


*****

「召喚者ですか?」

「えぇ、彼女はその類です。 教会へ連絡をおねがいします。悪魔である可能性も否定できません」

 地下牢を後にし、騎士団長の元へ戻った私は聞き出したことを伝え、ノーリ・セルベインが召喚者と呼ばれるこの世にいてはいけない人間であることを告げる。

「さらには、彼女を悪用した人物が王城内にいるはずです。今一度関係者へ捜査をしたほうが良いと思います」

「なんですって!?」

「セルベイン男爵家とその寄親貴族、その貴族がどことつながっているかを今一度確認してください。セルベイン男爵は単なる末端でしょうから、もう辿れないかもしれませんが」

 私の発言に騎士団長は難しい顔をする。

 それはそうだろう。国家反逆罪の真犯人への証拠がもうないと言われればそうもなるだろう。

「リア殿は、どなたが怪しいとお思いですか?」

「この国の宰相です。過去の王家とのかかわりも含め確認すれば動機が出てくるかもしれませんね」

 王位簒奪なんてのは何らかの動機があるはずだ。

 そもそも安定した地位がある状態の人間がさらに上を目指すというのは、それだけパワーが必要になる。

 単純な向上心よりも、恨みや憎悪のほうが長続きしやすい。

 もしかすると、クリスさんのほうが何か情報を知っているかもしれないわね。

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