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妖精物語  作者: シャチ
婚約破棄された侯爵令嬢
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ホークトア王国 王都セントペデスタル

 馬車で二日ほどの旅を終え、マントガー侯爵家のタウンハウスについた。

 自分で移動するわけではないので私自身に疲れはほとんどないが、ずっと座っていたマドレーヌは疲労が色濃く出ていた。

 人間にとって馬車の旅はやはり過酷なようだ。

 お屋敷の門をくぐり正面玄関のロータリーで馬車が止まると、屋敷の侍女長ケイトがマドレーヌと私を出迎えてくれた。

「お待ちしておりましたお嬢様、リア様」

「ひさしぶりねケイト、心配をかけたわね」

「ご無事で何よりでしたお嬢様」


 ちなみに、マントガー侯爵は連日王城に出向いており、今は不在だそうだ。

「お父様はまだ忙しいの?」

「はい、まだ王宮内は混乱しているようです。ですが状況は良くなってきましたよ」

「国王陛下と王妃陛下は優秀ですものね……私も良くしていただいていましたし」

「やはりマドレーヌ様は、あのボンクラの婚約者になるべきではなかったのです。今回の騒動でお嬢様への疑念はすべて払しょくされましたことは良かったと思いますよ」

「……そうね、わたくしは、両陛下の娘になれないことだけは心残りだけれど」

「マドレーヌ様、場合によっては第二王子殿下との婚約もあり得るのですよ?」

「いま、婚約のことは考えたくないわ」

 二人の会話が終わり、私は部屋に案内された。

 また侯爵家と同じようにマドレーヌと同じ部屋らしい。

 常に私をそばに置いておきたいという思いがものすごく強い。

 別に私はマドレーヌが気に入ったわけではないのだけれど……まぁ文句は言うほどのことではない。なにせ毎日お風呂にまで入れるのだ!集落では週に一度は入れればいいほうだった。


「リア様、実際に国王陛下たちのもとへ行くのは一週間後となるそうです」

「すぐに行くわけではないんだね」

「準備期間でもあります。よほど緊急性のある案件でない限りは大体一カ月は余裕を持て召喚されますから、それと比較すれば今回は早いほうですよ」

 そして、明日は私用のドレスの合わせをするらしい。

 マドレーヌも一緒に新しくしつらえたドレスの試着をするそうだ。

 妖精族には伝統衣装的な私服があるが礼服はない。

 それに外に出てくる妖精はそれぞれ思い思いの衣装を着ているから人間族が着るような豪華な衣装の者もいれば、私みたいにシンプルな格好の者もいる。

 侯爵家が抱えた妖精って意味ではある程度飾り立てたいって思いはわかるので素直に受けることにする。


 翌日、朝からお風呂に入るように言われて体を清めてドレスの試着のために屋敷の一室へ向かう。

 マドレーヌと共に部屋に入ると、そこには針子と思われる方たちとデザイナーらしき男性がいた。

「マドレーヌ様ご無沙汰しております。そちらが噂の妖精様ですね!」

「おひさしぶりですグラッド、えぇこちらが妖精族のリア様です」

「初めまして。今日はドレスを着られるというので楽しみにしておりました」

「おおよそお人形サイズと聞いておりますが、ドレスですので本日は採寸も致します。それをもって本日お持ちしたドレスの手直しをいたします」

 グラッドと呼ばれた男性は恭しく礼を私にした。

 別に私自身は偉くないんだけれど、侯爵家お抱えの妖精って見られてるのだろう。

 針子さんに言われるがまま私は下着姿になる。

 私たち妖精族の下着は人間族のと違い体にフィットするものが多いので、この格好ならば採寸は問題ないようだ。

 てきぱきと針子さんたちに採寸され、用意されたドレスの一部が手直しされて渡される。

「お手数ですが背の紐はこちらで結びますので一度着ていただけませんでしょうか?」

横目で見る限りマドレーヌはいろいろ手伝ってもらって気つけているようだが、私が小さくてどう手伝えばいいのかわからないらしい。

「わかったわ。でもこの形状だと私の羽が出せないと思うのだけれど?」

「そちらは手直しいたしますので大丈夫でございます」

 肌の露出がないようなデザインの為、背中もきっちり隠される形状をしているから、普通に着ようと思うと羽が出せなくなってしまうが、とりあえず気にせずにということらしい。

 本当にお人形用の服をしつらえてきたんだろう、袖を通してみたが縫い目がごわごわする。

「縫い目が引っ掛かるのですが?」

「申し訳ございません。そちらも手直しいたします」

 明らかに腕の線がごわごわなので針子さんも見てわかったのだろう。

 まぁ人間の指で細かく縫うのは大変じゃないかな?

 そのあたりは任せることにする。侯爵家の顔に泥を塗るような仕事はしないだろうし。

「布自体の肌触りはいいわね。それに光沢もきれい」

「最高級の絹をつかっておりますから、縫い目だけはすべて直させていただきます」

 淡い水色のドレスはマドレーヌに合わせてのことらしい。

 一度ドレスを脱いで元の服に着替える。

「リア様、大変かわいらしかったです」

「ありがとう、マドレーヌ」

 彼女はドレス姿のまま、まだ針子たちに囲まれている。人間のほうが私より調整には時間がかかるようね。


 採寸と試着が終わると今日のやることがなくなってしまったので、私は出かけることにした。

 せっかく人の多くいる都に来たのにタウンハウスに引きこもっているのはもったいない。

「護衛を付けなくて大丈夫ですか?」

「妖精族は一人でも魔物のいる森でくらせるのよ? 特に問題ないわ。それに、ほら!」

 隠蔽の魔法を発動するとマドレーヌがきょろきょろし始める。

「リア様どちらへ!? もしかしてもうお出かけに?」

「ここにいるわよ」

「ひゃん!」

 彼女の耳元でしゃべってあげるとずいぶん変わらしい悲鳴を上げる。

 うん、楽しい。あ、これか妖精が悪戯好きって言われるの。

「こうやって存在を消せるから大丈夫よ」

 魔法を解いてマドレーヌの目の前に来ると彼女は目を丸くしていた。

「……わかりました。ですがお気をつけてくださいね」

「わかってるわ。じゃあね」

 彼女に部屋の窓を開けてもらって外に出てマドレーヌに手を振る。

 日が暮れる前には戻らないといけないわね。魔法で存在感を消して渡した飛び立った。


 街の市場は昼を過ぎたというのににぎやかだ。

 市場は朝が一番活気があると習っていたけれど、そうでもないらしい。

 肉を売る店や野菜を売る店などが軒を連ね、人々が行きかい交渉している。

 中には料理を売る屋台もあり、スープや米料理を提供しているようだ。

 お米はマドレーヌに会ってから初めて食べたのだが、もちもちした触感が面白く、おいしかった。

 私が住んでいた集落でコメはたべないから、絵でしか見たことがなかった。そのほかにもパンや麺類なんかも食べることがあって、食事だけでも楽しめることがいっぱいだった。

「思ったよりにぎやかだし、治安もいいみたい。例の王太子のせいで混乱してたっていうけれど、そんなことなさそうに見えるわね」

「そうでもないさ」

「!!」

突然声をかけられびっくりする。

振返ると私と同じ妖精族の女性がいた。

私より幾分大人に見える金髪碧眼の妖精だ。

「私の名はクリス、あなた最近旅だった妖精かしら?」

「はい、リアといいます。今はある侯爵家のお屋敷にお世話になってます」

「久々に妖精の気配がしたから思わず声をかけてしまったよ。私はこの町でもう五十年ほど住んでいるんだ。こないだの混乱はすごかった。町中の人が外にでなくなるほどだったからね」

「そんなにひどかったんですか?」

「あぁ憲兵が機能しなくなっていたからね。窃盗、強盗、強姦、簡単に考えられる犯罪が裏路地で頻発したよ」

「それは……例の王太子が国家反逆罪で逮捕されるわけですね」

「あぁ、アレらは間違いなく”魅了”されてたんだろうさ。何度か街で見かけたがお忍びのつもりだったんだろうけれど一人の女を男が数名で囲んでいるのを見たからね。あんなの人間族じゃなくっても常識的な行動じゃないよ」

「クリス様は眺めていただけですか?」

「面倒じゃないか、どう見たって例の女は男を侍らせて喜んでいただけだろうからね。そんなのに騙される奴らの面倒なんて見る必要もないね」

「それもそうですね」

 いくら妖精族がおせっかい好きで興味があることには何でも首を突っ込むといっても限度ってものがある。

 自分が楽しくなさそうなことに乗っかることはない。

「今は憲兵も機能しているようだから市場もにぎわっているのさ」

「正常に戻ってきたという事ですね……私も例の女を見てみたいなぁ」

「近いうちに見ることができるんじゃないかい?なんでも裁判ののち処刑されるだろうって噂だからね」

「それじゃあ話が聞けないじゃないですかぁ」

「なんだい、この事件にあんた首を突っ込んでんのかい?」

「はい、お世話になっている侯爵家のご令嬢を拾ったんです。元王太子の婚約者だった方なのです」

「それは……首を突っ込みたくなるのもわかるよ。面白そうだけれどあんたが首を突っ込んでるなら私はやっぱり遠慮しとこう。でもあんまり深入りすんじゃないよ」

「ははは、わかりました」

まぁもうずいぶん深入りしていると思うので今更だ。

でも先輩妖精の忠告だから心にとめておこう。


 意外な出会いをして私が侯爵家に戻ってくると、マドレーヌが出迎えてくれた。

「ご無事でしたかリア様」

「もんだいないよ。ところで何か進展はあった?」

「ノーリ男爵令嬢が裁判ののち処刑されることが決まったそうです」

「そうなのね」

 クリスさんと同じ情報だった。王家は早急に問題を片付けたいのだろうけれど、ずいぶんと気が早い動きな気がする。

 何か裏があるんじゃないだろうか?

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