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妖精物語  作者: シャチ
ダンジョンの街へ

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この世界の成り立ち

 調査を終えた私たちは、また協会に戻ってくることになった。

 そして、キャトルから個別に呼び出されたのである。


「さて、何から話しましょうか」

「私たちが作られた人間ってどういうこと?」

「妖精族ではなんて習います?」


 妖精族の教科書では、人や妖精、ドワーフにエルフも進化の末に今の形になったと習う。

 共通の祖先というわけではなく、何等かそれぞれ別の生き物から進化したと習うのだ。


「実際は、エルフも妖精もドワーフも人間を遺伝子操作して作り上げた生物です」

「つまりエルフやドワーフは元は人間ってこと? だからハーフがいるのね」

「もとは人間ですから遺伝的に子を残しにくいだけで子が生まれることがあるのですで、なんでそんなことをしたのかといえば、地球が一度人の住めない星になったからですよ」


 今から二千年前、地球環境の悪化から世界各国は戦争をはじめ、ついには地上で人が生活できないと判断された。

 金のある国々は宇宙へ脱出し、金のない国は野垂れ死ぬしかないという状況に追い込まれた。

 そんな中、一部の金を持つ国では宇宙ではなく地球に残ることで生きながらえようと考えた。

 それが今の王侯貴族たち、真の人間だ。

 冷凍冬眠という手法を使って500年の歳月を生き延び、その間に地球環境を改善するために作ったものが”魔物”と呼んでいる昆虫型生命体だ。

 彼らは森を守り、水を浄化し、大地を耕す役割を持っていた。

 今でもその生態兵器は動いており、私たちの世界において”魔物”として活動している。

 人間が過剰に自然を破壊すると襲ってくる。


「ゴーショとここまでの間で魔物が活発なのは、ゴーショが太古の技術を使って自然を破壊するからよ」

「破壊しているの?ゴーショが?」

「夜でも明るかったでしょ? アレは発電して光らせているの。で、その発電方式が環境を破壊しているのよ」


 さらに、ある程度環境が回復してから目覚めた人間はまず”経典”を作った。

 その教えが、現在の教会の”聖書”だった。

 そして、自然に帰っていた都市部を復活させ生活し始める。

 だが、生き延びた人間はあまりにも少なかった。


「そこで、貴族が従える平民を造った」

「造った?」

「そう、彼らの遺伝子を元に”人間に隷属的な生き物”を造ったの。ほら、平民の血は白いでしょ?」

「えぇ、確かに」

「そして、エルフやドワーフ、妖精族を造ったのよ。使役するために」

「……よくわからないのだけど?」

「例えばドワーフは重工業に特化させた人造人間、エルフは生態演算機として、そして妖精は”監視者”よ」

「私はそんな役目を与えられた記憶はないし、ちゃんと父も母もいる」

「でしょうね。一応生き物だから」


 貴族が平民と結婚を嫌がる理由は、子はできるがその場合人造人間とのハーフとなってしまうから嫌がるのだという。

 王侯貴族、特に高位貴族は血が赤く、濃いそうだ。


「ちなみに、私もリアちゃんも気づかないうちに役目を果たしているのよ。

 道中どうだった?なにか事件によく巻き込まれなかったかしら?」

「たしかに、婚約破棄騒動に偽聖女騒動……今回のアーティファクトを見つけたのも関係があるの?」

「あるわね。若い妖精は成人すると旅立つでしょ?それは監視者としての役割があるからよ。一定の妖精族が定住するのは監視継続の意味合いもあるの」

「私の行動自体が誰かに操られているってこと!?」

「それは違うわ。そこに自意識はあるはず。私だってドワーフなのにシスターなんてしているでしょ」

「……たしかに誰かに言われたとか、絵物語にあるみたいに導かれたなんてことはないと思うけれど」

「自由はあるのよ。どうするかはリアちゃんしだいでしかない。これが世界の成り立ち。私たちの立ち位置」


 あまりに荒唐無稽すぎて、私は何も信じられなかった。

 でも、どこかに腑に落ちている部分もある。

 ほかの妖精族もこのことを知っているのだろうか。

 仮に知っていても子供には教えないか……


「私たち妖精族は、このことを知っているの?」

「ゴーショに住んでいる妖精族はほとんど知っているのではないかしら?あの町であなたみたいに認識疎外をかけてうろうろすれば真実にはすぐにたどり着けるもの」


 なんでも、教会は真実を”人間”に教えることはないが、こっそりと覗き込むことはできるという。

 それに多くの高位貴族や王族であれば、言い伝えなどで真実を知っているという。

 伝承の中で事実が歪み「妖精族を見ると幸せになる」などという内容に変わってしまうこともあるのだとか。


「経典の原本は古語で書かれているというわ。さすがに私も見たことはないけれど。

 そこには一般の聖書にはなっていない様々な知識も記載されているそうよ。たぶんゾエ帝国の偽聖女事件もその技術が使われたんじゃないかしら?」

「えぇゴーショの連中が必死に何かしていたわね」

「持ち出されたアーティファクトがようやく見つかったって言っていたから、それでしょうね」


 私はなんだか気が抜けてしまった。

 自然に成り立った世界じゃないなんて、今一度考えても信じられない。

 でも腑に落ちている自分もいる。


「ねぇキャトル、私しばらくこのあたりに住むことにするわ」

「教会の宿坊を紹介しましょうか?」

「屋根があればどこでも」

「じゃあ部屋を用意するわ。一か月ぐらいなら泊まれるから」

「わかったわ、ありがとう」


 私はキャトルに礼を言い、部屋を案内してもらった。

 シンプルなワンルームでベッドと机だけがある部屋だった。


「時間になれば食堂で一緒に食事もとれるから。何か気になることがあればいつでも言って。

 祈りの時間に講堂で皆と一緒に祈ってもいいわよ」

「あの話を聞いて”神”に祈る気なんてないわ」

「そうでしょうとも。もともと妖精族はそういうものだものね」


 キャトルを見送り、人間用の大きなベッドに横になる。

 まさかこんなことを知ることになるとは、村を出たとき思いもしなかった。

 でもきっと、いろんなことを通じてこの世界の真実を知るのが妖精族の成人後の旅なんだとも思った。

 いったい私はこの後、どうなるのだろう?

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