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妖精物語  作者: シャチ
ゾエ帝国の聖女

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船に乗る

 私はマドレーヌと一緒にゾエ帝国に行くことにした。

 当初、南に行こうと思っていたにもかかわらず北に行くことにしたのはゾエ帝国において聖女が認定されたからだ。


 聖女、治癒魔法が得意であり、魔を払う結界を張ることができる。


 ホークトアの国王がゾエ帝国に訪問していたのは防衛協定のほかに、この聖女に会うことも含んでいたようだ。

 ゾエ帝国からの正式な発表をもってホークトアでもゾエ帝国にて聖女誕生の報がでた。

 正式に教皇庁からのお墨付きももらっており、偽の聖女ではないことは証明されている。

 となればその聖女を見たくなるのは妖精の性ってやつである。


 マドレーヌのゾエ帝国留学は、帝国内にある高等学校への留学という事になった。

 ここは、他国の貴族学校のさらに上のレベルの学問を治めるための学校で、ホークトア王国内にもあるのだそうだ。

 ホークトア王国では高等学校を出ることで、平民であっても王宮内において役職持ちになれるという事で、合格するための倍率はものすごいことになっているという。

 貴族でも、後に大臣を目指したいというものであれば卒業していなくてはならない学校であり、入学すること自体がステータスになるという。

 そして、この半年マドレーヌは必死に勉強してホークトア王国高等学校の入学資格を得た。

 この入学資格をもって、ゾエ帝国へ留学するという。

 帝国では寮生活となるとのことだけれど、他国の侯爵令嬢であり結構な人数の使用人が同行するのだそうだ。


 私はこの半年間でホークトア王国を結構見て回った。

 次期侯爵であるベイキングについて回り、マントガーの領地のほか、侯爵家の寄子の領なんかも回らせてもらった。

 ホークトアの南の領地は果物の生産が盛んで、北のほうは穀倉地帯となっており、王国の食糧庫という感じだった。

 山間部は鉱山が多く、様々な鉱石、宝石類が掘られ、加工されていた。

 さらに北、海を挟んでゾエ帝国が見えるような地域では特にリンゴの生産が多く、鉱物資源以外の主な輸出品になっているそうだ。

 王都セントペデスタルは巨大な港もあり、ゾエ帝国以外に南にある各国の貿易船がやってくる。

 冬は寒いが資源が豊富で貿易品でも強いものを持つがゆえに、何もなければこうして安定した治世が行われるのだろう。


「リア様、準備はできておりますか?」

「私の準備はもう終わってるわよ。マドレーヌは大変そうね。いろんなものを持っていくみたいで」

「家の体面というものもありますから、侯爵家として少し見栄を張るぐらいは必要なのです。これも政治ですわね」

「人間って大変ね」


 私の持ち物は里を出たときからほぼ変わっていないが、ひとつ追加したものがある。

 武器を作ったのだ。

 何かあったら困るから護身用に武器を持ってほしいとマドレーヌに懇願され、しょうがないのでまち針を1本もらった。

 それの持ち手を加工し魔術式を入れて、簡単なサーベルとした。

 妖精族の一般的な武器であり、私も学校で多少は習っているので使えると思う。

 基本的には刺すことを主眼に置いていて、術式で針を強化し毒を付与する。

 普通の魔物はまち針程度で倒せないが、毒を付与できれば別。

 付与した毒はマヒを誘発するもので人や同じぐらいのサイズの魔物なら相手を即座に動けなくできる。

 敵が動けなうちに逃げるが戦術で、妖精族はむやみに殺生をしたりしない。


 しばらく待っていると、ようやく移動することになった。

 向かうのは王都の港、ここから船でゾエ帝国へ行く。


「大体2日の船旅です」

「意外と早く着くのね? もっと時間がかかると思っていたのだけれど」

「馬車と違って船は風さえ捕まえれば休むことなく進みますから。わたくしも船は初めてなのでわくわく致しますわ」


 港に着くと大きな木造の船にマントガー家から持ってきた荷物が次々と積み込まれていた。

 マドレーヌを含め、マントガー家の者として乗船するのは護衛も含め二十人ほど。なかなかの大所帯だと思う。

 そして、マントガー侯爵以外にもマドレーヌを見送りに来た貴族令嬢たちがいた。

 マドレーヌはその輪に入り、しばしの別れを語り合っていた。


「でも留学って2年でしょ? あんな泣きながら一時の別れを惜しむものなのかしら?」

「マドレーヌ様がこちらへ帰ってくる頃には十九歳ですからよいお年となります。もう少女と呼べる年齢ではなくなってしまいます。それに、そのころにはご令嬢がたも結婚し出産しと状況は劇的に変わっているでしょうから……こういったことは今だけしか味わえないことなんですよリア様」

「なるほどね。短命な種族は大変だ」


 私の言葉にマドレーヌ付きのメイドが答えてくれた。

 たしかに、今この瞬間っていうのはそれだけで尊いものと言える。

 でも時間の感覚がやっぱり違うわよね。

 それに妖精族にとって別れは悲しいものという認識がないのもあるかもしれない。

 集落を出るとき悲しいという感情はなかった。

 それにしてもマドレーヌって意外と友達多かったのね。

 あんなに多くの令嬢達に慕われていたなんて思わなかったわ。

 王都に来てから社交をしているようなところを見たことがなかったから余計ね。


 皆に挨拶をしたマドレーヌが乗船すれば船は出発する。

 私も甲板にでて船が動き始めるのを待った。

 錨が上がり帆を少し広げた船がゆっくりと陸から離れていく。

 ここから二日は船の上。海には魔物がいないというけれど、何事もなくゾエ帝国へ着くといいのだけれど……


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