旅立ち
新連載は妖精さんが主人公です
なるべく毎週水曜日に更新できるように頑張ります。
妖精族の歴史は古いといわれているけれど、わたしたちの住む集落の記録では千五百年前から記録があって、妖精族は成人を迎えると旅立つことになっている。
私は今、旅立つ準備をしていて、ポシェットに必要なものを詰めている。
あんまり大きな荷物を持ってはいけないので吟味しなくてはならない。
「リアがもう成人とはねぇ」
家の広間で準備をしていると母が声をかけてきた。
「私は今日で18歳になるのよ?」
「まだ18歳でしょう…… とにかくしっかりと外をみて勉強してきなさい」
「わかってるよ! そのためにいっぱい勉強だってしたんだから」
私がまだ若くてお母さんからすれば子供だって言いたいんでしょうけど、人間の十八歳はもう立派な大人扱いをされているというのに心配のしすぎだ。
荷物をまとめ終わり、体を清める。
顔を洗って濡れ羽色の髪に櫛を丁寧に入れて、最後に自分の薄い透き通る虹色に輝く翅の手入れをする。
あとは旅に出るためにそろえた服に着替えれば出発できる。
私は妖精族のリア、今年やっと成人を迎えた。
私たち妖精族の社会はそれほど大きくない。
だいたい人の手のひらサイズしかないというのもあるし、そもそもわたしたちが小さいため集落といっても木の上に隠蔽魔法を張って住んでいる。
人間たちが国という枠組みをつくって魔物たちから領地を防衛しているのに対して、私たち妖精族は、魔法を”隠蔽”という技術へ進化させ身を守ってきた。
そんな私たち妖精族が何故わざわざ危険な村の外へ出るかといえば、他種族と交流し新しい技術や情報を仕入れてくるため。
私たちを守る”隠蔽魔法”の技術は魔物だけでなく、他の種族からも私たちの存在を秘匿してしまうから、こちらから出向いて最新の技術や情報を学ぶのだ。
基本的には数年から数十年を外の世界で過ごして戻ってくる。
外の世界を見ている間に別の集落の出身の妖精族と出会うこともあるため、結婚相手が見つかることもあるし、中にはずっとほかの種族の街に住む者もいる。
そのあたりはかなり自由度があって、私はどうするかをまだ決めていない。
いろいろな出会いを通じて決めればよいと思っている。
私たち妖精族の寿命は軽く百年を超えるので、この辺りは気長なのだ。
「じゃあ、行ってきます!」
「外に住み着いてもいいけれど、その時は一度ぐらい顔を見せに帰ってきなさいね」
「はーい」
冒険用に作った新しい服は、ヤママユの糸を使って織った伸縮性のあるぴたっとした服で、ワンピース型の膝丈スカートの服を用意した。
これは外へ出る妖精族の儀式のようなもの。
材料集めからスタートして初めて一人で一着の服を作る。
伝統的な妖精族の衣装のアレンジが許されるのが、この冒険用の服となる。
魔法付与で防御力や自動浄化などの機能を盛り込んだ一張羅で、ヤママユの糸がもつ光沢のある淡い青緑色のワンピースはとても心が躍る。
そして、他種族に会う事を考え靴も用意した。
人間族がブーツと呼ぶ靴で、リスの皮を使って作られた柔らかなものだ。
ヤママユの糸を黒く染めて丁寧に織ったタイツも履き心地が良い。
きっとこの旅は楽しい冒険になるだろう。
私はゆっくりと羽ばたいて空に舞った。
「気をつけて行って来いよ」
「はい、いってきます」
集落の隠蔽魔法と外のゲートを管理する兵士に挨拶と署名をして、私は外に出る。
私の住む集落は木の上に枝や葉っぱを敷き詰めて作った土地に家を立てて暮らしているから、それら一帯を隠蔽魔法で見えなくしている。
隠蔽が施された範囲外に出るためには、隠蔽魔法のゲートから外に出る必要がある。
モンスターからとれる皮から作られた鎧を着た兵士はここで出入りの管理をしている。
子供たちでも外へ出て森の恵みの採取や遊ぶ事があるから、何かあったときは兵士たちが対処することになるのだ。
今回は成人しての出発なので出立だけ記録され、戻りについては管理されない。
もし、仮に外で死んでしまえば、誰にも発見されずに忘れられてしまう事になる。
集落を出てすぐの辺りは、子供の頃や学生時代によく飛び回っていたので勝手知る土地、私たちは森の恵みで生きていて、木の実やキノコなどが主食で、ごくたまにお肉も食べる。
狩猟採集という生活スタイルだと人間族はいうらしく、学校で習った。
その日食べるものをその日に採るので、私の荷物にもご飯は入っていない。
ポシェットに入っているのは、コンパスに着替えの下着やハンカチ類、後はお気に入りの髪留めなどのアクセサリー、それとは別に水筒を持っている。お水は大事だ。
私はふだん木の実などを採取するエリアを越えるのは初めてとなる。
木々の間を抜けまっすぐに東へ進む。
おおよそ1時間ほど進めば人間が作った大きな道にでると習った。
そこからどちらへ行くかは自由。
北は寒いっていうし、南へ行こうかと思っている。
海というしょっぱい水がいっぱいある水たまりを直接見てみたいと思っている。