九十一話
「Hワイトは俺に用があるみたいなんで、兄弟の方は頼んで良いですか?」
「構わないが、気を付けろよ。あいつのレイピアは超一流だ。ああ見えて、フェンシングの元五輪選手だからな」
「分かりました」
もうさっき見てるけどな。油断はしないでおこう。
俺は剣を抜き放つ。一度は圧倒したとはいえ、相手の妙な自信が気になる。この様子だと〝何か〟したか……
「クク、さっきみたいに楽に倒せると思うなよ……」
レイピアの刀身がどす黒く染まっていく。
「………」
「さあ、行くぞ!!」
ゴッ、と音を立てて切っ先が凄まじい速度で伸びてくる。
中々に速いが直線的過ぎる。避けるのは容易だが……
「星護剣!」
その場から動かずに、防壁を展開させる。半透明の壁が刺突を弾くと同時に、その刀身からまるでハリネズミのように無数の針が突出してきた。
「ヒュウ、まさか初見で見切るとはね」
防壁はその針も難なく遮断する。Hワイトは伸びたレイピアを元に戻した。
(こいつの配信でも見た事ない技だな……あの黒い刀身、何かある)
この距離は不利と判断し、地面を蹴り上げて加速。肉弾戦へと持ち込むか。
「アハハ、君ならそう来ると思ったよ!!」
突き出したレイピアの刃が再び、猛烈なスピードで向かってくる。
「もう見切ってんだよそれは」
俺は最小限度の動きで避けた。対し、Hワイトはニヤケ面を崩そうとしない。
「ならこれはどうだぁ!?」
レイピアを思いっきり手元で引く。すると、刀身が突然鞭のように歪み撓んだ。
「……それだけか」
背後から迫ってきた切っ先を見向きもせず、片手で掴み取る。
「バカが! そんな訳、ないだろぉ! その手、弾け飛んじまいな!」
掴んだ手の中で何かが炸裂する。先程同様針山が飛び出してきたのだろう。
――下らん技だ。
「お前に構ってる時間は無いんだ、悪いな」
「無傷!?」
レイピアを力任せに引っ張り、Hワイトの手から奪い取る。
「うわ!」
勢い余って飛び出してくる奴の顔面に、拳を落とす。
真正面から打ち据え、鼻骨が粉砕する手応えが伝わってきた。
「ガァッ!?」
地面に叩きつけられ激しくバウンドする奴目掛けて、背中から抜いた杖を向けた。
「伝雷!」
一条の巨大な紫電がHワイトを撃ち抜く。眩い稲光と爆発したかのような落雷の音が轟き、再び地面へと落下していった。
あ、加減はしたよ。色々と吐かせる必要性が出てきたからな。まあ、今はそんなものはどうでも良いだろう。大事なのはこっちだ。
「……やっぱりな」
奪ったレイピアに鑑定をかける。
結果は――想像通りだった。
【鮟呈」倥�繝ャ繧、繝斐い】 危険度: 強度: 希少性: 分類:
鑑定不能
バグアイテムだ。こんなもの、さっきまでは持っていなかった。あの短い間に誰かが渡している。そして彼と一緒にいたのは――。
あるいはコイツが全ての犯人で、隠し持っていた可能性もあるにはある。ただトントンと同じタイプのコイツがさっきの戦いで使用を我慢できたとは思えんが、
「……このレイピア、どこで手に入れたんだ?」
胸倉を掴み、強引に起き上がらせる。
「かは、し、知らないな……!」
「あっそう。じゃあ吐くまで――」
次の刹那、顔面に拳がねじり込まれた。一瞬で拉げ、陥没し、血やら何かの塊やらを飛散させる。
「………」
俺はまた壁を張って降りかかるのを防いだが、また別の意味でキレそうになる。
「お前、何してんの?」
Hワイトの顔面を潰したのはヴェスナーだった。
「あァ? 文句あるのか? コイツは姉さんを襲ったんだ。許すわけないだろ」
何で今このタイミングで激情家に話すかなぁ。後にしてくれれば良かったのに。
「今はコイツに大事な事を吐かせる所だったんだよ。ふざけんな」
顔の壊され具合が酷い。即死だ。蘇生魔法が適用される条件から外れている。
ホント、お前ふざけんなよ。
「姉さんの敵は全て殺す。それだけだ」
「はぁ~……じゃあお前でいいや。お前もHワイトと一緒にいたもんね。このレイピアの事、洗いざらい吐けよ」
一番臭いと思ってた奴だ。徹底的に暴いてやる。




