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八十八話 もう一人の……


 その後も回復魔法を根気よくかけ続けていると、ようやくランの顔つきに血色が戻った。暫くすると目を開き、辺りを確認して起き上がる。


「……助けて、頂いたようですね。ありがとうございます」


 頭を下げる。彼女が身に着けているチャイナドレスは血と汚れでボロボロになっていた。


「何があったか、教えてくれるか?」

「……はい。アレは、私たちがミノタウロスの群れの頭目であるアステリオスを倒した時でした。突然、現れたんです」


 ランは俺の顔を見る。


「あなたが」

「……なんだと?」


 俺が、現れた? 当然、いるはずがない。あの時はオーセニとやり合ってる最中だ。物理的にも不可能としか言えない。


「その時のあなたは、見た事ないアイテムを持ってました。それを使うと……倒されたはずのミノタウロスが蘇り、より手強く、凶暴になって襲ってきたんです」


 戦いは乱戦になり、気づけば全員が散り散りになってしまったという。

 とんでもない濡れ衣だ。俺になりすますなんて、良い度胸してるじゃないか。


「でも、その時私の師匠たちが言ったんです。『アレはコメットではない。妖が化けている』と。師匠はああ見えて、道教タオイズムにも精通してます。だから見抜けたのでしょう」


 ランの師匠、つまり王玉兄弟だ。そんなに深い関係でもないのに庇ってくれるなんて……マジでイケメンかよ。


「不可解ですわね。コメットさんはワタクシとずっと戦ってましたわ。それは証明いたします」

「……ランカー同士で私闘してた事は、触れないでおきます。では、アレは何なのでしょうか?」

「俺も実は……ミノタウロスと戦ってる時に友人の姿を見たんだ。ここにいるはずがないのに」


 ランに先程の事を伝える。BFDも同じものを見たと付け加えた。


「すごく、イヤな予感がします。私は師匠と合流したいです。でもあのミノタウロスの変異体はとてつもない強さでした。師匠やマッシブマンでも手こずる程です……」


 ランカー相手にそこまで言わせるとは、今度はどんなバグアイテムだ? これもチヒロの兄から奪ったモノの一つだろうか。


「今、単独で動くのは危険だ。一緒に行こう」

「はい……ありがとうございます」


 俺に頭を下げる一方で、オーセニには無言で見据える。


「何ですの?」

「いえ……好色家と聞き及んでいるので。一緒に行動するリスクとリターンを考えただけです」

「まあ! あなたまでワタクシをそんな目で見ますの? ワタクシはただ、女性が好きなだけですのに!」


 その好きな人へのアプローチ法が過激すぎるんだよ。クスリ飲ませて眠らせるとか犯罪だからな?


「大丈夫だ。もし何かしたらはっ倒すから」

「それなら安心できます」

「……扱いが酷いですわー」




 嘆くオーセニを真ん中に先頭が俺、後ろがランになる。オーセニを常に見張れるようにするための配列だ。

 行方不明のランカーやヴェスナーを探し、俺たちは下層へと進んでいく。上層のループしてる付近も探したが、そっちには人の気配はなかった。


「……構造が変わってる」


 俺は歩いてるうちに確信した。七号ダンジョンは広くて深いが、作りはそこまで複雑ではない。しかし今歩いている空間はあらゆる方向に穴や横道が開き、無数に枝分かれしている。


 この狂った感じは特異性落下世界アノマリー・ワールドに近い。

 もしかしたら、一連の犯人はグリッチャーの仕業もあり得る。例えばあいつらがなりすましてるとか……は考えすぎか。


「一体、どうなってますの? このままランカーが全員遭難なんて結末になったら、日本政府全員の首が吹っ飛びますわよ」

「だから何とかしようとしてるんだろ。こっちで合ってるんだろうな?」


 獣がまた誰かの匂いを探知したので、案内させている。本当は獣を先行させたいのだが、オーセニが疲れただの歩けないだの文句を垂れ流すので、しょうがなく獣の上に座らせて一緒に歩かせている。


「ええと、その方向ですわ」

「匂いで誰か特定できないのか?」

「その誰かの匂いを予め覚えさせていれば。今は単に人の匂いを追跡させているだけですから、分かりませんわ」


 まあ、そりゃそうか。早く兄弟やマッシブマンと合流したい。そうすればオーセニも少しはワガママを言わなくなるだろう。


「その先の右穴です。でも……」

「どうした?」

「血の匂いが少し濃いですわね。覚悟をしなさいな」

「………」


 覚悟、と言うのは死体を見る可能性か。

 杞憂であってくれ。


 そう願い、右へ曲がろうとして止まる。

 誰か隠れていた。


「誰だ?」


 俺の呼びかけに、影が飛び出して襲い掛かってくる。


「!!」


 咄嗟に腕を振り上げ、ガード。凄まじい衝撃と共に両足が地面にめり込むが、ダメージはない。

 すかさず反撃のワンインチパンチを叩き込むと、その巨体が激しく後方へと下がっていく。


「むぅうう!? なんと、重いパンチだ! だが私は負けんぞ――って、コメット君か!?」


 そこにいたのはまさかのマッシブマンだった。

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