八十四話 VSオーセニ
「ではまず小手調べに」
地面に描かれる円形の魔法陣。眩い光が立ち昇ると共に、骸骨の剣士が無数に湧き出してくる。
「行きなさい、老いと衰えの騎士バーバヤガー」
骸骨の兵士たちはカタカタと顎の骨を打ち鳴らし、錆びれた剣や槍を掲げて迫ってきた。
「しかし、珍しいスキルだ」
異世界で言うなら召喚魔法だろう。アレは実際に呼び出す存在と契約を交わさなければ成立しない、非常に高度な技術だ。俺も過程で召喚士の職を修めたものの、異世界と地球の距離を跨いで呼び出す事は不可能なので宝の持ち腐れと化している。
その反面、オーセニは単に力の一端として使役している感じだ。契約は関係なく、単純に自分の魔力だけで完結していると思われる。
「……その分、弱そうな気がするな」
召喚魔法は渾然一体、阿吽の呼吸が求められた。心を通わせるのには長い時間と訓練を要するが、完成した時の力は恐るべきものになる。
その反面、オーセニは意思の無い存在を意のままに操っているのだろう。簡単だが、召喚魔法程の強さを生むようには見えない。
まあ――油断せずに行こう。
「ふっ!」
目の前の頭蓋を拳で粉砕。
槍で突き込んできた奴は、槍の柄を掴んで引き寄せて破壊。
今度は二人がかりで左右から挟撃してくるが、俺は身を引いて躱してその二つの頭を両手で掴む。
「ほらよ」
そのまま勢いよく正面衝突させて打ち砕いた。
聖属性の魔法を使うまでもない。単純な力押しで十分だった。
「んー、やっぱりこの程度の召喚獣では相手になりませんわね~」
オーセニがパチンと指を鳴らすと、骨の騎士たちは一斉に崩れ去り消えてしまう。
「ならもう良いだろ。止めようや」
「あら、そんな事言わずにワタクシご自慢の召喚獣を見ていってくださいな!」
新しい魔法陣が出力される。
今度は何だ?
「水と暴虐の精霊、ヴォジャノーイ!」
魔法陣から姿を見せたのは巨大な怪魚。長いヒゲと緑のウロコを持ち、当たり前のように地面を泳ぎ出す。背ビレだけを露出させ、さながら人食いザメの如く俺の周りで円を描くように回遊し始めた。
「………」
対し……俺は震脚で地面を叩く。
「!」
衝撃で地面が隆起すると同時にヴォジャノーイも空へ打ち上げられた。
まともに戦えば結構強かったんだろうけどさ。相手が悪かったよな。
「なっ!?」
俺は魚をオーセニへと蹴り飛ばす。身体がくの字に曲がって突き飛ばされ、眼前へと迫った。
「チッ!」
オーセニも咄嗟に身を逸らして避けるが、その隙は俺の接近を許すのには致命的過ぎる。
「痛いけど、悪く思うなよ。自業自得って言ったよな」
「くぅ!!」
発勁を容赦なくその腹部へ打ち込む。強烈な手応えを感じるも、クリーンヒットした感じはしない。
破壊力で吹き飛ばされたオーセニも両足を杭のように地面へ打ち込み、踏み止まっている。
「あなたの震脚、ちょっと万能すぎじゃなくて? 攻防一体どころか、ワタクシ自慢のヴォジャノーイを打ち上げるなんて……初めてやられましたわ」
「……お前も強いよ。自分で後ろに飛んで威力を殺したんだな」
俺の発勁に対応されたのは久しぶりだ。
それどころか……。
自分の脇腹を見る。オーセニの靴の足跡がクッキリ残っていた。飛ぶと同時に、蹴りを放つ……世界ランク二位は伊達じゃないな。術士でありながらここまでの身体能力は目を見張る。
「それでも、まるでお腹が爆発したかのような感じでしたわ……二度と喰らいたくありませんわね!」
そう警戒せずとも俺も使う予定は無い。多分、二度目は通じないだろう。
今度は完璧に見切られてカウンターを合わせられるかもな。
「いえ、正直に言うと……二発目は耐え切れそうにありませんわ。なので、出し惜しみは止めましょう」
オーセニが目を閉じると、一瞬の間をおいて白と黒の魔法陣が両手を包み込む。両腕に纏わりつくように白黒の光が流動し、それは二振りの剣へと変化した。
――その瞬間、明らかに空気の質が変わる。オーセニから噴出するのは別次元のオーラの揺らぎ。
「黒剣チェルノボーグ、白剣ベロボーグ……光と闇の神の力を召喚する、ワタクシの最高の召喚術ですわ」
ブン、とオーセニの姿が視界から切れる。
俺はすかさず剣を振り上げ、真横から強襲する二刀流の横薙ぎを受け止めた。
ギャリン! と鋭く甲高い金属音が鳴り響く。
予想より、重いな……!
「剣を呼び出すだけだと思わないでくださいまし。神の権能をも召喚していますのよ」
更に力が強まる。強引に振り抜かれ、俺はガードごと飛ばされた。
「……!」
なるほど……彼女を甘く見過ぎていたようだ。
召喚魔法の下位互換? ハッ、むしろ遜色ない練度だ。
こいつは強敵に値する。
マジで、強い。
「ウフフフ、どうです? 今の内に降参するなら、少々のお仕置きで済むのですが」
……こんな糞みたいな性格じゃなければ、素直に尊敬したんだけどなぁ。




