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八話 アノマリー・ワールド


 一眠りしてから目が覚める。時刻は昼過ぎ。欠伸をしながらテレビの電源を入れると、ニュースの特集が組まれていた。


「では、現在も捜索が続く第二十七号ダンジョンの最下層より、リポーターの島田さんに繋ぎたいと思います。島田さん、聞こえますか?」


 ……二十七号? 俺が配信してる所じゃん。え、何かあったの?

 カップラーメンを作る手を止めて、テレビの音量を上げる。


『はい。リポーターの島田です。本来、人気のない最下層ですが今は物々しい雰囲気に包まれております」


 カメラが周囲を映し出す。大型のライトがあちこちに設置されていた。周りには警察官や警察犬、救急隊に消防のレスキューチーム、果ては陸自の隊員までいる。


「島田さん。現在行方不明の人気ダンジョン配信者、麦星アークさんの行方に関する情報は何かありますでしょうか?」


『……はい。先程、陸自特殊作戦群の隊員が〝穴〟に降下していきました。えー、それ以降は通信が途絶している模様です。どうやら穴の内部は通信機器が役に立たないようで、現在に至るまで新しい情報は出てきておりません』


 一体俺が寝てる間に何が……。俺はスマホを引っ掴む。SNSのトレンドも『謎の穴』『麦星アーク行方不明』『壁抜けバグ』と言った単語がズラリ、と並んでいた。その中でも一番バズっている動画付きのツイートがある。俺はタップして開いた。


『――で、ボク的にはね、こういう最初のダンジョンにこそ、未知の入り口が隠されていると思うんだよ』


 カメラは一人の配信者の少女を映している。薄い青色のショートヘアに小柄な体型。頭にはイヤーマフ、身体はミリタリー柄の防弾チョッキを着け、その手には白黒模様の豊和M1500が握られていた。


 リスナーのコメントを見ているのか視線は脇を向いているが、悪路に躓くことなく洞窟を啓明に歩いていく。テレビで映っているのと同じ場所だ。


『一先ずあの行き止まりが怪しんだよね。じっくり調べた人なんていないし、ボクのスキルと魔法なら分厚い岩盤の向こう側だって――、え?』


 それは突然の出来事だった。前に一歩踏み出した少女の足が、地面を貫通する。罠が作動した気配はない。まるで最初からそこには地面などなかったかのように、彼女は吸い込まれるように落下していった。


 ドローンもそれに追従し、一瞬だが真っ暗な巨大な穴を映し出して『No Signal』と表示、動画の再生も終わった。


 俺はコメントを見る。


『アークって斥候のプロだろ? あんな初歩的な罠に引っ掛かる訳がない。ああやって話してる時も常に全方位にスキルを使って探知しているんだから』


『アレは絶対backroomsだよ。ファウンドフッテージ物の動画を一杯見てきたけど、正にあんな感じで落ちるから』


『ヤラセじゃねぇの?w』


『普通に考えて地盤沈下です。みんな騒ぎすぎ』


 やり取りはかなり白熱してるようで、リツイートやいいね数が大量についている。


『麦星アークさんの所属事務所、株式会社ステラ・スフィアーズは今後の対応について午後から記者会見を開く予定で――』


 ……状況は大体把握した。俺が配信してたダンジョンで、行方不明者が出たのだ。だからって別に関係者でもないから首を突っ込むわけにもいかないし、野次馬根性で見物するつもりもない。


 ただ……俺は魔王城で一度だけ、見たことがあった。何もないはずの床にある、巨大な穴。


 あの時、俺はその穴に気づかなくて魔王の四天王の奴と戦闘中、一緒に落下した。そこは明らかに異質の空間だった。上下左右、到底利用することが不可能な高さにある扉。まっすぐ進んでいた道がいつの間にかねじ曲がり、反転する天地。


 例えるなら……騙し絵の世界に入り込んだかのような、狂った空間。四天王の奴はこの現象を何て言ってたっけ……?


 アノマロ……違う。

 アノマリー……。

 ……そうだ。


 ――特異性落下世界アノマリー・ワールド


 魔王のダンジョン生成の過程で生まれた一種の欠陥構造。いわゆるゲームで遊んでいて稀に起きる壁抜けバグと、想定していないエリアに入ることによる異常な光景グリッチ。 


 それがリアルで発生してしまう現象だ。でも、なぜそれが異世界ならまだしも、地球のダンジョンに? ……分からない。


「あそこに……行くしかないか」


 今夜の配信は中止だな。

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