八十一話 蠢く何か
一瞬、脳裏を過るのは特異性落下世界だったが、ネット通信は生きている。マナの気配もない。
考えられるとすれば……。
(何らかの魔法による隔離か?)
恐らく俺たちがいる場所は外界と切り離されている。高度な空間魔法の一種だ。外に出るには術者を倒すか、ループしている場所を見つけ出して強引に抜けるか……。
(でもBFDならそれくらい見破れそうな気もするけど)
ちなみに魔法による脱出も効果が無かった。やはり空間的な作用を齎す何かだろう。
「とにかく単独行動は駄目だ。救助が来るまでここで待とう。犯人が誰か分からないのに行動するのは駄目だ」
マッシブマンがそう告げるが、こちらとしてはループする個所を特定したい……けど、変に動くと疑われるか。
他にも異を唱えるランカーが何人かいた。
「何故、君が仕切るんだい? 僕は僕のやり方でこの状況を乗り越えさせてもらうよ」
「こればかりはそこの殿方の言う通りですわね。ワタクシも好きに行動させてもらいますわ」
「……おいおい」
オーセニはヴェスナーと獣に跨り、早々に立ち去ろうとする。
「待て、勝手な行動は控えろ。仮にも世界ランカーだったトントンを一撃で仕留めるような奴がいるんだ。ばらけて行動するのは危険だぞ」
その面々に王が声をかけた。
「構いませんわ。自分の安全は自分で守りますの」
「……オーセニ姉さんの敵は全て殺す。それだけだ。こうやって邪魔をしようとする相手もな」
それに対し、敵意剥き出しで唸るヴェスナー。
はぁ~協調性無いなぁ。俺も人の事言えないけど。
「Hワイト、これ以上恥さらしな行動は止めろ」
「……その話はもう終わったぞ。僕がどこで活動しようと自由だろう?」
「そういう態度が相応しくないと言うのだ!」
「フン、正義のヒーローさんのお説教か? 結構だ」
Hワイトもそのまま歩き去っていく。結局残ったのはマッシブマン、王玉兄弟、ラン、シゾーン、BFDの穏健派(?)だった。
「コメット、君は……残るのか?」
「調べたい事がありますが、残りますよ」
「調べたい事?」
「ええ。この空間は多分、どこかでループしてます。そこを調べれば、抜けられるはずです」
「それは……本当か?」
「はい」
「……なら、君についていった方が良さそうだな」
少し考える様子を見せてから頷くマッシブマン。
「でも、まだ確定したわけじゃ……」
「構わない。出られるならその方が良い。みんなもそれで良いか?」
首肯する面々。勝手に動いてる連中は、まあ置いていくしかない。こちらから探す義理も義務もないし。
『なんか……ランカーのイメージ、変わったな』
『イメージ通りの人もいるけど、見方変わるよね』
『ワイは議長国の横暴さ見てると、当然のように思える。むしろ兄弟やマッシブマンが苦労人すぎて……』
そんな訳で俺を先頭に移動を開始する。みなドローンで逐次リスナーたちに伝えているので、外でも大きな混乱は起こっていないようだ。
「……コメット。少し、良いか」
道を歩く中、BFDが小声で話しかけてきた。
「どうしました?」
「……さっきシゾーンと周囲を確認した際、見間違いだと思うのだが……チヒロを見た」
「え?」
思わず大きな声で返してしまい、慌てて取り繕う。
「チヒロが?」
「ああ。声をかける間もなく姿を消した。彼女は……外にいるよな?」
「そのはず……」
メッセージアプリで話しかけると、すぐに『何ですか?』と返信が来る。
妹の様子を聞いてみると、心配はしているが大人しくしているとの返事が表示された。一緒に映ってる写真も添付されている。
「そうか……なら、良い」
「………」
どういう事だ?
BFDの見間違いと考えるのが筋だろう。
だが、妙な胸騒ぎを覚える。
何かが……陰で蠢いているような気持ち悪さ。
異世界で何度も感じてきた直感的な奴だった。




