七十八話 DTA開催
BFDから齎された情報により、被疑者は絞られた。後はこの中の誰がやったのか……。
まあ、チヒロも睨んでいたヴェスナーが最も怪しいだろう。オーセニと協力して事に及んだ可能性もある。死体の損壊が激しいのは召喚獣に食わせたから、かもしれない。
トントンも正直、キナ臭い奴ではある。あの肥大化した自尊心は、平気で他者を傷つけられるだろう。
先日のチヒロ誘拐未遂の連中は、ロシア人で構成されたプロの攫い屋だった。身柄は公安に引き渡されたが、依頼主については口を割っていない。てっきりトントン絡みかと思ったが、ここに来てロシアだ。
……何で俺らこんなに恨まれてるんだろう? 次から次へと……。
怪しい奴は一人にしてくれ。
……と言うか、みんな怪しいと言えば怪しいんだよな。
スキルで嘘を看破するのは容易だが、バグアイテムの存在がその確実性を削いでくる。元々狂った性能ばかりのシロモノだが、無限ドーピング薬とか呪いの大鎌なんてインチキにも程があるし、これよりももっとヤバいのがあるかもしれないって事だ。
……エクストラスキルの解放も、真面目に検討しなきゃいけない局面になりつつあるのかもしれない。
「はぁ……」
問題は山積みだが、時は流れていく。
「えー、ではこれより! 世界ランカーたちによるDTAを開始したいと思います!!」
バラバラと頭上には報道屋のヘリ。ダンジョンの周りはギャラリーが溢れ返る。日本国内だけあって日の丸を振っている人が一番多かった。つまり、俺を応援してくれる人たちになる。
「まずは世界最強! アメリカが誇る無敵のスーパーヒーロー! マッシブマン!!」
司会者の紹介に合わせて全身に筋肉を漲らせ、フロントダブルバイセップスを決める。星条旗を振る一団からは野太い歓声が上がった。
「北の大地からやって来た魔獣使い! ドラゴンすらも使役する召喚士! オーセニ!!」
露出の多いドレスから一転、殆ど身体が隠れる豪奢な法衣に身を包んだオーセニ。しかしそれでも抜群のプロポーションは浮き出ていた。
「中国四千年の歴史が生んだ武器の申し子! そのコンビネーションはコンピューターの如き緻密さ!!
王玉兄弟!!」
青龍刀を持った王と玉が演武を見せる。一枚の紙を王が放り投げ、二人同時に素早く青龍刀を振るう。はらり、と地面に落ちた紙は一匹の龍の形に切り取られていた。観衆からはどよめきが上がる。
「同じく永久凍土からの使者! 天才召喚士オーセニの実妹、ヴェスナー! その拳は破壊と癒しを齎す!!」
聖職者風の服装になったヴェスナーは特に何もせず、口に煙草を咥えてダルそうに立っているだけだ。
司会者も一瞬、言葉に詰まるがすぐに軌道修正する。
「その微笑みは女性たちの心を穿つ! その剣は魔物の命脈を貫く! 白銀の騎士、Hワイト!!」
やたら煌めく鎧を纏う長身痩躯の男。なるほど、芸能人顔負けのイケメンだ。彼が手にした花束を投げると、女性たちが一斉に飛び掛かり奪い合っている。
「王玉兄弟を師とする若き拳法家! その脚の一振りは鋼すら折り曲げる!! 鉄脚粉砕、ラン!!」
チャイナドレスを纏った黒髪ポニーテールの少女は静かに一礼する。何者かに殺害されたコンチーとは付き合っていたらしい。
「かつてはオーセニの妹たちと熾烈なランカー争いを繰り広げ、その栄光を掴み取ったロシアのシンデレラ!! シゾーン!!」
紹介に合わせ、恰幅の良い女性が両手を上げてアピール。このクソ暑い季節にイヌイット族みたいな毛皮のコートで頭までスッポリ覆っている。何でも氷魔法を極限まで鍛えた結果、常夏の島にいても寒さを感じてしまうとか……。
「中国裏社会の殺し屋の孫と言う悪名を持ちながらも、積極的な慈善活動で命を助けてきた異色の暗殺者、トントン!!」
どうやら怪我はすっかり治ったらしい。目が合うと、相変わらず人を見下した笑みを浮かべてきた。
あれだけボコられて良く強気になれるよな。その面の皮の暑さ、羨ましいわ。
「かつては海兵隊! そして今は配信者! 戦場を陸海空からダンジョンへと変えたエリート兵士!! BFD!!」
迷彩の装備一式で固めたBFD。声援に対しても何も言わず、軽く手を上げて応えるだけだった。
「さあ、最後は皆さんお待ちかね……! 流星の如く現れた奇跡の超新星!! 日本の悲願を果たし、次に目指すは世界の頂点、一番星!! 日本代表、ステラ・スフィアーズのコメットだぁあああああああ!!」
おいおい、何だその紹介……。熱が籠り過ぎだろ。
歓声も一際凄まじい。サッカーの応援団みたいにでっかい日の丸を振ってる奴までいる。
……一応、これ親善試合的なモノだよね? ランキングに関わるものじゃないよねぇ!?
「特に賞金などは無いが、強さを示す機会だからな。ましてやランカー勢ぞろいのイベントだ。気を抜くなよ」
スタート前の最後の調整。父さんからそう言われる。
「ガ、ガンバリマス……」
俺は撮影ドローンを飛ばす。配信も特に禁止されていないし、どうせならやった方が盛り上がるだろう。他のランカーたちもドローンを上げていた。
「では皆さん――Are You Ready?」
お前なら大丈夫だ、と肩を叩いて父さんは離れていく。
ま、1位一択なのは最初から決めていたけどな。
やってやるさ。
「GOOOOOOO――ッ!!」




