七十六話 再会
かなり手を抜いての走りだったが、アッサリ最下層に到着した。タイムはジャスト七分。当日は全力で走るからもっと短く詰められるだろう。
「ひぃ、お姉ちゃんホント速いよ~」
スバルとサツキは少し遅れてゴール。これでも手加減して走ってたんだけどな。
「……スナイパーは走ったりしないから、勝てなくても仕方ない」
そういうサツキも少し悔しそうな感じだった。まあ、俺は死ぬ気で走らなきゃ死んでいた場面が多々あったので、自然と足腰は鍛え上げられていったものだ。
「じゃ上に戻ろうか」
糸で最上層の出口まで一気にワープ。今度は少しペースを上げて走ろうかな、なんて考えていたら……。
「……何だこの騒ぎ」
ダンジョンから出ると、警察の方々。もう何回目だ、この光景。何で俺がダンジョン入ると何か起こるの? なんか本当にTS以外の呪詛にかけられてんじゃないかって思えてくる。
「あ、ホウキさん。お帰りっす」
警官と話していたチヒロが寄ってきた。
「何があったの?」
「あの、此処で皆さんを待ってたら誘拐されそうになったっす」
「えぇー……」
いや、治安。
「ハイエースに連れ込まれそうになったら、何か魔法が発動して犯人が全員ぶっ飛ばされたんすよ」
「それは俺のかけた防御魔法だね」
「防御魔法っすか?」
あの下種野郎共に母さんとスバルを攫われる失態の後、俺は家族や関係者に護身のまじないを施した。害意を持って接触しようとすると、容赦なく吹き飛ばす魔法だ。威力は最上位の攻撃魔法に匹敵する。無属性だから防ぎようもない。
チヒロも兄の件で恐らく何者かに狙われてると判断し、かけておいたけど正解だった。
「そのバカ共は何なんだ?」
「分からないっす。でも日本人じゃないっすね。よく分かんない言葉でワーワー、言ってましたし。手際の良さもプロだって」
「そいつらは何処に行った?」
「当たりどころが悪くて緊急搬送されました。明らかに手足が変な方向に曲がってたっす」
だろうな。安全なんて度外視の防御魔法だし。
困ったもんだねぇ。
「まあ、無事で良かった」
「はい。防御魔法ありがとっす」
しかしこれじゃロケハン出来ないな。チヒロは事情聴取があるだろうし。
「お、まさかそこにいるのはコメットか?」
雑踏をかき消すような大きな声。規制線の向こう側で一際、デカい男がいる。
「……マッシブマン?」
世界ランク一位の男が豪快に手を振っていた。
事情聴取はすぐに終わる。チヒロが完全な被害者で、相手の素性は知らなかったし、防御魔法に関しても相手の落ち度が百%なのでお咎めは無い。流石に死んでたら不味かったが、一応はプロって所か。
俺たちは現場近くのファミレスに移動し、対面の席にマッシブマンが座った。一人で四人掛けのソファを占有してもなお、窮屈そうだった。
「いや、私も軽く下見をしようと訪れたんだ。そしたらジャパニーズポリスたちに封鎖されていて……全く、悪党は万国共通だな! 君、怪我は無かったかい?」
俺が事の顛末を説明すると、憤りを露にしている。確か本国ではリアルアメコミヒーローとか言われてるんだっけ? 単身、強盗を殴り飛ばしたり暴走する列車を食い止めたり、と配信以外での活躍が多いとか。
「あ、はい。大丈夫っす」
そんな人からすれば、許し難い悪行だな。もし鉢合わせていたら、犯人はもっと悲惨な末路を迎えていただろう。
「私はまた日を改めて下見をするとしよう。――せっかく、BFDと来たというのに」
「え、BFDさんも来てるんですか?」
「ああ、彼なら土産目当てでうろついているよ。呼ぼうか?」
俺はチヒロと目配せをする。迷うことなく頷いていた。
「お願いします」
「OK、少し待ってくれ」
スマホでいくつか言葉を交わし、通話を切る。
「数分で来るそうだ」
待つこと、五分くらい。店のドアから迷彩柄の服を着た男が顔を覗かせる。
「おおい、こっちだこっち」
マッシブマンが立ち上がって合図をすると近づいてきた。
「それで、話――」
近寄ってきたBFDの動きが止まる。
「……チヒロ」
「やっと、会えたっすね」
真摯な目で見上げるチヒロ。BFDは何も言わず、踵を返そうとするが。
「アンタさ、兄貴の事知ってるんだろ? 何でそうやって逃げるんだ?」
「………」
俺の言葉に無言で席に着く。
「どうしたんだBFD。チヒロと知り合いなのか?」
「……ああ」
落ち着きなくメニューを見たり、指先でテーブルを叩く。チヒロは黙って見つめているだけだ。
「……何が、聞きたいんだ?」
やがて根負けしたのか、観念するように両手を上げた。
「兄の事。それだけっす」
その言葉に更に落ち着きがなくなる。追加で運ばれた水をあっと言う間に飲み干し、眉間を手で抓んだり周囲を見たりと忙しない。
「何を隠してるんですか? ワタシはあなたが犯人だとは思ってないっす。手掛かりが欲しいだけっす!」
「……ソックリだな。その、真実を知ろうとする信念は」
BFDはゆっくりと息を吐き出す。
「お前の兄に手をかけた相手までは知らん。だが、あの日、あの時、日本で密かに活動してた奴らがいる」
「それは――」
「オーセニ、ヴェスナー、トントン、Hワイトだ」




