七十五話 ダンジョンタイムアタック
「DTA?」
「そうだ。いかに早く最下層まで辿り着けるかを競う競技だな。ダンジョン配信に次ぐ人気ジャンルになる」
レギュレーションはいくつかあるが、一番ポピュラーなのは最上層から最下層までの到達時間を競うルールだ。
俺は知らなかったけど、結構白熱する競技らしい。強さだけじゃなく、ダンジョンの構造を把握し、最短距離を割り出す知識と経験も必要になる。
他にも魔物との接敵や戦闘の回避、罠に引っ掛からないルート構築等、普通の攻略とは一味違った世界を味わえる。
何故父さんがその話をするのかと言えば――
「それをランカーとやるの?」
「ああ。これが今回のイベントだ」
「ふーん……」
正直、もっと露骨に俺に不利なモノを開催すると邪推してた。流石に自重したのか、何か隠された思惑があるか。
ちなみに舞台となるダンジョンは階層数こそ高難易度に匹敵するが、魔物の強さは中の下になる七号ダンジョンとなる。世界ランカーと言えど、難しいダンジョンを会場にして怪我でもしたら政府役人連中の首が飛びかねないから、妥当だろうと父さんは言う。
「明後日、早朝六時にダンジョン前に集合だ。パーティに不参加だったメンバーも来るようだ」
「俺は別に良いけど、他のランカーは七号ダンジョンの構造は知ってるの? 後でズルいとか言われたくないから」
実際言ってきそうな奴らばっかだしなぁ。
「その辺は相手は超一流だから気にしなくて良い。自前のスキルで構造把握くらい出来るさ。むしろ出来なきゃ恥を晒すぞ」
なら大丈夫かな。少なくとも約一名はプライドだけは一流だし。
まあこの提案も議長国が出したんだし、自分とこの配信者が活躍できると踏んだ上での判断だろう。
無論、だからって接待するつもりはないが。
「相手より、お前は大丈夫か?」
「とりあえず動画見て学んでおく。氷風大樹海で似たような事やったから、何となく分かるけど」
ルール次第では魔法禁止とかショートカット禁止もある。
「心強いな。ああ、これが今回のレギュレーションだ」
手渡されるホッチキスで留められた用紙。
「どうも。じゃあ早速読んでおくよ」
俺は部屋に戻り、紙を捲る。
ざっと目を流し、内容を確認。
ランカー10人全員が一斉スタートと同時に、タイム計測開始。
スキル、魔法の使用に関しては、肉体強化系、瞬間移動系と言った移動に関与するタイプは×。壁や床を破壊しての強引なショートカット、罠、近道を利用した短縮も禁止行為だ。
他には別のランカーと協力するのはありだが、それを利用しての戦闘行為や妨害行為は反則になる。
もちろん単独でも他のランカーたちへの攻撃、妨害はダメ。
「駄目って言ってもなぁ……」
そんなルールを守るとは思えない。いや、俺にだけこのルールを課してるんじゃないか?
あり得るし、やりかねない。備えは絶対に必要だな。
当然、こっちから手を出す事はしない。
あくまでも反撃。正当防衛を主張できる状況を作る。
「めぼしい内容は……こんなもん、か?」
まあ、書類は後で見直せばいい。
まずはロケハンだ。家から近場のダンジョンなのが有難い。
「ちょっと、出かけてくる」
「どこ行くの?」
「七号ダンジョンでロケハン」
「あ、DTAね。ならアタシも付き合っていい?」
「良いぞ」
「ん、ならボクも」
「タイム計測はワタシがやるっす! 丁度、精度の言いタイムウォッチのアイテムがあるので!」
結局、いつものメンツで行く事になった。
七号ダンジョンの入り口はメジャーな洞窟的な入り口だ。それが横浜中華街の傍らにあるのは、違和感の塊でしかないが……。
「とりあえず軽く走るから、ついてきてね」
「了解!」
「走るのは得意。負けない」
入り口前の穴の前に立ち、軽く手足を伸ばす。七号ダンジョンの最下層は地下101階。氷風大樹海や空ノ立橋に匹敵する規模だが、棲み付く魔物は最下層でもゴブリンやスライムの一段階上の種だけだ。
「では、行きますよ~……よーい、ドンっす!」
チヒロが腕を下ろすと同時にスタート。
俺は先陣を切って走り出す。
「ひぇ、お姉ちゃんはっや!」
「……DTAは速さだけじゃない。持久性も大事」
遅れてスバル、サツキが続く。
地下一階。いきなり広大な洞窟になるが、最短で進めば速いと一分以内に次の階層への階段前に到着する。
「すみませーん、通ります!」
浅い階層は他の一般人の姿も多くある。なので走るスピードは抑えていた。
「ン!? 今の子たち、ステスフィか!?」
「ほ、ホントだ!」
「タイム計測してるっぽいから、DTAでもやってんのかな」
「おーい、配信見てるぞ!」
流石に有名になったのか、出会う人たち全員に名前を呼ばれる。こういう時でもファンサは大事なので手を振って応えた。
「有名になったね、アタシたちも」
「そうだな」
いつの間にか俺は日本の看板を背負った配信者になっていた。
その期待に恥じないよう、DTAでも最速を叩き出すしかない。
「さあ、次の階層だ!」
俺たちは地下二階へと降りていく。




