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六十四話 皆で


星崩拳アマ・デトワール!」


 黒拳ブラキオンを付けたスバルの剛腕が、巨大な怪鳥ルフを殴り飛ばす。奇声を発し、白い羽毛を撒き散らしながら硬質な足場になっている雲へ叩きつけられた。


「グギャっ」


 衝撃でぐしゃり、と頭部が弾ける。俺はその死体を飛び越え、白い蒸気のような雲の魔物ウェンディゴに斬りかかった。常時、姿が見えない能力を持つが俺には通じない。


星柔斬ライテスト・アサルト!」


 鋭く走る斬撃が姿なき魔物を裁断し、無音で霧散していく。

 それと入れ替わるように、今度は雲海から魚の群れが飛び出してきた。イワシの魚群のように一糸乱れぬ動きを見せ、襲い掛かってくる。


「――星裂弾サザンクロス


 その魚群に向け、雲間に隠れ潜んだサツキからの援護射撃が打ち込まれた。十字を描く爆発が魚を吹き飛ばし、ボタボタと雨のように降ってくる。

 こいつは食用可能なのでポリバケツで受け止めて回収しておく。あとそこの鳥も。


「ふぅ……こんな感じかな?」


 魔物を一掃し、一息。敵の気配はない。


『最難関ダンジョンなのにサクサク進むな。もう三十階じゃん』

『安心して見てられるわ。前の挑戦はボロボロだったし』

『確か先々代の国内ランク一位が率いたチームだったよな』

『六人パーティで挑んで二人、死亡。四人が重軽傷。当時の国内一位で、チームリーダーだったアポロ18はその責任を取る形で引退……』

『アポロ18好きだったんだけどな。ステスフィならその無念を晴らしてくれるって、信じてるぞ』


 その後、ギガキングが空席になった一位の座に座ったらしい。そして今、俺はそのギガキングから譲られ、一位になっている。

 ……重いな。これが日本最強の証か。先人たちの想いが詰まっている。


「そろそろ、お昼にしない?」


 雲の間に隠れていたサツキが出てきて、そう提案する。時刻は昼を少し回った頃。


「そうだね。結構なペースで進んでるし、休もうか」


 高所は地底に潜るよりも体力を消耗する。高山病のリスクや気温の低下に加え、魔物の襲撃もある。前者の環境の変化は魔法で対応できるが、肉体と精神の休息は重要だ。


 今回の探索は長丁場になる。セオリー通りなら無理せずに計画的に進み、達成したら糸で帰還。未達成でも危険を感じたら帰還がベストだ。


 だが、今回は世界ランクへの挑戦でもある。だから俺たちは踏破するまで、地上に戻らない。世界に見せつけるにはこれくらいのインパクトが欲しい。無論、サツキやスバルに何かあれば迷わず帰還を取る。


 全部、みんなで決めた事。基本的には不退転だ。


「はい、では今から休憩タイムなので皆さんもトイレ休憩に入ってね! 再開は一時くらいにかな?」


『おk』

『おつおつ』

『お疲れっす! 上に進むにつれて過酷になっていくので、ゆっくり休んで欲しいっす!』

『お前らもお疲れ。アーカイブで見てる人もお疲れやで』


 特徴的な口癖のコメントが流れていく。チヒロのアカウントだ。

 文字を打つ時まで統一しなくても良いと思うが、こちらとしては分かりやすいので助かる。


 俺は什匣アイテムボックスから調理道具とご飯の入ったおひつを用意。什匣アイテムボックス内に保存したものは鮮度が保たれるので、いつでも新鮮な食事を出せる。


 その間スバルは休憩場所の確認、サツキは周囲への注意を払っていた。


 空ノ立橋は吊り橋で雲海から雲海へと渡り歩くダンジョンで、普通の雲と違い歩く事が可能だ。ただ、スキル無しだと見分けはつかないので最悪、真っ逆さまに落ちる。

 俺も常に探知、探査系のスキルは広げているが、サツキの方が扱いに長けている。こちらが手を離せない間は彼女に一任していた。


 さっき倒した魚を包丁で捌き、魔法で呼び出した特殊な水で寄生虫もろとも綺麗に洗い流す。見た目や中身はサーモンに似ている。異世界でも食したが、味も完全にサーモン。おまけに特殊な効果があり、体力と魔力の回復効果もある。


 一匹丸々使った刺身を温かいご飯の上に、沢山盛り付けて完成! 


「お待たせ、出来たよ」


『お姉ちゃん、料理も出来るのかー』

『頼む、婿にしてくれ』

『いや俺がなる』

『お前ら寄生する気満々で草』

『やっぱ魔物料理のチャンネル、お姉ちゃんの複垢だろ』

『何それkwsk』


 あっれぇ……なんか、あのチャンネルの事バレてるんだけど……どうして?

 変装は完璧な筈なのに……。


「サ、サーモン丼!? お、美味しそう」

「ん。ボクも好き……」


 まあ、本人と明言しなければ大丈夫だろう……多分。

 俺は二人に丼を渡し、昼ごはんにする。


「いただきます」


 三人で声を合わせ、魚の刺身を口へ運ぶ。やっぱり味はサーモンだった。柔らかく、ご飯にピッタリの風味が広がった。


 サツキとスバルも幸せそうに食べている。作り甲斐があるってもんよ。魚一匹分を使った贅沢な丼だから、ダンジョンでの激しい運動で空っぽになった胃袋には染み渡るボリュームだろう。


「ダンジョンで食う飯も美味いよな。サツキと花火見た時もそうだったけど」


 ここはここで絶景だ。飛行機の窓から眺めるだけとはワケが違う。雲の上に乗り、時折雲間から見える東京の街並みや、広大な青空をボーっと眺望する。悪くない。


「……?」


 だが、その時微かな揺れを感じる。

 魔物……ではない。


「お姉ちゃん……これって」


 スバルやサツキも気づいたようだ。

 空ノ立橋は他にはない、独自の特徴をいくつか有している。


 そのうちの一つに、構造の変動がある。足場が雲だからなのか、このダンジョンは定期的に形を変え、激しく揺れ動くのだ。その際、足場は当然不安定になる。もし自分たちのいる雲が変動を始めたら、やるべき事は一つだけ。


「撤収!!」


 俺は調理器具を什匣アイテムボックスにぶち込み、丼片手に走り出す。サツキとスバルもその後に続き、次の瞬間には俺たちが休んでいた個所が崩れ落ち、消え去っていく。


「わ、わわわ!?」

「止まるな、走れ!」


 予め聞いていた現象なので驚いたり、慌てる必要はない。

 俺は食事を続けながら、既に見つけていた次の雲へ渡るための吊り橋へダッシュ。


「おっと!」


 走る弾みでずり落ちた刺身を箸で掴み取り、口へ放り込んだ。


「お、お姉ちゃんこの状況で食べるの!?」

「食える時に食わないとなー」

「ん。同意。この程度、中断するほどでもない」


 サツキも走りながら器用に醤油をかけ、食べている。


「あ、あれぇ? おかしいなぁ、アタシが間違ってるのかなぁ……」


『大丈夫、プレちゃんは間違ってないよ』

『あの二人がおかしいんやで』

『何でお姉ちゃんとアークちゃんあんなに落ち着いていられるんだw』

『確かに食える時にガッツリ行っとくのは大事っすね! 次食える保証は無いですし……』

『経験者は語る』


 俺たちは更なる上層を目指し、進んでいく――。

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