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六十三話 空ノ立橋



 一先ずチヒロは俺の家で匿う事になった。兄の死後、ずっと犯人を探し求めてホテルや旅館などを転々と渡り歩き、既に帰る場所は無いらしい。


 アイテムを収納する大容量のマジックポーチが彼女の全財産だという。そんな状態で外に放り出す事など出来る訳が無かった。最初は遠慮していたが母さんの熱心な説得によって折れ、今は自室でバグアイテムの鑑定をやって貰っている。


「終わったっす。あのおバカな二人組が持ってたアイテムは、大体ホウキさんの見立て通りの性能っすね。ただこの手帳はちょっと興味深い効果があったっす」


 デブが魔物を呼び出すのに使っていた黒い手帳だ。チヒロはその頁をパラパラと捲りながら、続ける。


「この手帳――『蒐集文庫』は魔物を取り込み、頁に記録するっす。一度記録すれば、何度でも呼び出せる能力があるっすね。ただ、それはあくまでもデータによる再現なので倒すと消えます。なのでドロップ品を乱獲したり、死体をかき集めたりっていう稼ぎは出来ないっす」


 街中で倒したゴブリンやグレーターデーモンが跡形もなく消えたのは、そういう理由だったのか。


「このジュエルケースは何なんだ? アジ・ダハーカを呼ぶ時に使ってたんだけど」

「それも似たような効果ですね。違うのは強力な魔物を使役できるという点っす」

「使役?」

「はい。要はポケ○ンっすね。命令すれば技を出したり、トレーナーの指示通りに動いてくれるってやつっす。あのおバカ二人組は全然、使いこなせてなかったっすが」


 使いこなせていたとしても、ホウキさんの圧勝ですけどね、とチヒロは付け加える。


「で……こちらが本命になるっすね」


 宝箱から出てきた漆黒の手甲と鉄靴。


「黒拳ブラキオンと黒脚スケロス。付与スキルは打撃系スキルの威力向上、移動スピード向上、身体能力向上、全属性耐性、全状態異常耐性、魔星拳アペイロン魔星脚テロス。呪いの類は無いっすね。バグアイテムの中でも破格のアタリ枠っす」


 つっよ……伝説の武器クラスじゃん。俺の持っている最高クラスの打撃強化武器より上だ。


「スバルさんにピッタリな武器だと思うっす。プレゼントしてみては如何っスか?」

「俺もそう思った」


 禍々しい見た目の割にデメリットは無い。ガントレットを失ったスバルに最適の武器になるはずだ。


「なんか、名前が聞こえたけど呼んだ?」


 ドアが開いて顔を見せるスバル。


「呼んだ。これ、新しい武器にどうだ?」

「どれどれ……おわっ、なんか呪いの武器っぽいけど大丈夫なの!?」

「安心するっす。生産者の顔つき野菜と同じくらい安全っす」

「何その微妙な例え方……お、なんかサイズピッタリだよ」


 手甲と鉄靴を装着したスバルは拳を握ったり開いたり、その場で軽くジャンプしてみたりしている。


「何か、身体も軽いし……これ、めっちゃ強い武器じゃない? こんな凄いの、アタシが貰って良いの?」

「もちろん。遠慮なく使って良いぞ」

「うん、これさえあれば……! イケる、イケるよ! ありがとう、お姉ちゃん!」


 飛びついてくるスバル。俺もそのまま受け入れ、メリーゴーランドよろしくグルグルと回ってみる。


「でも、大丈夫か? 無理してないか?」

「ううん。もうお姉ちゃんに一杯癒して貰ったから、ヘーキだよ。アタシも力になりたいんだ」

「そっか……なら、お姉ちゃんはもう何も言わないぞ」

「ふーむ。こういうシーンを撮れば良いんすかね」


 そんな俺たちに、チヒロはカメラのようなアイテムを向けていた。何を撮影してるんだ?


「それは?」

「あ、これは撮影したものを立体的に作り出す奴っス。こんな感じに」


 手元で何やら操作すると、俺とスバルが抱き合ったフィギュアが出てくる。無駄に精巧に作られていた。3D プリンターの超上位互換的な物だろうか。


「一時、これでダンジョンの魔物とか武器とかをフィギュアにしてマニアの方々に売って、路銀を稼いでました。意外と人気あったんすよ」

「へぇ……何でアタシたちを撮るの?」

「さっき、調整のために使ってたら宇佐美さんと出会いまして……効果を説明したら、お二人の尊いシーンが欲しい、と……」

「………」


 ……あの人。


「あ、もちろん嫌ならこの場で破棄するっすよ!?」

「うん。それはアタシが貰う」

「妹よ、お前もか」


 まあ、そんな感じで少しだけ賑やかになった我が家は穏やかな時間を過ごしていく――。




 父さんと政府役人の打ち合わせや段取りが終わったのは、一週間後だった。

 氷風大樹海と並ぶ日本最難関の未踏破ダンジョン『空ノ立橋』、その入り口となる世界一高いタワー、東京スカイツリー。


 以前、行ったランドマークタワーが290mくらいだから、それを二つ重ねてようやく届くかくらいの高さになる。


 ……途方もない高さだ。しかも地底に潜るスタイルのダンジョンとは真逆の、ひたすら上を目指し続ける構造になる。最上層はどれだけの高さになるかは誰にも分からない。


 現在の最高踏破地点は七十八階、地上から三千メートルの地点になる。


「……気をつけろよ。スバルも無理しないでくれ」


 今の俺たちはそのスカイツリーのテッペン、展望回廊よりも上にいる。突風に晒されるが、一応円形の土台のようなものが据えられていて、スペースは十分にあった。本来は避雷針やアンテナなどの機器類があるだけの場所だが、今は更に上へ向かうための吊り橋が掛かっていた。


 これが『空ノ立橋』の入り口になる。吊り橋の遥か先は巨大な雲海に飲み込まれ、見えない。


「もう、心配性なんだから。アタシには新しい武器があるんだよ!」

「分かってるよ父さん。スバルは俺が守る」

「うん。スバルちゃんにはもう、ボクたち以外誰も指一本触れさせない」


 日本最難関+全世界へのアピールとなるので、みんなと話し合った結果ステラ・スフィアーズの全員で挑むことに決まった。俺だけじゃなく、スバルとサツキの活躍や強さを見せつけ、議長国以外トップ10に選抜しないダンジョン連盟への風当たりを強くする名目だ。


 チヒロはあまり人前に出ない方が良い、という父さんの判断でバックアップに徹する事になっている。


「ふ、二人までそんな事言って! 少しは信頼してよっ」

「はいはい、じゃあ、配信始めるぞ」


 俺はドローンを飛ばす。続けてスバル、サツキも自分用のものを飛ばしていく。


「三、二、一……」


 配信開始のランプが灯り――。


「みんな、おはスター!! ステラ・スフィアーズのダンジョン配信、はっじまるよー!!」


 俺たちの挑戦が幕を開けた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 真理眼の詳細な鑑定能力だけでもう政府が保護しても良いレベルなのに、そうしないばかりか前話によるとロクに捜査もせずちょっと邪険にもしてたのね。 それとも鑑定能力は隠してたのかな。 迂闊に知られ…
[一言] チヒロの兄が殺されるぐらいの価値がある文字化けアイテムなのに それをノータイムで愛する妹さんに渡してるけど大丈夫なのか?
[良い点] 妹的にはお姉ちゃんとそういう関係に見られるのはOKなのか……w
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