六話 初コメント2
『ゲストさん、で名前合ってますか? チャンネル名がデフォルトになってて』
「あー、合ってますよ。名前考えたんですけど、何も思い浮かばなくて」
『そうだったんですね。今日は昨日と同じ場所ですよね?』
「はい。さっき、一体目の魔物の紹介が終わったところです」
『ああ、やっぱり……今日は来るのが遅れてしまって……』
やはり昨日見ててくれた人か。また来てくれるなんて、有難い限りだ。貴重な視聴者だから絶対に放さないようにしないと。
「アーカイブ残すんで、見直せますよ」
『ありがとうございます。感謝です』
仮令一人でも誰かが見てくれている。それだけで不思議とやる気が出てくる。
「えっと、そんじゃイエンジンの紹介を始めますね」
俺は豪快にバスケットボールくらいの目玉をそのままフライパンに放り込んだ。
「定番の邪眼系魔物です。低レベルダンジョンなので脅威度はありません。簡単に狩れます」
俺の左目が魔眼であるように、目玉に力を持つ魔物は普通にいる。特に高レベル帯では精神錯乱や深い催眠状態にしてくる奴も出てくる。実に恐ろしい魔物だが、食用に出来てしまうのだ。
「焼きます。ドロドロに溶けるまで」
カセットコンロの上にフライパンを乗せ、強火でひたすら熱する。身が厚く、中々火が通らないので思い切って焼いた方が程よく焼き上がるのだ。
「時間かかるので他の魔物も一気に調理しちゃいましょう。パパタンゴとハマドライアドです」
キノコに手足が生えた魔物、パパタンゴと葉っぱを茂らせた小型の樹木型魔物、ハマドライアド。見た目の通り、どっちもヘルシーな植物系魔物で炭水化物ばっか食ってる俺にとっての救世主でもある。
「パパタンゴ本体は食えないです。毒キノコです」
『政府でも食用可能って言ってましたが、こうしてみると普通に美味しそうですね』
「美味しいですよ。見た目でだいぶ損をしてますが、一度騙されたと思って食べてみてください」
なんせ食費ゼロだ。調理する面倒くささに目を瞑れば、最高のコスパだろう。
「えっと、それでパパタンゴ本体は毒ですが、こいつから生えてるキノコは食えます。このマツタケみたいなの」
傘の部分に生えてる小さなキノコを指差し、引っこ抜く。
「本体は毒なのに、なんでこっちは食用なのか気になりますが、よく分かりません。もしかしたらこのキノコは完全な別個体で、寄生しているだけなのかもしれません。味もマツタケです。こいつも焼きましょう。お勧めの味付けはバター醤油ですね。味無しでも素材の風味がして楽しめます」
手に持ち、炎魔法の微熱でこんがりと仕上げる。香りもマツタケに近い。齧るとパリパリと軽い口当たりだ。スナック菓子感覚で食べられそう。
マツタケモドキを皿に装い、完成。目玉焼きはまだ時間かかるだろう。
「今回のラスト、ハマドライアドです。葉っぱも食えるので、全部毟っちゃいましょう。レタスみたいにするのもヨシ、ネギみたいに刻んで細かくするのもヨシです。後は……」
フライパンを見るとイエンジンの目玉焼きも丁度、出来上がっていた。持参した自作のバター醤油を什匣から取り出し、振りかける。箸で目玉の部分を割ると、トロリと溶けた中身が出てくる。
摘まんで口に運ぶ。卵に近い味もするが、魚の目玉を食べた時のような食感も仄かに感じた。バター醤油のコクもいい塩梅にマッチしている。
白米も持って繰りゃ良かったなぁって少し後悔しつつ、ハマドライアドの葉っぱは細かく千切り、目玉焼きに振りかけた。滑らかな舌触りに、ネギみたいなシャキシャキ感もプラスされ、旨味がより引き立つ。
「はい、じゃあ今日の配信はこの辺ですね。ごちそうさまでした」
『乙です。明日もやりますか?』
「ですね。お楽しみに」
『はい。お疲れ様でした』
配信を終えようとした時だった。
「ん?」
バタバタと誰かが駆け抜けていく。撮影用の高価なドローンを三機も従え、一目でトップ層の配信者だと分かる。……こんな初心者向けのダンジョンに?
誰だかは知らんが、その人は俺には目もくれずそのまま走り去っていった。
「それじゃ、バイバイ!」
ちょっと気になるが、関係ないので俺は配信を終了したのだった。