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六十話 奇妙な少女


「こちらが、我がダンジョン研究所が誇る――宝箱の開封作業に使う設備です」


 白衣姿の所長に案内された部屋には、様々な機械や培養ケース等が並べられていた。

 その中に大型のグローブボックスが設置されている。これで安全に宝箱の開封作業が行えるという。


 今日はようやく最初の特異性落下世界アノマリー・ワールドで手に入れた宝箱の開封になる。宝箱がグローブボックスの中へ入れられると、併設されたディスプレイに数値やらグラフやらが示されていった。


「鑑定は行いましたか?」

「いえ、まだ何も手付かずです。ただ、フォニー系の魔物かどうかの識別と、宝箱に似せた危険物かどうかのチェックはやりました」


 フォニーとは、要はドラク○のミミック。宝箱に擬態し、誘われた人を食らう食人生物だ。無機物系に見えるが……実は食虫植物や貝類から派生した、れっきとした生き物の一種になる。

 なので食えるか食えないか、では食える。特に中身が美味い。ゲテモノだが。


「分かりました。では、作業を始めましょう」


 グローブボックスに直結されたゴム手袋を嵌め、所長が慎重に触り始める。


「……鑑定したところ、通常の宝箱との差異は認められませんね。材質も木材と一部金属が使われています。私どもの見立てでは、特に危険な兆候はありません。ホウキさんもご確認ください」


 【武器系宝箱】 危険度:無 強度:普 希少性:普 分類:宝箱

 武器が入った宝箱。罠、鍵無し


 鑑定で見ると、確かに普遍的で一般的な普通の宝箱だった。

 なら、やはり中身が気になる。武器が入ってるタイプのようだが……。


「……大丈夫そうですね。開封、お願いします」

「はい」


 所長が蓋に手をかけ、慎重に開けていく。蝶番の軋んだ音と共に開け放たれた中身は――。


「……手甲?」


 二対一組の黒塗りの手甲だった。どことなく禍々しさを感じさせる、鋭利で流線形のデザインだ。


「あとブーツも付いてますね」


 同じく漆黒の鉄靴。

 この雰囲気……呪いの武器か?

 俺は即、鑑定を行うも……。


 【繝悶Λ繧ュ繧ェ繝ウ】 危険度: 強度: 希少性: 分類:

 鑑定不能。


 【繧ェ繧ケ繝�が繝ウ】 危険度: 強度: 希少性: 分類:

 鑑定不能


 バグアイテムだ。俺の力ではどうにもならないが、所長も渋面になっている。


「これは……鑑定不能。件のバグアイテムとやら、ですか。……お手上げ、ですね」


 日本最高峰のダンジョン研究所でも無理なら、もう誰にも鑑定出来ないのではないだろうか。一応、あのデブから手に入れたバグアイテムも見てもらおうと思ったが……、駄目っぽいな。


「残念ですが、外国の研究所でも無理でしょう。我が国より先を進んでいる三国ならあるいは……、いえ、今のは忘れてください。国益を他国へ……しかも、超大国へ渡すなどあってはならない事です」


 つまり、どうにもならない。

 うーん困った。正直、手に余る。せめてリスクの有無だけでも確認しないと、危なっかしくて使い物にならない。かと言ってゴミ捨て場に遺棄するわけにもいかない。


「お力になれず、すみません」

「いえ、ありがとうございました」




 宇佐美さんが運転するレクサスで帰路につく。俺は後部座席に座り、助手席には特殊警察の人が座っている。背後の黒塗りのバンにも同じく特殊警察の面々が乗り込んでいた。


 何をするにもこんな感じに護衛が同行するので少々、大袈裟じゃないかと思うけど仕方ない。


「……ホウキさん」


 宇佐美さんの声がかかる。僅かに緊張を孕んでいた。


「どうしました?」

「あの、あそこに」


 彼女が車を端に寄せながら、ゆっくり走る。

 その先に、なんかやたらとこちらへ手をブンブン振ってジャンプしている女の子がいた。


「……なんだあいつは」

「ご友人、ではないですよね」

「知らないです」


 特殊警察の人もライフルに手をかけ、臨戦態勢に入っていた。無線で後ろのバンと連絡を取り合っている。


「突っ切りましょうか?」

「車には防御魔法を施してます。まず、止められないと思うのでそうしてください」


 なんせ、あれだけの事件の後だ。模倣犯や愉快犯が湧いてもおかしくないし、あるいはあの屑共と同類の可能性もある。

 ただ――一つ、気がかりなのは。


 敵意が無い。操られている気配もない。


 なら、ただの馬鹿か?

 分からん。


「待って欲しいっす!! お願いします!」


 車はそのまま彼女を横目に通過しようとしたが、窓を閉め切っていても分かるくらいの大声が漏れ聞こえてくる。しかも追いかけてきた。


 コイツ……正気か? こんな一目でヤバい車列に手を振るだけならまだしも、追いかけて呼び止めるって……。


 当然後ろのバンが停止して、特殊警官の方々が飛び出す。一斉に無数の銃口を向けられ、女の子は涙目で両手を上げていた。


「……宇佐美さん、止めてください」

「え、いや……危ないですよ?」

「大丈夫です。あの子に敵意はありませんし、何かしようとしたらその前に潰しますから」

「わ、分かりました」


 車が脇に止まり、俺はドアを開けて外に出た。すぐ後ろに警官も付く。


「ま、待って! ワ、ワタシは怪しいものじゃ……」

「あーはいはい。言い訳は署で聞きますから大人しくして!」

「おい、早くワッパ! ワッパかけろ!」

「暴れんな、暴れんな!」


 屈強な警官数名に制圧され、手錠を掛けられていた。アレはスキルや魔法を封じ込めるマジックアイテムの一種で、犯罪に手を染めた配信者や探検者に用いられる。


「……俺に何か用?」


 がっちりと腕をホールドされ、連れていかれそうになっている女の子に話しかける。

 鮮やかな翠の髪をポニーテールにして束ね、野球帽を被っていた。左の瞳は髪の毛と同じだが、右は金色に染まっている。強い魔力を放っているのでカラコンじゃない。俺の左目と同じ魔眼だ。


 服装は研究者みたいなサイズの合っていない白衣。下はセーラー服を着ている。見たことない制服なので、スバルの通う学校でも近辺のものでもないな。


「あ、あのあなたがコメットさんっすよね!?」

「そうだけど、君は?」

「ワタシは猫山チヒロっす! どうしても、何が何でもあなたに会いたかったです!」


 警官たちに囲まれてなかったら、飛び掛かって来そうなくらいの勢いだ。何が彼女をそこまで衝き動かしているのか……話くらいは聞いても良いかもしれない。


「もしかして、引っ越しの日に双眼鏡で見てたのも君?」

「やっぱり気づいてたんすね……いきなり、指差されてビビりましたよ」

「敵意が無いから無視してたけど、あまりああいう事しないでくれると嬉しいかな」

「ご……ごめんなさい。配慮が足らなかったっす……」

「そんな気にしなくて良いよ。俺に話でもあるのか?」

「はい。だけど……」


 チヒロは自分を掴む特殊警察や宇佐美さんを窺う。人がいると話せない事、か?

 とは言え、彼らも仕事だ。流石に二人だけで話したいとは言えない。


『……聞こえるか?』

「!?」

『魔法でパスをつないだ。心で念じるだけで会話できる。これなら良いだろ?』


 手錠は本人の能力を封じるだけで、外部から繋ぐ分には問題ない。


『……こ、こんな魔法もあるんすね。でもこれなら安心して言えるっす』


 意を決したように深呼吸するチヒロ。

 三回ほど行い、ジッと俺を見据えた。


『――コメットさんは、文字化けするアイテムを知ってるっすか?』

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