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五十七話 粛清


「……アジ・ダハーカが……負けた」


 空洞内は静寂に包まれていた。司会者もデブも何も言わない。奴らのコメントも沈黙していた。


「おい」

「ひ、ひえ!?」


 俺が声をかけるとデブは面白いほどビビり散らかす。


「さっさと次の魔物出せよ。それとももう打ち止めか?」

「う、あ……ガ、ガリル君!」


 俺と、ガリルとやらがいる方向を交互に見るデブ。


「ハ、ハハハハ! 流石、コメット選手! まさか我々が用意した魔物を全て打ち滅ぼすとは! 流石の強さ! 流石の戦闘力!! だが、それでも!」


 ボン、と黒い靄が地面から噴き出した。

 そこから、金髪痩身のチャラ男が姿を現す。そして、そいつにナイフを首元に突き付けられたスバル。奴の足元には跪かされた母さんもいた。


「どんなに強くてもなぁ! 人質には何も出来ねぇだろ! 大人しく武器を捨てろ!!」


 俺は男の目を見る。どす黒い、汚れた瞳。あの憑りつかれたオッサンと同じ目だ。

 そしてこの喋り方。


 間違いない。

 

 こいつだ。こいつが――家族を。


 母さんを、スバルを……。


 ずっと我慢していた怒りが噴き上がる。


 心の中はマグマみたいに熱く煮え滾る。


「テメェか――」

「おい、聞こえてんだろ! 武器を捨てて裸になれ、ヒャハハハハ――」

「テメェが、やったのかぁああああ――――ッッ!!」


 ドォン!! と俺は加速。

 一瞬で俺はクソ野郎の脇に回り込む。


「え――」


 そして呆けた奴の横っ面に死なない程度に加減した拳を叩き込んだ。


「オゴッバァアアア!?」


 血の線を引きながらクソ野郎は数メートルぶっ飛ぶ。


「あがご、あほぉがぁ!?」


 背中から落下した奴は自身の顔を抑え、転げ回っている。

 頬がパンパンに張れがってるからな。口の中もズタボロなのか、面白いくらいに血が零れ落ちていた。


「……そこで少し待ってろ」


 俺は一瞥し、スバルと母さんの口のテープをゆっくり剥がし、目隠しを取り除く。後ろの吹き飛んだ奴の惨状を見せないように間に立った。


「お、お姉ちゃん……お姉ちゃん……」


 眩しそうに眼を細め、すぐに瞳に涙が溜まっていく。


「ごめんな、遅くなって」

「う……グズ、うわあああ!!」


 俺に抱き着き、スバルは泣きじゃくる。その頭を優しく撫で続けた。


「ホウちゃん……」

「母さんも、無事でよかった」

「ううん、私は何ともないわ。でもスーちゃんが私を守ろうとして……」


 母さんの服は汚れていたが、怪我はしていないようだ。しかしスバルは全身ボロボロで、血の跡もある。家に残されていたガントレットの有様を考えると、必死に母さんを守ろうと戦ったんだな……。


「お前はよく頑張った。凄いよ、姉ちゃんの誇りだ」


 俺は抱き締めながら回復魔法を放つ。見る間に傷は癒えていくが、心の傷は消せない。どんな魔法でも、絶対に。この事件のせいで、俺の大切な人が傷つけられたんだ。


「お姉ちゃん……アタシ、アタシ……」

「うん、うん。泣け泣け。もう大丈夫だから」


 俺はスバルが泣き止むまで頭を撫でて、背中を優しく叩く。いきなり襲われて、こんな所に母さんと二人っきり。目の前には救いようのないゴミが二匹。


 どれだけの恐怖を味わったのだろうか。

 どれほどの苦痛を受けたのだろうか。


 そう思うだけで、怒りは高まるが……反対に頭は異様なほどまでに冷静だった。むしろ怒りで熱くなればなるほど、どんどん冷えていく。

 

 冷酷な感情が湧き上がってくる。


 異世界で魔物を殺しまくった日々の。


 虫けらを足で踏む潰す時の。


「……スバル?」

「泣きつかれて……眠っちゃったみたいね」


 俺を強く抱いたまま、寝息を立てるスバル。本当ならこのまま帰りたいが、そうは行かない。


「母さん、少し、ここで待ってて。この中から出ないで」


 魔法陣を二人を囲う様に描く。周囲の音と光景をシャットダウンし、リラクゼーション効果のある音と風景が流れる魔法だ。


 これから行う光景を、見せるわけにはいかない。


「ホウちゃん……?」

「すぐ戻るからね」


 スバルを預け、俺はクソ野郎共へ向き直った。


「あ、う……」


 へたり込んで失禁するデブと、まだ悶えてるエンターテイナー・ガリル。


「まずはその怪我、治してやるよ」


 俺は回復魔法で顔と口の負傷を治してやった。痛みが無くなったようで、座り込んだまま何度も自分の顎をさする。


「ど、どういうつもりだテメェ!」

「待ってろ。俺の配信を終えてから、な」


 追従する三機のドローンに向き直った。


「皆さん、ご視聴ありがとうございました。何があったのか、何が起こっているのか、分からないことだらけで混乱していると思います。しかし、今は一旦配信を中断します。後日、必ず詳細を伝えますのでどうか、もうしばらくだけお待ちください」


『わ、分かったよ』

『今回も凄かったけど、何が起こっているのか……』

『おk、待ってるよ』


 俺は電源をオフにした。


「ふぅ……じゃあ、始めようか?」

「――へ?」


 そのバカ面を、俺はつま先で蹴り上げる、


「うぐッア!?」


 ガリルはまた面白いように吹き飛んだ。今度は鼻の骨でも折れたのか、また顔が真っ赤に染まっていく。


「お前らってさぁ、よくこうやって見ず知らずの他人に喧嘩売れるよな」


 今度はデブに近寄る。弛んだ贅肉の胸目掛け、杖の石突きをブッ刺した。


「か、ッはぁ!?」


 それはデブの鳩尾にまともに入り、顔色を変えて悶絶する。


「少しは考えない? もし相手が殺人鬼だったらって。もし相手がサイコパスだったらって」


 そして俺は再び二人に回復魔法を施した。痛みが消え失せ、どちらも困惑と恐怖に染まった目を向けてくる。


「まあ、考えないか。考えないからこうなるんだし」


 今度は同時に、両者の頭に水球を発生させた。


「ガぼっ!?」

「ごぼぼぼッ!」


 顔の周りを手で掻きむしるが、ただの水だ。掴むことも拭う事も出来ない。

 大量の泡を吐き出し、白目を剥き始める。


 俺がパン! と手を叩くと水球が消えた。

 苦しさで咳き込む二人のために、再び回復魔法を与える。


「な、何がしてぇんだテメェは!? 俺たちを痛めつけるのか、治すのかハッキリしやがれ!!」

「両方だよ」


 俺の返答に二人は顔を見合わせた。


「はい、問題です。この世で一番過酷な拷問って何でしょうか?」

「………」

「………」


 無言。お互いに俺を見上げるだけだ。


「残念、時間切れ。正解はこういう事です」

「――あっづああああああぁ!?」


 俺が指を鳴らすと、今度は顔の部分だけ同時に火達磨と化す。轟々と激しく燃え盛り、数秒でこいつらの命は尽きてしまうだろう。


「あ、ぁあああああ!?」

「はいはい、一々喚かない」


 だから俺は回復魔法で治す。焼かれる皮膚が瞬時に再生され、燃やされ、再生され、燃やされ――、それを延々と繰り返し続ける。皮膚が、皮下組織が、骨が焼かれる感覚を無限に味わえる。激しい炎は顔の周りの空気すら奪い、口から入り込んだ炎が器官を伝い、肺にまで及ぶ。


 呼吸をすることすら、悲鳴を上げる事すら出来なくなる。

 それでも死ねない。魔法が損傷を癒し続けるから。


 ついでに苦しみに転げまわる二人のポケットからスマホを徴収。()()()()()()()()()()()()()


「じゃ、全身行ってみようか」


 俺は炎の範囲を拡大させる。火葬するような火力になるが、相変わらずこいつらはまな板の鯉のようにビタンビタンと元気よく飛び跳ねていた。

 もっと眺めていたいが、あまり過激にやりすぎると精神が壊れてしまうので中断する。まだ語ってもらう事はあるしな。


「一旦、休もうね」


 俺が魔法の水をぶっかけるとようやく鎮火する。当然、ガリルとデブの身体には火傷の痕跡一つない。

 が、服は言わずもがな燃え尽きている。治すのは肉体だけだからな。


「はぁ――、はぁ――……」


 ガリルは縋るような目つきで俺を見上げる。もう狂気じみたあの瞳はとうになりを潜め、ただの人間の目になっていた。


「極大の苦痛と瞬時の回復。俺はこれが一番じゃないかなって思ってる」


 魔王の城の場所を割らせるために、聖女の王国が実際にやっていた拷問だ。どんな屈強な魔物でも数分足らずで泣き叫び、死を懇願した。


「これで少しは分かった? お前らが誰に向かって喧嘩を売ったのか」

「……――っ、た、助けてください。ゆ、許して、許してください!! ご、べんなさい、お願いします!」


 涙を零し、鼻水を垂れ流し、両手を擦り合わせてガリルは謝り始めた。

 続いてデブも汚らしい泣き顔で土下座し始める。


「い、命だけは! どうか……、お金なら全部上げます! 上げられるものは全て、差し上げます!! お、お、お願いします……」


 情けない屑二人を俺はただただ無感情な目で見下ろし、それに尋ねてみた。


「――って、言ってるけどどうする? 投票よろしく」


 あいつらが使っていたドローンだ。こっちは今もなお、配信を継続している。


『殺せ』

『嬲れ』

『殺せ殺せ殺せ』

『ダサすぎだろ、こいつ等wwww』

『男のくせにピーピー泣いてんなよ、タマついてんのか?www』

『殺せ殺せ』

『情けな過ぎてこっちが泣けるwwww』

『ぶっ殺せ』

『きっしょ』

『殺す一択』

『拷問ショーキボンヌ』

『令和のスナッフビデオクルー?』

『DQNとキモオタのグロ動画とか需要あんの?w』

『男の裸体とか誰得だよオエッ』

『服着ろゴミ』

『こーろーせ、こーろーせ』


「――だってさ」


 しっかしまあ、こいつらのリスナーもリスナーだな。さっきまで俺を殺せだの、好き勝手ほざいていた癖に掌返しで擦り寄って来やがる。


「お、お前らぁ!! 俺はお前らのためにサイト作って盛り上げたんだぞ!? 俺はエンターテイナーだぞ!!」


 あんまりなコメントにちょっとだけ威勢を取り戻し、ガリルは吠えた。


『ならエンターテイナーらしく、盛り上げるために死ねよ』


 スパチャとは違うシステムのようだが、一つのコメントが大きくピックアップされた。


『それなwwww』

『たし蟹www盛り上がるための尊い犠牲、乙w』

『あれ、この人大口の人じゃんwww良かったな、ガリルwww』

『殺せ!殺せ!』


 いやはや……凄い世界だな。

 こんな腐り切った人間っているんだ。魔物よりも魔物してるよ、お前ら。


「ぐ、俺が死んだらこのサイトも閉鎖だぞ!? 良いのかよ!」


『別にいいよ。代替なんていくらでもあるよ、バーカ』

『自惚れんなって』

『言いたいことはそれだけ? じゃ安心して死んでね』


 コメントとレスバをし始めるガリル。


「はぁ……アホくさ」


 こんな奴らにナメられるなんて、俺も泣けてくる。


「ま……お前らももう終わりだけどな」


『おい、ガリル! テメェ、俺らの事も売ったのか!?』

『どうしたお前もいきなり』

『これを見ろ! 【URL】』

『……は?』

『何で俺らの利用履歴やコメントが顔つきで拡散されてんだよ!?』

『さっき、親が怒鳴り込んできた 泣かれてる。ふざけんなガリル』

『スマホも家の電話チャイムも鳴りやまねぇ……どうすりゃいいんだ!』

『全部ぶっこ抜かれてる・・・ガリルテメェ!!」


「な、なに言ってんだよ!? 俺はそんな事してねぇぞ!」


『ふざけんな! 管理人のテメェ以外、出来ねぇだろうが!』

『お前、絶対、どこまでも追い詰めてやる』

『免許証で認証取るってこういう時のためか……ナメやがって、お前!』

『明日会社に行けねぇぞ! 大事な取引があるのに!!』


 俺の左目は魔眼だ。無限の魔力の源であり、他にも多彩な能力を持つ。

 その中の一つ、魅了。相手を意のままに操る効果だが、俺のは無機物――機械にも通用する。

 さっきスマホを没収したのはそのためだ。スマホに魅了を施して操り、ガリルのサイトにアクセス。利用者の個人情報全てをブチ撒けた。


 掲示板、SNS、タブロイド紙の出版社、ダークウェブ、各動画サイト。全てに。


 こんなクソ野郎とつるんでるような屑共だ。無罪放免で逃げられると思ったか?

 お前らは別のやり口で追い詰めてやる。

 

「おいデブ、最後に答えろ。お前の持ってる手帳やケースは何処で手に入れた?」


 コメントと論争を繰り広げるのに忙しいガリルは無視し、デブを問い質す。


「そ、それは……変なゴスロリ女に貰ったんだよ」

「ゴスロリ女?」

「あ、ああ。今思うと、へ、変な奴だった。バグだとか、グリッチだとか……」

「……他には?」

「あ、あとはこれと、これかな。こっちは煙になって一定時間、他人の身体に入れる奴。こ、こっちはダンジョンの最上層と最下層を自由に行き来できるバグアイテムだよ。で、これが閉じ込めた奴のスキルや魔法を封じる檻だよ」


 真っ黒なコーンパイプのようなものと、黒いマンホールみたいな奴、後は小さい格子状の入れ物だ。


「………」


 俺はデブから全てのアイテムを没収する。まあ、後でじっくり調べよう。


「そいつの名前は?」

「わ、分からない! 本当だよ!」


 ポケットから六角を取り出し、無言で奴の太ももにブッ刺した。


「あ、くあ、どう、して!?」

「口から出まかせ言ったかどうかの確認だよ。もう一度聞くぞ。名前は?」

「し、知らない知らない知らないぃいいいい!!」


 ブンブンと涎と涙を撒き散らし、首を横にぶん回すデブ。きったねぇな。

 

 ……ま、スキルで嘘を言ってないってのは分かるけどな。まだバグアイテムを隠し持ってて誤魔化してくる可能性もあるし、やむを得ないんだ。

 泣き声がうるさいから、回復魔法で黙らせる。


「人数は?」

「そ、そいつ一人だよ! でも、仲間はいるかもしれない……! 『我々』とか言ってたから……」


 反対の太ももに一発打ち込みグリグリするが、やはり返答は一緒なので嘘じゃなさそうだな。


「複数いるなら、組織名とかあるだろ。あと目的」

「聞いてない、聞いてない知らない!! 僕たちはただアイテムを渡されて、好き勝手やれって言われただけだよぉ!! これさえあれば警察も自衛隊も怖くない、トップランカーの配信者にだって負けないって!!」


 俺は無言で六角を振り上げた。


「ま、待ってくれ!! い、一度だけ変な事を言ってた!」

「変な事?」

「グ、グリッチャー……って」


 脳裏に異形頭の姿が過る。やはりアイツラが……首謀者なのか?

 何で俺だけでなく、家族までも狙うんだ?

 特異性落下世界アノマリー・ワールドと言い、奴らは何を企んでいる?

 この奇怪なバグアイテムも奴らの産物なのか?

 

 こいつらに力を貸した理由も不明だ。


 何にせよ、早急に対策を考えないとヤバそうだな。


「ね、ねえちょっと待ってよ。それ、持っていくならぼ、僕たちも連れて行ってくれよね?」

「……はぁ?」


 何言ってんだコイツ。俺はタクシーじゃないんだが。


「だ、だってそうだろ! ここはギガキングでも来れない最下層なんだぞ!? 僕たちは、そのアイテムで下に降りてこれたんだ! それが無いと、帰れないだろぉ!」

「だから?」

「だから……って」

「知らねぇよ、お前らの都合なんざ」


 俺はデブを無視してスバルと母さんの元へ向かう。


「ふ、ふざけんな! お前、こんな事――」

「近寄ってくんな、気持ちわりぃ」


 いきり立って向かってきたデブに、俺は指先からレーザーを放って肩の辺りに風穴を開けてやった。


「あぐぅあ!?」


 後ろに倒れ込み、ゴロゴロ転がるデブ。もちろん回復魔法で治癒してやった。


「ああ、そうだな。餞別くらいはやるよ」


 俺はガリルとデブに永続する常時回復魔法をかける。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()


「じ、自力で、帰れって言うのかよ……」

「帰れる? アハハハ、面白れぇなお前。まだ生きて太陽拝めると思ってんの?」


 俺はある場所を指差す。ボス部屋の入り口となる壊れたゲートの部分で、黒い何かが蠢いていた。


「あのショゴス、実は生きてるんだよね。でさ、スライムって強い奴は強酸で人間を溶かして捕食するんだ」

「あ、……あああ……、ガ、ガリル君」


 全てを察したデブは、まだドローンとギャーギャー罵り合うガリルを呼んだ。


「ガリル君!!」

「うるせぇ、デブが! 俺今大事な話を……して」


 ジュルジュルと肥大化していくそれにようやく気付き、面白いくらいに青ざめていた。真っ黒な濁流は一瞬で残ったドローンを飲み込み、空洞内を満たしていく。


「なぁっ、ショゴスがまだ生きて……!?」

「バグアイテムも全部持っていかれた! 逃げられないよぉ!」

「お、お前、俺たちを、見捨てるつもりか!? さ、殺人だぞこれは!! 人気配信者がやって良いのかよ!? お前が俺らを嬲った様子は、アーカイブに残るぜ! あいつらが切り取って拡散するだろうよ! それが嫌なら助けろ!」


 おいおい、今度は人を犯罪者呼ばわりとは……とことん、救えねぇな。


「嘘をつくな。お前のサイトはアーカイブ残らねぇだろ。証拠隠滅のために、スクショすら出来ないように仕組んでるじゃん。直撮り対策で画質まで落として」

「ぐ……何故、それを!」


 スマホを操った時にサイトの仕様も把握できる。足がつくような機能はとことん排していた。それが仇となったな。


「でさ、どこが殺人なんだ? お前らは任意でダンジョンに入った。しかも立ち入りが制限されている、最高難易度のダンジョンに。入った時点で、全部自己責任なのはお前らでも分かんだろ?」


 日本国の法律で取り締まるのは殺人や暴行だけだ。魔物に殺害された場合は取り締まりのやりようがない。全て不運な事故で終わる。


「それに――」


 俺は今一度、二人を一瞥した。


「とっくに人なんて殺してるよ。何人も」


 盗賊、山賊、海賊、魔王崇拝の教団の信者、王国と敵対する帝国の兵士、将軍、――皇帝。

 今更、二人手にかけても何も感じない。しかもこんな屑野郎。


「う……あ……イ、イヤだ、し、死にたくない、死にたくないぃいいいいいいいい!!」

「大丈夫だ、死なないから。死ぬほど苦しいけどな」


 今やショゴスの全身は全体に広がりつつあった。

 早く出ないと、スバルと母さんが危ないな。


「お待たせ。ここから地上に出るよ」


 俺はワープ魔法で空間に外への出口を作り出した。バグアイテムは安全性が分からないから、使わないでおく。

 馬鹿二人の悲鳴がうるさいから、リラクゼーションの魔法は継続して二人に施してある。


「た、助けてくれ!! 頼む、頼む! この通りだから、お願いします! ゆ、許して……」


 ショゴスの黒い海に囲まれたガリルとデブが発狂したように泣き喚いていた。


「じ、自首します!! 自首しますから、全部警察に話しますからぁ!! 見捨てないでぇええええええ!!」

「もう悪いことはしません、真面目に生きます! お願いしますぅうううううああああああ!!」


 恥も外聞もかなぐり捨てて、恐らく本気の本心に近いかもしれない謝罪を吐き並べる。

 でも俺の心には微塵も響かないし、むしろ余計に不愉快な気分になるだけだった。


 謝って済むと思っている時点で何にも分かっちゃいない。


「これが俺の()()()()()()()()()だからなぁ。申し訳ないけど、()()()()()()()に協力してくれ」


 そう言い捨てて、俺は外へのゲートを潜り抜けた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 最後の一線は越えない主人公もそこそこ居ますが、甘い事をして小物に大事なものを傷つけられるくそ甘い主人公ムーヴとか最高に胸糞悪いのでさっぱりと処分してくれてよかったです。
[良い点] スッとしたw こういうのでいいんだよ [気になる点] しかしこれサツキちゃんとデート配信(?)中に発生したからサツキちゃんが知ったら気にしそう……
[一言] 処し方が酷いってコメントもあるんだろうけど、世の中どんなにどうやっても反省しないどうしようもないクズっていますからね。 どんな酷いことを平然とやっても何とも思わないどころか、自分は何も悪くな…
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