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五十四話 最速攻略


 時は少し遡り――。


 果てしなく続くと思われた地獄穴の底へ到着した。ごつごつとした岩ばかりの狭い穴から出ると、そこには巨大な空間と樹海が広がっている。

 周囲の光源は恐らくギガキングが攻略の際に設置したと思われるが、それでも全体を照らし切るには力不足だった。


「さて……チンタラ探索してる暇はないからな」


 床をぶち抜いて一直線に落下していく事も考えたが、落盤を誘発するかもしれないので止めた。かと言って、慎重に歩くつもりもない。


「一気に駆け抜けさせてもらうわ」


 俺は首や指の骨を鳴らし、軽く身体を整える。手足をほぐし、肩を回す。最後に何度か小さくジャンプした。


七手八脚マキシマム・フルゲイン!」


 ゴォ、と全身から噴き上げる虹色のオーラ。スバルが見せた星脈活星・金牛ブーステッド・タウラスを超える肉体強化魔法だ。


 全能力百%上昇。これであらゆる敵、罠を強引に突破し最速で駆け抜ける。下層へ下るための階段はスキルでナビゲートするだけだ。ヒルデグラムほどのマッピングは無理だが、これでも十分に役立ってくれる。


「さあ、行くぞ。クソ野郎」


 俺はクラウチングスタートを切った。

 足の踏ん張りだけで地面が吹き飛び、前傾姿勢のまま一気に加速した。




 目の前にある大木をなぎ倒し、岩があれば粉砕し、並み居る魔物は大型トレーラーに跳ね飛ばされた人のようにミンチと化す。時速は何キロだ? まあ、リニアモーターカーとかけっこしても負ける気がしねぇけどな。


 一歩一歩踏み出すごとに加速する。罠が作動しようが、それが俺の身体に当たる前に駆け抜けていく。当たったところで状態異常耐性が完璧に跳ね除けるだけだ。

 俺は十秒足らずで地下一階の大迷路を突破し、二階へ突入する。二階も同じく大樹海が広がっていたが、光源の数は減っていた。


 俺はすかさずスキルで次の階層の階段を割り出す。エコロケーションのように広がりゆく音波が正確に測位を行い、その結果に従って爆走した。


 だけど……このペースでも駄目だ。遅すぎる。


 氷風大樹海はギガキングが地下49階まで開拓している。逆ランドマークが地下70階であることを考慮しても、100階くらいまではあるかもしれない。

 今のペースでは駄目だ。足りない。


 なら――。


重速時烈ソニックバースト!!」


 時計のような魔法陣が掛かり、周囲の時間が鈍化。その中で俺だけが更にスピードが倍加された。

 エクストラスキルを使わずに、今の自分が出せる最速最大の速力だ。複雑化した二階を一階の半分の時間で駆け抜ける。


 地下三階。相変わらず樹海だ。だが、この階には確か……。


「あった!」


 樹海の草むらの中に隠された穴。下層へのショートカットだ。ギガキングは危険性を考慮し、一度も使わなかったが俺にとっては最高の近道になる。


 躊躇わずに飛び込み、落ちる。ゴォオオ、と風切り音が物凄いが今のスピードを考えれば仕方ない。多分、天使の羽で飛んだ時よりも速い……と思う。


 地面が見えて着地。ドスン! と降り立つ。

 ここは何階だ? スキルが視界の脇に示した数値は――地下50階! ギガキングの最高到達地点を更新したようだ。こんな状況では嬉しくもなんともないし、配信もしてないので無効記録だろう。


「グルル!」


 周囲は樹海から一転、灼熱の炎の空間だった。流れ落ちるマグマが岩肌を赤く染め上げ、どす黒い平らな土台の上には一匹の三つ首の犬が鎮座している。


「ケルベロスか……」


 悪いが相手をしている暇はないんでな。


「ゴガアアア!!」


 疾走してくる俺を見て、三つ首が吠えた刹那。


「!?」


 パァン! と乾いた音が鳴り響いた。

 ケルベロスの顎が三つともほぼ同時に跳ね上がり、砕かれた牙が吐血と共に舞い散る。

 六つの目が一斉にぐるり、と白目を剥き、巨体が傾いでいった。


 なんてことはない、三つの顔にアッパーカットをぶち込んでやっただけだ。

 自分に何が起きたのかも理解できないまま、地面に沈む犬を無視して俺は階段を飛び降りる。


 地下51階。

 この先、近道があるかは分からない。

 階段を見出し、また最短距離で駆け抜ける。だが、これだけのスピードなら最下層まで時間はかからないだろう。


 暫くひたすら下り続けていると、探知スキルが大きな魔物の存在を捉え始めた。

 門番か? 今の階層は……地下92階。やはり100階で打ち止めだろうか? 

 何にしても終わりが見えてきたな。


 邪魔なオリハルコンのボディを持つゴーレムを砕き、100階へ降り立った俺の目の前に真っ黒な粘液の海が広がっている。


「何だ?」


 いや、ただの粘液じゃない。蠢ている。

 そこから血走った大量の眼玉が盛り上がり、俺を睨みつけてきた。


「ショゴスか……」


 スライム系魔物の王にして頂点。初級冒険者に狩られまくるような脆弱さは何処にもなかった。

 

 ――が。


 何度も言う通り、俺は遊ぶつもりはない。

 申し訳ないけど、一瞬で終わらせてやるぞ。


「テケリ・リ!!」


 どこに発声器官があるのか表現し難い鳴き声を迸らせ、粘液の海が波打ち、真っ黒な濁流となって襲い掛かってきた。


「冷徹に、冷酷に、冷厳にいざ来たれ、白銀の断罪! 弥終の氷河に眠れ! 極地光オーロラポラー!」


 すかさず俺は魔法を放つ。青白い魔法陣が俺の足元から拡大し、階層全域に及んだ瞬間。

 絶対零度の冷気が爆発のように振り撒かれる。


「砕け散れ」


 俺は掌を閉じる。一瞬で凍てついたショゴスの身体もその言葉に従い、ガラスのように粉砕された。

 大量の氷の破片が滝のように落下し、俺はその中を悠々と進んでいった。


 こいつは……一応スライム系だし、食えるんだろうか?

 いや、今はそんなの後回しだ。


「テ、ケリ・リ……!」


 だが、流石に門番にしてスライムたちの王なのか。

 辛うじて生き残った部位が蠢動し、再生を始める。同時に触腕のように伸びた粘液が俺の右の手首に絡まった。


「おい、何のつもりだ? 離せよ」


 馬鹿が、邪魔をするなよ。


「フン!!」


 俺は右腕を力任せに動かす。


「!?」


 恐るべき再生速度で既に小山のような大きさを取り戻しつつあったショゴスを引き寄せ、俺はそのまま勢いに乗せるべく、鎖鎌の分銅のように頭上でブンブンと旋回させた。


「折角だ。お前があの扉、ぶっ壊してくれよな」


 ボスに通じる、大仰な装飾が施された両開きの扉へ。

 俺はショゴスをぶん投げた。


「テケ……!」


 ブオンと飛んでいく質量の塊。石造りのドアは余裕で破砕され、物凄い轟音と衝撃が巻き起こった。


「――お姉ちゃん、アタシたちはここにいるよ!!」


 そんな中で、俺の耳は確かにスバルの声を聴く。

 ビンゴだったか。

 つまり、この先にあの野郎がいるって訳だ。


 覚悟しろよ。

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