五話 初コメント
長くなり過ぎたのでいったん区切りました
すみません
どんなに強くても。どんなに有名になっても。地球ではそのネームバリューは全く役に立たない。什匣には、異世界の通貨も入っている。向こうにいたら遊んで暮らせる額だ。
何で俺、地球に戻っちまったんだろうな……ああ、そうか、妹と家族の様子を知りたかったんだ。でもいざ、会おうと思ってもこんな身体になって、なんて言えば良いのか分からなかった。信じて貰えないどころか、警察やら何やらに通報されたら目も当てられない。
「……ふぅ」
配信時間だ。愚痴を飲み込み、再び開始する。
「えー、こんばんは。ゲストです。今日も前回と同じダンジョンですが、今回は地下二階です」
並べられた魔物の死骸。今日はゲテモノはいないから(当社比)、少しは視聴者増えて欲しいなー。
「右からアント・ポーン、イエンジン、パパタンゴ、ハマドライアドです」
アント・ポーンはデカいアリの化け物。いわゆる働きアリで、見た目は黒アリだがケツの先端に更に球体の膨らみがある。その正体はストレイ・ハウンドと同じく素嚢だが、異常に発達している。
「これは素嚢です。あまりにもデカく発達したので、多分体外に押し出されたのでしょう。中身は濃厚な蜜で満たされてます。ただ、問題点もあって……」
解説用に確保しておいたもう一体のアント・ポーンを見せる。
「気を付けないと、素嚢内部に傷がついて体液や血液と混ざってしまって、台無しになります。はい、こんな感じに」
ナイフで裂くとドロリ、としたヘドロ液みたいなのが出てくる。凄まじい臭気だ。マスクして正解だった。見せ終わったら、さっさと遠くへ移動させる。料理配信には良くない臭いだ。
「安全な倒し方は首狩り一択です。一発で跳ね飛ばしてやりましょう。成功すると、濃厚な蜜がゲットできます。醸造されててくっそ甘いですよ。そのまま飲んでも大丈夫です。あ、あとナイフで切り取る時も注意してくださいね。切り方はこんな感じで、素嚢と胴体がくっついてるくびれの部分を切るだけです」
俺は切り取った素嚢にストローをトスっと刺す。濃厚で甘ったるい蜜が優しく舌を包み込む。アイスクリームや果物の味付けにも使えそうだ。
「そしてお次は――」
巨大な一つ目の魔物を紹介しようとした時だった。
『こんばんは。昨日の配信も見てました』
読み上げソフトが初のコメントを読み上げる。
マジか!? ついに初コメ!? よっしゃ!!
「こんばんは! ありがとうございます!」
昨日もって、まさかこの人が同接一人の? うわ、めっちゃ嬉しい。