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五十二話 百号ダンジョン


 スバル……父さん……母さん……!

 俺は縋るように家に辿り着き、ドアを開ける。


「っ!」


 電気をつけると惨状が露になる。

 家中、荒されていた。いつも母さんが綺麗に掃除していた家は見る影もない。


「父さん!! 母さん、スバル!!」


 俺は片っ端から部屋を探し回る。どこの部屋もめちゃくちゃになっていた。

 どうして、どうしてこんな事に……!


 リビング、台所、風呂、トイレ、寝室……どこを見ても、誰もいない。


 嘘だ、嘘だ嘘だ!!


「……はぁっ……!」


 そして、スバルの部屋。

 何かと戦った痕跡がまざまざと残され、特に酷く壊されていた。


 そこに激しく損壊したガントレットが落ちていた。傍には、俺が渡した青の洞窟の水が入った小瓶が砕かれ、水たまりになっている。


「……ッッ!!」


 俺はそれを掻き抱き、歯を食いしばる。

 やっと、やっと家族みんなと再会できて、これからだってのに、俺が有名になったからってそれを奪うのか?

 有名だから仕方がない、と受け入れろというのか?

 

 酷すぎる。

 俺たちが何をした?

 何で、奪うんだ?


 それとも俺が悪いのか? 

 有名になんかにならず、ずっとあのアパートで息を潜めているべきだったのか?

 スバルに正体を気づかれた時、何も言わずに逃げ出していたら良かったのか?


 ――そんな訳ない。


 父さんも母さんもスバルも俺を必死で探していた。

 その想いを無視して、良い訳が無い。


 そうだ。やるべき事は決まっている。


 あいつは潰す。

 

 それだけだ。


 今はそれだけを考える。


「ホウキ!! 母さん、スバル!!」


 その時、玄関から聞きたかった声が響いた。


「――父さん?」

「ホウキか!? どこだ、どこにいる!!」

「二階に、いる」


 ドタドタと足音がして、父さんと宇佐美さんが部屋に飛び込んでくる。


「こ、このありさまは……」


 部屋の荒れ方を見て、父さんは愕然としていた。宇佐美さんも口を手で抑えて、茫然としている。


「ホウキ、一体何がどうなってんだ? 母さんとスバルは? 何故、家がこんな事に」


 父さんは俺の肩を掴んで揺する。そして腕に抱くガントレットを見て、目が見開かれた。


「……嘘だろ?」

「社長……ホウキさん、一体何があったのですか?」




 俺はリビングで起きたことを全て話す。話している間、二人は一言も話せないくらい唖然としていた。


「やたら警察車両が走ってたのも、それが原因か……」


 先までの静けさはなくなり、ずっとサイレンの音が鳴り響いている。


「俺は父さんも家にいるかと思ってた」

「お前がこの前、話してた宝箱の開封作業に使う施設の予約が取れそうでな。その打ち合わせを役人連中としてて遅くなったんだ。それが終わって家に電話したら母さんが出て……悲鳴がしたんだ」


 それで宇佐美さんを伴って慌てて戻ってきたという。


「これは最早、国家に対する挑戦です。テロ行為……いえ、侵略行為です。街中に魔物を放つなど、許す許されないの次元を超えています! 社長、すぐに自衛隊の特殊作戦群に要請を出しましょう!」


 父さんは力なく首を横へ振った。


「……出した所で、百号ダンジョンだ。あのギガキングでさえ、攻略は半ばで止まっているんだ。日本最強の男でもダメな場所に隊員は送り込めん。犬死するだけだ」


 百号ダンジョンは世界的に見ても屈指の大迷宮になる。

 あのクソ野郎はどうやって最下層まで行けたのだろうか?

 もしかしたら、口から出まかせを言った可能性も十分にある。だが、他にアテもないのでそこへ行くしかない。


「父さん、俺が行くよ」

「――……」


 顔を上げた父さんが何かを言いかけ、飲み込むように口を閉ざす。


「そう、だな。お前しかいないよな」

「ああ。俺があのクソ野郎をぶっ飛ばしてくるよ」


 それに、あいつは俺の獲物だ。誰にも邪魔はさせない。


「し、しかし百号ダンジョンは富士山の鳴沢氷穴がアクセスポイントですよ? ここから車を飛ばしても、二時間弱はかかります」

「問題ないです。直線距離でぶっ飛ぶなら、丁度いい魔法がありますから」


 俺は椅子から立ち上がる。

 ……時間が惜しい。一刻も早く、スバルと母さんを助けに行かないと。


 家の外に出ると、相変わらずサイレンが何重にも重なって木霊していた。自衛隊のヘリまで飛んでいる。


「ホウキ……気をつけろよ」

「うん。父さんと宇佐美さんも、気を付けて」


 俺は目を閉じ、魔力を練り上げる。

 背中から天使の両翼が草木のように芽吹き、ふわり、と羽ばたいた。


「天使の、翼……?」


 異世界で天使から授かった翼だ。本来なら自由に空を舞うためのものだが、扱いが滅法難しくて未だに使いこなせない。長距離を最大速力で飛ぶだけで精一杯だし、一度加速したら中々止まれないのもタマに瑕。

 

 だが今だけは、コイツの足の速さに感謝しよう。


「じゃあ、行ってきます」


 俺は地面を蹴り、夜空へと一気に急上昇していった。

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― 新着の感想 ―
[一言] よくある展開ではあるけど、レンジ外から荒らされていく光景は何ともしがたい不快感を感じますね。家族を踏みにじられているし、此処からスカッとする展開になれるのかどうか。
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