四十九話 二人きりの花火鑑賞
「出来た」
サツキが鍋からパックを取り出し、封を切って皿に盛りつける。底が深い皿なのに溢れんばかりのソースが零れ出た。
「ご飯もあるよ」
飯盒を二つ、取り出すと既にホカホカに炊かれたご飯が詰まっていた。
「持ち帰りでも目玉焼き付きなのもポイント高いよな」
「うん、同意見」
出来るなら毎日、これを食べたいくらいだ。まあ母さんの手料理も負けてないけどな。
「それじゃ――」
「………ん」
「「いただきます」」
ナイフで分厚い肉を切り、ソースをたっぷり絡ませる。
口に運び、噛み締めると肉の味とソースのコクが絡み合い、無限大の美味さを感じた。
「……そろそろ、かな?」
腕時計を見るサツキ。
「何が?」
「まあ、見てて」
俺はご飯をかき込みながら、サツキに倣って夜景を眺める。
すると――腹の底に響く音と共に、夜空に花火が上がった。
「あ……そういや、もうそんな時期だよな」
「うん。だから今日が最高にベストのタイミングだった」
次々と打ち上がり、様々な色に輝く大輪の花。遮るものも、人混みもなく。
「……良かった」
「え?」
「コメットちゃん、ダンジョン入る前からずっと浮かない顔だったから、笑顔になった」
「……ああ。誘ってくれてありがとうな」
サツキと並んで食べるご飯はカクベツで。
この瞬間だけは、心の底から楽しんでおこうと思った。
花火大会が終わる頃、帰り支度を始める。
俺も片づけをする中、先程手に入れたスライムのシャーベットを思い出す。
「さっきのスライムのシャーベットがあるけど食べる?」
「うん、食べる」
「味は何が良い?」
「赤色」
凍ったブロブのコアを取り出し、氷魔法で冷やしてから渡す。ブロブのコアは球形のスライムのコアと異なり、チューペットアイスみたいに縦長になっている。ポッキーみたいにポリポリ食べるのが通だ。
俺はソーダ味の普通のスライムにする。爽快なソーダ味が今の季節にピッタリだった。
洗い物を水で軽くすすぎ、まとめる。隣ではサツキがキッチンペーパーで水気を取り、ポーチにしまっていく。
「……ふぁ」
「ん?」
肩に重みを感じ、見るとサツキがシャーベットを咥えたまま舟を漕いでいた。
……もう良い時間だしな。
起こすのも酷だ。
「ヒザ、枕にしていいよ。洗い物はやっておくから」
「ん」
ボフ、と俺の膝の上にサツキの頭が乗る。甘い匂いがして、思わず生唾を飲み込む。
「……さっさと終わらせよう」
俺はなるべく意識をしないように、そそくさと洗っていく。
お陰ですぐに片付いたのだが、本格的に寝入ってしまっている。
「……どうするか」
起こせば良いだけだが、どうにも気が引ける。
「……パパ」
身動ぎしたサツキが呟く。先程の話をしたせいだろうか、苦しそうに顔を顰めていた。
俺は頬を優しく撫でて、耳元で小さく囁いた。
「俺はここにいる。安心して眠って」
「うん……」
まあ、ここはヒミツの場所だし人は来ない。魔法で入り口を一時的に封鎖すれば安全だろう。
一先ずこのまま起こさないようにするか。
次でキリの良い50話目なので、19時にもう一つ投稿します




