四十六話 お誘い
帰宅後、俺は父さんに伝える。毎度毎度、配信をやるたびに何か事件に遭遇している気がするのだが、俺はTS以外の呪いも受けているのだろうか。
見た事、聞いた事を余さず話すが進展はない。撮影した動画が入ったメモリーカードを渡し、後は全て父さんに一任するしかなかった。
「ギガキングやクインと遭遇した事態なら、もう我々だけで完結できる内容ではないな。バシレイアとも情報を共有し、対応に当たるしかない」
……最近父さんは疲れた顔をしている。様々な問題が山積みだからだろう。本当は心労を増やすような報告はしたくないが、黙っているわけにもいかない。一日くらいはゆっくり休ませる方法があれば良いが……。
「父さん、余り無理はしないでくれ」
「ああ、心配するな。この程度は昔に比べれば屁でもないぞ」
一体……この世界で何が起きているのだろうか。
俺は拭えない胸騒ぎに、嫌な予感を覚えずにはいられなかった。
スマホを片手に電話を始めた父さんの邪魔にならないよう、俺は自室に戻る。キャスター付きの椅子に座り、勉強机に頬杖を突き思考する。
欠陥構造体、グリッチャー。バグから生まれ、バグを生み出す者。あいつはそう言った。
特異性落下世界があいつらを作ったのだろうか?
いや、特異性落下世界は魔王の副産物だ。じゃあ魔王が? 違うな。もしそうなら奴はグリッチャーを戦力化し、配備したはずだ。あれだけの戦力、放置するわけがない。少なくとも魔王は知らなかったんだろう。これは断定して良い。
多分、俺たちの与り知らぬところで生まれ、密やかに活動してきたんだ。静かに息を潜め、大木が根を張り巡らせるように方々へ……。光でも闇でもない、狭間のバグ世界からずっと……。
でもヘカトンケイル関連の事件は、冷静に考えると関係があるように思えなかった。
あいつらが海賊版の非正規ドローンを使うか? どう見てもそんなものに頼るような存在じゃない。
……こんな危険行為をやる奴など見当もつかないが。やったところで誰が喜ぶんだ? ダンジョン内だろうと日本国内である以上、日本の法律は適用される。迷惑行為は無論、殺人や暴行は重い罪になる。
例外になるのは、アイテムや財宝などの取得物関連や魔物との交戦と言った、ダンジョンに関わる行動だけだ。
「……ふぅ」
グリッチャーだけじゃなく、人間にもきな臭いのがいる。
この世界も中々修羅だ。
ぐてっと机に突っ伏し、思考を放棄していた時だった。
『ん、これで良いのかな……? ホウキちゃん、聞こえる?』
「ンお!?」
いきなりサツキの声が聞こえる。ガバっと飛び起きたが、当然自室にいるのは俺だけだ。
イヤだ……心霊現象!? おいおいおいおいおい、俺幽霊とかニガテなんだよ。昔、なんかの番組で二枚の写真で馬鹿でかい顔になる心霊写真見て、生涯のトラウマになったんだよ。勘弁してくれ……。
『もしもーし』
「ふわっ、まだ聞こえる!」
俺は探査スキルを全力で全方位に打つ。潜水艦の探針音みたいな音が拡散していき、すぐに原因が特定された。
「み、耳……?」
左耳に恐る恐る手を伸ばすと、ピアスが指先に触れた。
そうか、これだ!
『あー、聞こえるよ。ホウキだ』
この前、サツキに上げた貝殻のピアス。離れていても会話できるアイテムだ。
『良かった。有効な距離が分からなかったけど、最低でも数十キロは圏内だね』
『今どこにいるんだ?』
『用事があって東京にいる。今、帰ってる所』
俺の家は横浜市内だから、東京の新宿だと40km前後はある。
……凄いアイテムだな。
「明日が終業式でボクとスバルちゃんは夏休みになるんだけど、夜の予定空いてる?』
『特に何もないぞ』
あー、もう夏休みか。今日の配信でもリスナーさんが言ってたな。
『良かったら、一緒にダンジョンに行かない? この前の見せたい場所。明日の夜が一番いいタイミングなんだ』
あれか。断る理由はない。
『良いよ。やろ』
『うん、ありがとう。じゃあお休み』
『お休み』
通話が切れた。見せたい場所って何だろう? 気になるな。サツキは探索スキルでダンジョンのヒミツの入り口を探したりもしてたし、きっと凄い場所なのでは?
明日が楽しみだ。




