四話 同接1人
日が暮れ、夜になる。もう夜に活動するというルーティンが出来上がってるので、今までと同じく配信は夜間にすることにした。安っぽいミリタリー柄のヘルメットにガムテープでスマホをセット、配信を開始する。
「……えー、見てる人がいるか分かりませんが、こんばんは、初めまして。ゲストです」
アカウント名も考えたが何も思い浮かばないので、一先ずはデフォルトのまま。他の配信者のネーミングセンスが羨ましい。
「このチャンネルでは、食える魔物の紹介をします」
俺は軽く趣旨を説明する。
異世界での経験と数々の魔物の死体を渡してるうちに、自然と効率のいい解体のやり方、食える奴と食えない奴、その他豆知識が増えていった。それを色々解説したら良いんじゃないかなって。
幸いダンジョンの魔物と異世界の魔物は共通点が多い。何なら完全な同種も存在する。
「知っての通り、魔物料理は人気がありません。なので少しでも皆さんが興味を持ってくれたら幸いです」
厚生省と消費者庁も魔物の食用は可能との見解を出している。だが率先して食べてる人はいなかった。見た目は悪いし、わざわざ魔物を調理する手間を考えれば市販の食材で十分だろう。
故にそこが狙い目立った。
ジャンルが被ると、ライバルはチャンネル登録者何十万も持つバケモンたちになる。そんな奴相手に勝てる魅力、視聴者を惹き付ける強みを出すなんて無理だ。
だから狙うべきはまだ未開拓のジャンル、人気が薄いジャンルだ。それはそれでイバラの道だがやるしか無い。食い扶持がかかっている。
「えー、それでは今日の成果を紹介します」
スマホのライトを照らし、予め仕留めておいた魔物たちを見せる。
「分かるかと思いますが、右からゴブリン、スライム、ストレイ・ハウンド、辛々豚になります」
メンツはどれも初級の魔物ばかり。流石に無免許で高レベルダンジョンで配信する胆力は無い。初級のダンジョンならライセンス無しでも入れるのが救いだった。
「で、いきなりなんですが、ゴブリンは食えません。いや、食えますがゲロマズです。ドブみてぇな味です。病気になるかもしれないので、皆さんはやめましょう。でも一ツだけ、良い所もあって――」
俺はごつい使い捨ての手袋を付けた手で、ゴブリンの顎をゴキン! と外して開けっ広げる。
「ゴブリンって実は仲間同士でも争う事が多々あって、殴り合いになります。その時良く牙が殴られてすっ飛ぶので、大体はそのままにしてますが、中には金歯を詰めてる奴もいます。……はい、こいつも差してますね」
俺は金色に光る奥歯を指差す。それをペンチで引き抜き、パケ袋にしまう。
「回収業者の人も気づかないで持ってっちゃうので、面倒でもゴブリンの口の中は確認した方がお得になるかもしれません」
俺はゴブリンの死体をどかし、隣のスライムへ移る。
「スライム……と言うか、スライム系は倒すとこのような核になるのは、まあ、皆さん知ってますよね」
スライムはブヨブヨした粘性の魔物だ。絶命すると、核だけを残して溶けてしまう。普通ならこの核は売る以外の目的はない。
「これは食えます。ゼラチンみたいな食感です。あとスライム系って色がありますよね? その色で味が変わります。こいつは青色の一番弱い雑魚なんで、ソーダ味です。冷やして食うと、シャリシャリしてますね。美味しいです」
俺は飴玉サイズの核を氷魔法で軽く凍結させ、口に放り込む。ひんやりとした冷たさと、暑い時期にピッタリな爽やかなソーダの味が広がっていく。
「次はストレイ・ハウンドです。まあ、犬ですね。食えますが、肉は硬くて筋張ってて煮ても焼いても美味くありません。狂犬病は無いです。でも代わりに……」
腹部の辺りにナイフを差し込み、切り開く。年齢制限は掛けてあるのでBANの心配はいらない。
「こいつらは常に飢えてて、一部手に入れた食い物は非常食として消化されず、体内の素嚢に保存されます」
中から出てきたのは、地上では見たこともない木の実が数個。ダンジョンで群生してる奴だな。あとは後述する辛々豚らしき肉の塊。
「その際、鮮度を保護するために薄い透明の被膜に包まれます。消臭成分も含まれているので、肉類の臭いも消えます。この被膜ごと蒸すと、ボイル焼きになってくっそ美味いです」
今度は炎魔法でゆっくりと炙る。味付けもしていないのに、香ばしいにおいが漂い出す。
「この被膜に味付け成分があって、炙ると滲み出てきます。味は塩コショウに近いですね。あとは剝いて食うだけです」
ナイフで膜を裂き、皿に乗せる。ホカホカと湯気が上り、流れ出た肉汁が食欲を誘う。フォークで突き刺して口に運び、噛み締めた瞬間、熱い肉汁が弾けて口の中を満たす。ピリッと辛い味付けも程よく、ビールやワインにも合うだろう。飲めないけど。
木の実も蒸すと、ヘルシーな味わいの副菜になる。
「最後は辛々豚です。はい、皆さんの言いたい事は分かります。見た目が最悪です」
要は定番のオークの出来損ないみたいな奴だ。豚の頭にでっぷり太った肉体。得意技は意外性マックスの火炎放射。いかにも臭そうな見た目で、実際臭い。だからこいつだけは離れた場所に置いてあった。
「さっき食った肉もこいつの肉です。ストレイ・ハウンドは頻繁にこいつを狩るようです。弱いですからね。で……、調理法なんですが。まあ丸焼きがベストでしょう。臭いも消えますし。ぶっちゃけ……全部食えるんですよねコイツ」
流石にこいつを調理配信するのは止めておいた。豚の丸焼きも中々、衝撃的だと思うがこいつは遥か上を行く。
「ごちそうさまでした。今日の配信は以上です。明日またやるので、良かったら見に来てください。アーカイブは後ほど上げます。それじゃ、バイバイ!」
スマホを取り外し、終了ボタンを押した。同接人数を確認したところ一人。コメント無し。
まあ……こんなもんだろう……。
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