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四十三話 異形頭


吹き付け噛み砕け、タンペット・ドゥ・塊雪㕮ネージュ!」


 魔力光を灯す杖をクインが振るうと、数多の野球ボール大の氷の塊が彼女の前面に展開。大雨のように降り注いで打ち据えていく。


 絶えず形を変え、目だけを爛々と輝かせる影のような魔物の群れは蹈鞴たたらを踏み、その隙にギガキングが切り込んでいく。


「我が、剣閃……受けてみろ」


 白刃一閃。手元がブレる速度で抜刀された刀が手近な魔物を切り裂く。続けて返す刀で二匹目に刃を振るい、三匹目、四匹目と流れるような足運びで処理していった。


「眠れ、悪鬼よ」

「グゥオ!?」

「ガッ!」

「グルァ!?」


 ギガキングが刀を納めると、一斉に魔物は血しぶきの代わりに己の影を噴出させて倒れていく。


 恐ろしい動きだ。来るのが分かっているのに、避けるのが容易ではないと伝わってくる。ただ近寄り、斬るだけの繰り返しが極限まで洗練されていた。


 抜刀速度こそ凄まじいが、とりわけ足捌きが速いわけじゃなかった。筋力によるゴリ押しでも、魔法によるサポートもない。


 何ていうのかな……、気が付いたら潜り込まれている。意識外の死角から突然、ぬるりと現れてくる。

 そんな感触だ。


「コメットさん!」

「分かってる!」


 俺は思考を打ち切り、振り向きざまに聖剣を振り抜いて首を飛ばす。もう片方から迫ってきた奴には、掌で顔を鷲掴みにして地面へ叩きつけた。


 影だから実体がない? この装備を前にそんなものは無意味だ。


「熟れた信管よ、散華せよ! 子機と種子! 飛散、四散、爆散! 柘榴弾ホマー・ボマー!」


 グッと強く握った拳を開く。俺の周囲に無数の赤黒い光弾が生まれ、魔物の集団へ一気に打ち込む。

 光弾は魔物にヒットすると爆ぜ、更に細かい煌めくガラス片へと変異して吹き散らされていく。


「グア!!」


 散った破片はまた爆発を連鎖させ、生き残った残党を一掃した。


「こいつで最後の一匹か」


 ドス! っとギガキングは崩れ落ちた影の魔物の頭に刀を突き刺す。


「残るは……」


 就中なかんずく、大きな反応。特異性落下世界アノマリー・ワールドの中心地で待ち受けている。この前みたいなデカいだけの独活の大木か、あるいは……。


「行きましょう」


 クインに促され、俺は頷いて歩き出す。

 

 ビル群はどれだけ歩いても無限に続いていく。空を見上げれば、逆さまの摩天楼。何が自然光の役割を担っているのかは知らないが、不思議な事に昼時のような明るさは常に保たれている。


 建物の入り口や地下道に通じそうな階段も随所に見られたが、どこに通じるか分からないので全てスルーしている。バグった世界の扉なぞ、更なるバグへの道標でしかない。


「!」


 出し抜けに俺たちは開けた空間へ出た。ここの一画だけ綺麗さっぱり平地になり、殺風景な空き地が迎える。マップの位置的にはここにボスとやらがいるはずだが……。


「おや、無粋な侵入者かと思えば――面白い客人のお出ましだ」

「ッ!?」


 耳元でいきなり囁かれる。俺は反射的に飛び退り、剣を構えるた。

 ドッ、ドッ、と心臓は早鐘のように脈打つ。


 こいつ、いつの間に俺の背後を……!?


「貴様、何者だ」


 ギカキングとクインも距離を作って挟み撃ちをするように位置取る。


「私ですか? 暫定的に光でも闇でもないモノ……とでも名乗っておきましょうか」


 恭しく姿勢を正し、そいつは一礼した。

 黒のタキシードにシルクハット。手にはステッキと、着飾った手品師に見える。

 が――、頭の部分がトランプカード(スペードのエース)になってるのは何の冗談なのか。


「戯言だな」


 会話をする価値がないと判断し、ギガキングが肉薄する。死角から降り注ぐ袈裟が異形頭を捉えたかに、見えた。

 刃が肩口に触れた刹那、無数のトランプカードに変化し、バラバラに散っていく。持ち手を失ったステッキがカラン、と倒れて転がる。


「なッ!? だったら魔法は――! 一陣の衝動衝撃波アンスタンヴァント!」

 

 クインは杖を一回転、渦巻く暴風が発生してトランプカードに襲い掛かった。しかし鋭く空を走る風の刃を嘲笑うかのように、ひらひらとカードたちはいなしていく。


「いやはや、野蛮ですねぇ」


 異形頭の声だけが響いてきた。

 随分、余裕かましてるようだが……俺を忘れるなよ?


「――!」

星柔剣ライテスト・アサルト


 俺は舞うトランプカードに背面飛びをするように近づき、身を捻りながら一閃。


「――ほう」


 着地した俺の背後でザザザ、とトランプカードが一か所に集まり、人の形を模っていく。

 チッ、外したか。


「これが、かの魔王――ベアケル・フライシュマンを倒した勇者の力、ですか」

「お前……マジで何なんだよ」


 俺は異形頭を睨む。こいつがこの世界を生み出した張本人か、その関係者と見ていい。


 ギガキングの死角からの斬撃を無効化し、クインの魔法をあしらい、俺のスキルも当たらなかった。


 先の不意打ちと言い、今までの魔物の比じゃない。異世界でもトップクラス……魔王の四天王に及ぶかもしれない。


「ハッキリ言って残念ですね」

「……何?」

「だってあなた、()()()()()()()()()()()()()()()?」

「――っ」


 俺は聖剣を振り上げるが――、それよりも速く、異形頭の手が柄を握る俺の両手に覆い被さった。


「ダメダメ、私が見たいのは()()()()()()ありませんよ」

「テメェ!!」


 すかさず、スキルの光を帯びる右足を振り上げる。


「炤霆脚!!」


 側頭部を刈り取る上段回し蹴り。手応えを感じるが、寸前で手を挟まれて受け止められていた。


「足癖の悪いお嬢さんだ。綺麗なおみ足を、こんな事に使うのは止めた方が良いですよ」


 絹の手袋でさわさわと露出してる太ももを撫で繰り回す。ゾワワっと背中に悪寒が駆け上がる。

 ――気持ちわりぃな!!


「知るかよ、だったらぶっ飛んでろ変態野郎!!」

「――おや?」


 バチバチと閃光が奔走し、足に乗せた稲妻を伴う爆炎が巻き起こった。俺は奴の防御をぶっ壊す勢いで振り抜き、蹴り飛ばす。


 異形頭の優男はその痩身では耐えられるはずもなく、遥か遠くのビルの壁面までぶっ飛ばされ、クレーターを生じさせるほどの勢いでめり込んでいった。

 

「駄目押しだ」


 俺は背中の杖を抜き、狙い済ます。


「熱き緋よ、虚空を飛べ」


 小さな灯火が灯り、瞬く間に魔力を吸い上げて超特大の火球へと変貌した。ここなら周囲の被害を気にせずにブチかませる。消し炭になりやがれ。


焼球ファイアボール


 

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