三十九話 海割りの杖
デビュー配信が終わって次の日。
俺は昨日ゲットした水晶、杖の骨組み、意匠の組み立てに勤しんでいた。杖の先端に意匠をはめ込み、ねじを回すようにクルクルと回転させ、しっかりと締める。意匠の形はかぎ爪のような形状になっており、鋭さもあるので打撃や刺突と言った棒術も出来そうだ。
骨組み状になっている杖の部分はどうするんだろ? 自前で何とかしろって事か? 説明書も手本も無いから何が正しいのか分からないな。
「とりあえず、何か適当な素材……を」
什匣をまさぐると、脱皮した竜の革を布状に加工したものが見つかった。世界に一匹しかいない神竜の竜革だ。性能としては申し分ないだろう。
ロール状に纏められたそれを必要分だけ引き出し、ドワーフ愛用のミスリル製のハサミで断裁する。切り取った革にセメダインを塗布し、ズレないように杖の骨組みに巻きつけていく。
こんな感じだろうか?
錬金スキルなら一瞬で錬成出来るけど、レシピが必須なのでDIYする場合は頼れない。簡単な工作なので大丈夫、だろう。多分。
最後に水晶を意匠の部分にカチリとセットした。
完成……か? 魔力を送り込んでみるか。
握った杖に微量の魔力を伝達。ブン――と起動音がして、水晶が海色に発光し出した。
「……鑑定」
【海割りの杖】 危険度:無 強度:高 希少性:幻 分類:杖
海を割る杖。この杖自体に力があり、魔法を圧縮し砲弾のように放てる。
また神竜の革が用いられた事により魔法反射壁を常時、所有者の周りに展開する。
【付与スキル1】 魔法階級増(特大)
【付与スキル2】 魔砲弾
【付与スキル3】 魔力自動回復(特大)
【付与スキル4】 魔法反射壁
「つ、つよっ!?」
付与スキルも神竜の革の効果である魔法反射と、魔力のオート回復以外は見たことが無い。まさか、こんな武器があるなんて……凄いな。ダンジョンに未知の可能性を感じずにはいられない。
「ホウちゃーん。お昼出来たわよ」
階下から母さんの呼ぶ声が響く。もうそんな時間か。
俺は杖を置くと、階段を下りていった。
「この匂い……ボロネーゼ!」
ダッシュでリビングの椅子に座る。テーブルにはボリューミーなパスタの上に山盛りな具材、副菜にはコーンスープとハム、チーズのポテトサラダが添えられていた。
「いただきますっ」
「どう? 今日も奮発して作ってみちゃった」
パスタをフォークで巻き取り、口に入れる。もっちりしたパスタの歯ごたえ、続けて濃厚な具材の旨味が食欲を揮わせた。
「めちゃくちゃ癖になる……美味い」
「良かったわ。ホウちゃん、ダンジョンで料理作ってるでしょ? 私のご飯で何かインスピレーションが得られないかなって、最近は凝ってるの」
わざわざそのために……家事だけでも大変なのに、もう頭が上がらないや。
「ありがとう、母さん。お礼というわけじゃないけど家の手伝い、出来るだけするから遠慮なく言ってよ」
「あら、もう十分手伝ってもらってるけどね。気持ちだけ受け取っておくわ」
「もし何かあったら教えて。手伝うから」
料理を堪能しながら母さんと会話をする。傍らのテレビは夏休み直前なだけあって、昼時のニュースはレジャー施設やお勧めダンジョンの紹介コーナーが組まれていた。
「そう言えばホウちゃん、学校はどうするの?」
「あー……今、どんな扱いになってるんだっけ」
「警察や学校にはお父さんが上手く話してあるわ。もし学校にまた行きたいなら、私たちの家に親戚として引き取られ、転校してきたって言うカバーストーリーが作られるみたいね。もしくは、通信制高校ってのもあるわ」
まあそんな感じが無難だろうか。このまま学校に行かないのは駄目だと思うしな。
「どうせもう夏休みになるから、今すぐに考える必要はないと思うけどね」
「確かに。ゆっくり考えるよ」
俺はポテトサラダを食べながら頷く。
「どんな道を選んでも、お母さんもお父さんもあなたの選択を応援するからね。だから後悔の無いように一杯時間を使って考えなさい」
出来るなら友人たちがいる高校に戻りたい。でも、もうアイツ等と昔のように遊ぶことは無理だろう。遊んだ思い出が苦しくなるかもしれないし、それなら通信制も視野に入れるべきだ。
けれども、やっぱり通い慣れた学校への望郷もある……。
母さんの言う通り、たっぷり時間を使って選んだ方が良いな。
「ごちそうさまでした」
〆のスープもクリーミーで一流の店かと思った。
食後は洗い物を手伝ってから、俺は部屋に戻って一休み。
完成した杖を取った。
「母さん、ダンジョンに行ってくるね」
「はいはーい。気を付けてね」
是非とも、……試し打ちをしてみたい!




