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三十七話 コメットちゃんなら仕方ない


「これで……揃ったか?」


 ムベンガたちの頭をすっ飛ばし続け、一時間。最初の水晶を手に入れてから狩りまくり、ついに必要なパーツが揃った。


『おめ』

『おめ!』

『8888』

『お疲れ』

『ホントに三つのアイテムが出るとは思わなかった』

『普通にとんでもない事してるんだけど、もう誰も突っ込まないね』

『今更突っ込んでもな』

『何が起きてもコメっちゃんだから、で済むしなw』

『訓練された視聴者たち』

『ヘカトンケイルぶっ飛ばす様を見ればこうなる』


「組み立ては後日やろうと思います。そろそろ帰らないと、心配させそうなので」


 俺は手に入れたものを収納していく。忘れ物が無いか、周辺を見渡していると違和感に気づく。


「……なんか人気がないな」


 来た時の賑やかさがまるでない。どうしたんだろう。


「……シュー」

「ん?」


 静まり返った洞窟を眺めていると、目の前にまたムベンガが出てくる。

 もう用は無いんだが、こいつらは一度獲物と判断すると即襲ってくるんだよな。


『なんか色違くね?』

『ムベンガさんまーた首落とされに来たよ』

『色違いだからゲットしようぜ!』


「シュー!」


 牙を剥いて突っ込んできたので俺は平手打ちを叩き込んだ。


「ジュ!?」


 今までと同じように首がぶっ飛んでいき、べちゃっと壁に当たって潰れる。宝箱も落ちたので拾っておく。


『いつもの』

『かわいそう』

『い つ も の』

『どっちが魔物か分からないくらいの蹂躙っぷりw』

『もう動きがルーティン化してて草』


「じゃあ、外に出ますね」


 俺は魔法を発動させる。七つ道具に脱出用のアリアドネの糸があるが、俺はワープ魔法だ。外まで一気に戻れるスグレ物である。


開門ポルタオン


 目の前に空間の揺らぎが生まれ、その先には外の景色が広がる。出口のブックマークを貸し切りエリアに指定しておいたので、帰り道の行程は全カットだ。

 揺らぎを潜り抜けると、一気に日差しと環境音に包まれる。


「うわぁ、お姉ちゃんがいきなり出てきた!?」


 ビーチパラソルの下で寝転んでいたスバルが飛び起きた。


「ただいま」

「お、お帰り。青の洞窟に行ってたんでしょ? どうだった?」

「うん。色々と面白かったよ」


 俺もパラソルの陰に座り込んだ。


「アークは?」

「海で泳いでるよ。でももう昼時だから帰って来るんじゃないかな? アタシも今はトイレと昼休憩で配信止めてるから」


 午後の部の開始時間は午後一時を目安にするとのこと。じゃあ俺も配信を一旦終えるか。


「皆さん長らく視聴して頂き、ありがとうございます。昼休憩に入りますので、配信を終わります。再開は午後一時になります。お疲れさまでした」


『乙』

『乙カレー』

『早いな、もう昼か』

『午後も楽しみにしてる』


 流れるコメントを見送り、ドローンの電源を落とす。

 海辺へ視線をやると、浮輪とシュノーケルを付けたサツキが砂浜を歩いてきていた。


「ん、コメットちゃんお帰り」

「ただいま。ビーチバレーどうだった?」

「百回デュースになって止めた」

「どれだけやったんだ!?」


 凄い執念だな……。そんなに俺と一緒に居たいのか?

 

「みんな揃ったし、お弁当にしよっか!」


 スバルがバッグから弁当の包みを三つ取り出す。母さんが作ってくれた特製だ。

 二段重ねの弁当箱には白いご飯と、主菜のトンカツ、副菜のタコさんウインナー、ごま油やポン酢で病みつきにした野菜炒め。だし巻き卵とカマボコで彩っている。


「母さん、相変わらずのクオリティだな……」


 これだけの量を三人分も用意するなんて、感謝しかない。

 俺は箸でだし巻き卵を挟んで口に運ぶ。柔らかく、卵の甘みがじんわり染み出してくる。


「美味しい……」


 サツキも野菜炒めを幸せそうに頬張っていた。


「ね、ママのお弁当美味しいでしょ?」

「うん。この作り方学んで、コメットちゃんの胃袋も鷲掴みに……」

「ちょ、それは駄目だから! アタシ料理ニガテだし勝ち目ないじゃん!」

「勝った」

「ぐぬぬぬ、そのドヤ顔! してられるのも今の内だからね!」


 美味い弁当をみんなで海で食べる。元々、普段の日常とは違う場所で食べるご飯は格別だが、特に今この瞬間は俺の人生でも最高の時間だった。

 ぎゃあぎゃあと騒ぐ妹とサツキを尻目に、俺はこの楽しさがいつまでも続けば良いなぁと考えていた。




 午後になり配信が再開する。主に海で泳いだり、雑談をするだけだが同接数は安定していた。


・スーパーチャット

『¥3.000 ずっと気になっていましたが、コメっちゃんってなんでそんなに強いのでしょうか?』


 適当に三人で語り合っていると、世界ランクや強さの話題になった。そこでスパチャが飛び、俺はどう答えようか考える。

 まさか異世界で修業しました~、なんて言えるわけもなく。


「えっとぉ……、まあ色んな人に教えて貰いました。名前とかは個人情報の点から言えないです。ごめんなさい」


 神代のドラゴンとか霊体だけの存在になった過去の英雄とか、そういう存在に教わったんだけど……嘘は言ってない。


『まあコメっちゃんだから、ってことで』

『コメっちゃんをここまで強くした存在だろ? 多分、仙人とかじゃね』

『精神と〇の部屋的な場所か』

『コメっちゃんなら仕方ないもんな』


「アハハ……」


 思わず苦笑いする。俺が何をしてもすっかり「そういうもの」だから、で浸透してしまった。変に突っ込まれまくるとボロが出てしまうので、こっちの方がありがたいか。


 その後も適当に雑談を続けていると、視界の端で父さんが手招きしているのが見えた。


「ちょっと離席します」


 俺はドローンのカメラから外れ、父さんに近づく。


「どうしたの?」

「今、青の洞窟で死体が発見された。ツアーのガイドらしい」

「……え?」


 耳を疑う。さっきまで自分がいたダンジョンで、そんな物騒な事が?


「目撃者の話では、最下層に出てくるムベンガ・オリジンが襲ってきたという。尤もそのムベンガも先ほど、首がもがれた状態で発見された。お前が倒したのか?」

「確かにムベンガは倒しまくったけど、最下層の奴なんていたかな……あ」


 もしかして最後に出てきた色違いか? 平手打ちで一発だったし、てっきり上層のムベンガだと勘違いしてた。


「心当たりはあるようだな。まあ、そこは良い。倒してくれたなら一安心だ。問題は、ヘカトンケイルと同じ事態が続けざまに発生している。これは由々しき事態だ」


 父さんは眉根を顰めている。今のダンジョンの安全性は父さんたちが文字通り、血と汗を流して生み出したものだ。それを意図的に乱すような行為は、父さんたちの努力を踏み躙っている。


「誰が……」

「分からんな。昔は過激さを追求するあまり、下層の魔物に初心者を襲わせるという卑劣な配信が一定数あったが、法整備によって一掃された。もうこんなバカな事をする連中はいないと思ったが……」


 ……ダンジョンの敵は魔物だけと考えていたが、改めた方が良さそうだな。


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― 新着の感想 ―
[一言] この配信、死体がどこかに… 水着美女はいるのであとはサメ用意でなんとかごまかせるか…?
[良い点] 更新お疲れ様です。 まぁ初登場はウィザード○ィのボーパルバニーみたいなムーブでインパクト有りましたが、ヘカトンケイルよりは弱そうだったからなぁ…。シリーズ(?)最上位の強さだろうが十把一…
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