三話 元勇者は配信者へジョブチェンジ?
ブルブルとスマホのバイブで無理やり起こされる。高レベルダンジョンに潜るのは基本、人目を避けるために深夜だ。だから日中は寝ていないと、支障が出る。無視してもいつまでも震え続けるので、手でバシバシ床を叩きながら場所を探り、掴み取った。
「はい、もしもし……ホウキです」
「ああ、ホウキさん。私です。回収屋の」
「……何かありました?」
組み始めてから数か月。向こうから連絡を取ってきたことは無い。
「ええ。他の下部組織がドジ踏んでガサ入れを受けました。なので私は暫くガラを躱します。今後の取引は一先ず、中止という事で」
眠気が一気にすっ飛ぶ。
……マジか。
不味い。ヒジョーに不味い。
魔物の死骸は高く売れる。しかし正規業者だと仲介料やら何やらで差し引かれるし、ライセンスが必須になる。
少し前までは曖昧な基準しかなかったが、闇に流れる死骸が多すぎるという事で本格的に対策されたのだ。政府も魔物は研究サンプルとして絶対に欲しいのだろう。
「ホウキさんの情報は漏れていません。既に破棄しました。あなたは上客でしたからね。こちらとしても惜しいのですが……」
「分かりました……はい、はい……では」
電話が切れる。
これからどうしよ……。
別に仲介料が惜しいわけではない。俺だってちゃんとした相手とやり取りできるなら、そうしたいさ。
でも今の俺は戸籍こそあっても、それと自分が同一人物だと証明できる手段が無いのだ。魔法で一時的にかつての男の姿になるか? 変身魔法は便利だが、些細な事で解けてしまう事が多々ある。しくじった時のリスクが大きい。
「はぁああぁぁぁああ……」
長い長い、過去一長いため息が零れ出る。
蓄えは一応ある。しかし一生食っていける程ではない。家賃もあるし、一年持てばいい方だろう。
什匣には異世界でゲットした数々の便利アイテムがある。中にはメシを無限に出せる鍋やテーブルクロスがある。
だが、強力なアイテムは莫大な魔力を使う。魔力は無限でも疲れるし、それは倦怠感や空腹となって現れる。つまり、アイテムを使う→魔力を使って腹が減る→アイテムを――、の無限ループになりかねない。
そんなの産廃だろ、と思われるが異世界由来のアイテムは地球と相性が悪いんだ。向こうは空気中にマナと呼ばれる――まあ、特殊な成分がある。それのお陰で魔力の消費が抑えられるんだ。でも地球にそんなものはない。魔力回復を自動で促進させる系の道具防具もこのせいで全滅だ。
魔法やスキルでも同じく消費が増えるが、アイテムに比べれば微々たるもの。だから地球に帰還してからは、効力の弱いアイテムしか使っていない。
「また節約か……」
割と本気で異世界に戻りたくなったが、月の満ち欠けやら何やら細かい条件が重なるので、これはこれで容易に使えないのだ。世知辛い。
すっかり眠気が削がれたので俺は寝床から起き上がり、買い溜めしてあるカップ麺を取り出す。お湯を沸かして注ぎ、待ってる間はテレビをつけてボーっと眺める。
ニュース番組の時間帯で、どこどこのダンジョンで珍しいアイテムが見つかった~、あのダンジョンで怪我人が出た~、等ダンジョン関連の内容ばかりだ。
『では次のコーナーです。夏休み前、という事で本日は子供たちのなりたい職業ランキング! やはり第一位は納得のダンジョン配信者です! 今回、ゲストにはナンバーワン配信者であるギガキングさんに来てもらっています!』
ズルズルとラーメンを啜りながら画面を見る。探検帽を被った男が質問に答えていた。
『そこでスバリ、お尋ねしたいのですがダンジョン配信者と言うのは、どれくらい儲かるのでしょうう?』
『そうですね、リスナーの皆さんのお陰で潜るだけでも結構行っちゃいますね。手強い魔物を倒した時は白熱するので、前勤めてた会社のひと月分の給料を余裕で超えます」
……配信者か。
ダンジョンが見つかり、自衛隊がボコられて暫くは怖いもの知らずの冒険マニアや登山家、元自みたいな人しか入らなかった。でも昨今は女子供でもキチンと適切な装備を整えれば、安全に小遣い稼ぎが出来てしまう。
「やってみるか……?」
別に万バズするなんて思っちゃいない。ただ、金を稼ぐ手段が潰えた今、資格なし、素性不明でもやれる配信者は魅力的なものに映った。撮影機材も節約のため買えないが、適当なヘルメットか何かにスマホブッ刺して配信すりゃいい。
「ダメ元だ」
俺は早速やり方を調べ始めた。