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三十三話 ついに揃う三つ星



 なかなか寝付けない時は大体二つの理由がある。

 一つは、楽しいイベントを控えてる時だ。遠足や旅行、運動会と言った日常から外れた行事はいつも心をワクワクさせる。


 もう一つは良くも悪くも緊張する時だ。何か人前で発表したり、慣れない事にチャレンジしたり……。

 今回は言わずもがな、後者である。


「ホウキ、準備は良いか?」


 底抜けの青空。白い砂浜、青い海。普通なら気分が高揚するはずの海水浴場。だが今回は遊ぶために来たんじゃない。

 雨宮サツキ――麦星アーク復活配信と、俺の事務所加入を兼ねた一大イベント。既に昨夜のうちに俺はコメットとしてのアカウントとSNSを開設。まだ作ったばかりなのに、登録者は増え続けている。


「た、多分」


 父さんはこのクソ暑いのにスーツ姿だ。秘書の宇佐美さんも汗を流しながら忙しなく、各スタッフへ指示を飛ばしていた。


「お姉ちゃん、緊張しすぎだよ。ヘカトンケイルぶっ飛ばした時の強気な顔でいこ?」


 スバルも普段着から、水着に着替えている。ピンク色の髪に合わせたオレンジのフレアビキニだ。頭には星形のサングラスを乗せ、とてもサマになっている。


「……大丈夫。ボクたちは今日からトリオ。何かあってもサポートするから、気負い過ぎないで」


 そして退院したサツキも当然、水着を着ているわけだが……。

 頭はゴーグル付きの88式鉄帽、フライトジャケットを肩に羽織り、その下には牛柄のマイクロビキニという中々、個性的な組み合わせだった。


「そ、そうだな。落ち着こう。落ち着いて……」


 異世界でもここまで心拍数が跳ね上がったことないぞ。

 八十万の魔物の軍勢に先陣切って突っ込んだ時も、魔王四天王の三人に囲まれた時も、まだまだ冷静だった。


「本番一分前です!」


 スタッフが大声で伝える。俺、スバル、サツキの撮影ドローンが起動し浮かび上がった。

 おいおい、まだ心の準備が……!


「さあ、お姉ちゃん行くよ」


 手を掴まれ、引っ張られていく。

 ああ、今の俺の姿をかつての仲間たちに見られたらなんて言われるだろうなぁ……。

 戦士の奴は大爆笑しそうだし、魔法使いは茶化してくるな。神竜はいつもの口癖で『人間は度し難い』と言いそうだ。


「開始、十秒前」


 俺は所定の位置に立つ。出番が来たらカメラに映し出される。

 くそ、いい加減覚悟を決めるぞ。ああ、やってやる。やってやるからな!


「五、四、三、二――」


 グッとスタッフが手で合図する。


「みんなー! おはスター!! 元気にしてたかな!?」


 スバルがカメラの前で決めポーズを取る。


『待 っ て ぜ』

『おはスタアアアアア!』

『おはスター!! 水着回キタアアアア』

『ああ、今日まで生きててよかった・・・』

『プレちゃん似合ってるよ!!』

『・・・最高だ』


 コメントは今日も大盛り上がり。同接は既に二万に達し、なおも増え続けている。


「みんなも知ってると思うけど、今日はアタシだけじゃないよ! 長らく抜けてたけど、ついに復活! 麦星アークちゃん!」

「……ん。みんな、久しぶり。待っててくれてありがとう」


 右手で豊和M1500を持ちながらピースサイン。


『アークちゃん会いたかったよぉおおおおお!!』

『元気そうで良かった!』

『今回も牛柄ビキニでワロタ』

『平坦なのに大胆』

『だがそれが良い』

『スナイパーは腹ばいになるんだから、絶壁の方が有利やろがい!』


「……誰が平坦だって?」


 サツキは夏の暑さも忘れそうな、氷点下の睨みをカメラに向ける。このやり取りは予定調和らしい。


「そして皆さんお待ちかね――、ステラ・スフィアーズの三人目の仲間! アタシのお姉ちゃん、コメットちゃんでーす!!」


 ドローンのカメラが俺に向く。一瞬脳内が白くなりかけるが、決死の覚悟で踏み止まり、何度も反芻して練習したセリフを口にする。


「――よ、宜しくお願い、します。コメットです。きょ、今日からステラ・スフィアーズの一員として、皆さんと交流していこうと思います」


『あっ……』

『コメっちゃんの水着・・・だと』

『尊』

『もう思い残すことは無い』

『ありがとう・・・ありがとう・・・』

『今まで着飾らなかった子が唐突に女の子し始めるのは反則ですよ』

『カメラ、もっと良く見せて!』

『くそ、もっと高画質なモニターにするべきだった!』

『頼む、もう少しだけ映してくれ』

『これが、ガチ恋に堕ちる瞬間なのか……』


 ……何故かコメントの勢いは俺の時が一番すごかった。


「今からアタシたちは三人で、このステラ・スフィアーズを盛り上げていこうと思います! みんな、どうかよろしくね!!」


 真ん中にスバルが立ち、俺とサツキの肩に手を置く。


「よろしく。ブイ!」

「きょ、今日は楽しんでいってください!」


『ついに三人体制!!』

『この構図最高w』

・スーパーチャット

『¥10.000 今日の推し代!!』

『アークちゃんマジスナイパー!』

『コメっちゃんの赤面だけで生きていける』

『仮病入れてサボって良かった、生で見る価値がある……!』

『プレちゃんの笑顔は万病に効く・・・』

・スーパーチャット

『¥5.000 三人の門出を祝って』


 ……同接は四万人を超えていた。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 八十万の魔物の軍勢に『殿』で突っ込んだ時も、 殿=退却する軍の最後尾で敵を足止めする部隊 突っ込むのは『先駆け』『一番槍』『単騎駆け』『一騎駆け』『先陣』 だと思います。
[良い点] 更新お疲れ様です。 くそっ、コメッちゃん達の水着姿が見えねぇ…!?心眼を開けば或いは…?(叶わぬ願い)  それはともかく遂に三人体制……つまり「プレアデス!アーク!コメット!ジェットスト…
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