二十七話 ライセンス試験(無双)
「ホウキ、そろそろ出かけるぞ」
「分かった」
逆ランドマークタワーの騒動から数日。俺は父さんの車に乗せられ、ダンジョンライセンス……通称、Dライセンス取得試験を受けるため市内のスポーツセンターへ向かう。
本当ならもっと早く受ける予定だったが、ヘカトンケイルが上層に現れた事件のせいで遅れてしまった。現時点で原因やあの謎のドローンについて判明したことは無い。
「そう言えば、ホウキ。引っ越しはいつするんだ?」
父さんは運転しながら、ルームミラーで俺の方をちらりと見る。
「明日の予定だよ。と言っても、私物は全部什匣に入るから、俺一人でも大丈夫」
「そうか。もし何か手伝いが必要なら、いつでも言うんだぞ」
「うん。さんきゅ」
平日の昼時なので道は空いていて、すぐに到着。駐車場に入り、俺は父さんと一緒に受付へ向かった。
そこでいくらか会話と必要事項記入後、いよいよ試験が始まる。俺は体操着に着替え、会場へ足を運んだ。周囲には他にも何人か挑戦者と思われる人たちがいる。
「ライセンス試験と言ってもやることは基本的な体力測定になります。最初の試験は握力測定です。思いっきり握ってください。あとスキルの使用は禁止です。発覚した場合は処罰される可能性があることを、ご留意ください」
俺は測定器を渡される。思いっきりやったら絶対潰れるだろうなこれ……。
可能な限り、力を抜いて握り込むが――。
クシャ、とアッサリ握り手がペシャンコになった。当然、液晶画面はブラックアウトして測定不能。
「……え?」
係員は目を剥いている。
「……ごめんなさい」
「いえ……たまに異次元の記録は出るのですが、測定不能は初めてですね……左手も一応やりましょうか」
サラサラと俺の項目に測定不能と書き込まれる。左は限界までソフトにやってギリギリの120㎏ジャストで止まった。
「で、では、次は反復横跳びです。制限時間は三十秒です。はじめ!」
俺は左右に跳ね飛ぶ。異世界だとこういう動きは割と重要で、徹底的に足腰を鍛えたものだ。懐かしいな。俺に指導してくれた戦士は今何をして――。
ドォン! と物凄い地鳴りが鳴り響く。……考え事をしてたせいで、手を抜くのを忘れた。
「あの、ごめんなさい」
俺が履いてる運動靴の靴底の形に抉り取られた床を見て、冷や汗を流す。またやっちまった……。本気で飛んだから、床が弾け飛んだのだ。
「さ、三十秒で201回!? せ、世界記録ぶっちぎってますよ!? てか反復してる姿が全然見えなかった……」
「えっと、申請するつもりはないので非公式記録ってことで……」
周りにいる挑戦者たちも瞠目し、俺を見ている。やべえ、完璧に悪目立ちしてる。
「わ、分かりました。次は立ち幅跳びになります」
俺は踏み切りのラインに立つ。
手を抜け、手を抜け、加減しろ加減しろ加減しろ……。
ひたすら念じまくる。
「では――はじめ!」
軽く飛ぶ、軽く飛ぶ、軽く飛ぶ。
よし、行くぞ。
――トン、と俺は飛び上がった。
加減したので床は破壊してないし、高さも低い。よし人間アピールが出来た! と思ったが……。
距離を測るためのマットを大きく飛び越えてしまった。
「………」
「……あの、すみません。辞退します」
「……俺も」
「おいどんも」
「朕も」
挑戦者たちがゾロゾロと試験会場から去っていく。着地した俺は気まずくて振り返れない。
「えー、まだ試験はあるのですが……もう残りは遠慮なく全力でやって貰って良いですよ。手を抜かれてしまうと測定にならないので」
「わ、分かりました」
以降の結果は……。
上体起こし、81回。
50メートル走、3秒42。
シャトルラン、測定不能。
長座体前屈は身長が低いので、平均的な39cmに終わった。
「次は魔力測定です。あなたの魔力の総量を調べますが……」
係員は「どうせまたぶっ壊すんだろうな」と言いたげな目で俺を見る。
「こちらの導線を持ち、魔力をこのフィラメント電球へ送り込んでください。魔力の量で明るさが変わります」
説明が終わると、素早くサングラスをかける係員。
ではお望み通り有りっ丈の魔力を――。
フィラメント電球は太陽のような輝きを一瞬だけ放ち、爆発して砕け散った。
「はい、測定不能ですね」
係員は塵取りを取り出してサッサっと片付けていく。
「次は属性試験です。これは特殊なアイテムで、使用者が扱える属性の色で光るロウソクです。こちらは持つだけで大丈夫です」
俺はロウソクを受け取る。すると勝手に火が灯り、多種多様に色彩を変えていく。
「うーん、なんか私の知らない色がいくつもあるんですが……まあ、六属性は全部使えるみたいですね」
まあ時属性とか、宇宙属性の魔法は地球にないだろうしな……。
そそくさとロウソクを片付け、次に出てきたのはトランプカードのような紙面に剣や槍、弓矢が描かれている。
「最後は武器適性試験です。今はただのカードですが私が魔力を込めると、適性の有る武器の絵が描かれたカードしか持てなくなります。はい」
俺は全部のカードを掴み取り、ヒンドゥーシャッフルする。
「お疲れさまでした。全ての試験はこれにて終了です。結果は分かってるかと思いますが、追って通達します」
「ありがとうございました」
後日ライセンスは速達で送られてきた。




