二話 元勇者は汚部屋暮らし
俺の家は街の一角にある賃貸アパートの一室だ。安いし、余計な詮索も受けない。仕事を辞め、一世一代の夢見てダンジョンに潜る奴らが増えて、こういう場所は爆発的に増えた。
一晩中怒鳴り声や奇声がするし、玄関先で頭を打ち付けるオッサン、汚らしい笑みを浮かべて椅子に座って動かないババア等、やべーのが一杯いるが特に問題はない。俺も仲間として見られてるのか、雰囲気で感じ取るのか……何も絡まれないのだ。
「ふぅ……」
自室のドアを開け、部屋に入ってため息一つ。せまっ苦しい部屋で気が滅入る。玄関はゴミ袋で一杯。洗面所は洗濯物が所狭しと干してある。居間は寝るためのスペースがある他、後はゴミや雑誌、ダンジョンで拾って持ち帰ったアイテムとか、財宝が適当にぶちまけられている。
流しは汚水と汚れた食器が重なり、カップラーメンのゴミやレトルトの容器がほったらかし。Gが湧くからホイホイは欠かせない。
……最初は、そりゃ掃除洗濯食事は頑張ったさ。負担を軽くするため魔法でやろうとしたが、結局魔力を使うので疲れる。無限に等しい数値が有っても、疲れるものは疲れるんだから仕方ない。
「家、帰りてぇ」
妹……スバルは何してんだろーな? あいつもダンジョン潜ったりしてたりして。あり得そーなんだよなー、あいつそういうの大好きだし。
俺は装備してた剣を外す。以前は防具も付けてたが、着脱が怠いので什匣の肥やしになった。すまんな、向こうで色々授けてくれた精霊たち……。
代わりに愛用しているのがフード付きの半そでパーカー。顔を隠せるので大きめのサイズ。あとは動きやすい半ズボンとワークブーツの組み合わせ。
フードを下ろすと、ふわっと隠していた髪の毛が広がり、潰れてたアホ毛も立ち上がる。色は水色。まず外国人でもあり得ない色彩だが、ダンジョンで配信する奴がキャラ付の名目でウィッグつけたり、カラコンを入れるので目立たない。
そしてヒビの入った鏡に映る顔は――、一言で言うなら美少女。そう、これが今のような生活に陥った諸悪の根源。クソ魔王の置き土産。
|俺は【元】男である。
「……はぁ」
二度目のため息。見事なアニメ声。ちっとも嬉しくない。目つきは男だった頃の名残かツリ目。水色とピンクのオッドアイなのも勇者の証だ。
ピンク色の左目は魔眼になっていて、こいつのお陰で俺は無限に等しい魔力を持っている。他にもいろんな権能がある、ありがたーい奴。
……実は魔王四天王の一人と戦い、そん時左目持っていかれた腹いせにくり抜いて、移植した曰く付きでもある。
「……風呂、入って寝よ」
パーカーを脱ぐと、黒のインナー越しでも分かるくらい平坦な身体が露になる。裸なんて最初はまともに見れなかったが、もう慣れた。
おまけに筋肉なんて微塵もないプニプニ具合。しかし不思議な事にフィジカル面への影響は皆無。呪いって言う割にはステータスに影響する奴はない。本当に嫌がらせで仕掛けた呪いなんだなって、よーく分かる。
こんな生活はいつまで続くのか。
神のみぞ知る。