二十二話 コメット
ローファン日間3位、週間8位、月間38位まで来ました
感無量です。ありがとうございます
「えーっと、撮影ドローンヨシ、予備バッテリー&予備ドローンヨシ、装備ヨシ……」
俺たちは今、横浜みなとみらいの目玉、ランドマークタワーの正面入り口にいる。この時間帯でも観光客や仕事帰りのサラリーマンが忙しなく往来していて、見慣れた日本の風景と変わらないように見える。
しかし、そのランドマークタワーの入り口前には不自然に開いた裂け目があった。舗装された遊歩道を突き破り、ささくれ立った洞窟が口を開けている。
その前には立札が立てられ、【八十二号ダンジョン 注意:高危険度ダンジョン ライセンス不携帯の立ち入りはダンジョン探索法により、禁止されています】と書かれていた。
「七つ道具、ヨシ」
ダンジョン入り口前の控え場所でスバルは持ち物のチェックを入念に行っている。
特に【ダンジョン探索七つ道具】は必須だろう。ステラ・スフィアーズが国内企業と工場に委託し、発売している配信者必携の道具類だ。
その一・緊急脱出デバイス『アリアドネの糸』
その二・魔力充電式LEDライト『クレタの明光』
その三・高耐久多機能マルチツール『テセウスの剣』
その四・特殊防寒・防熱ブランケット『ダイダロスの鎧』
その五・携行ろ過装置『クノッソスの湧水』
その六・着火スターター『ヘパイトスの火種』
その七・救難信号発信機『ミノスの警笛』
と、名称もあるのだが、機能は素晴らしいのに名前が中二臭いと配信者からは不評であり、専ら単にナイフやライト、ビーコンと呼ばれている。
また、アークの遭難事故により特異性落下世界内ではビーコンやアリアドネの糸が機能しなくなるという問題点も見つかっている。
特に糸は致命的だろう。アレは簡易的なワープ系の魔法アイテムで、使うとダンジョンの入り口に導いてくれるスグレものだ。
もちろん電波を用いたツールではない。使用不可能になる原因は不明だが、俺的にはあのバグった世界では何が起こっても不思議じゃないと思う。
「よし、全部大丈夫! お兄ちゃんは?」
「俺はいつでも」
「……剣持ってる以外、何も変わってないケド……」
「アイテムか魔法、スキルで全部代用できるんで」
「………」
スバルは何か言いたげにジト目を寄越してくるが、撮影ドローンを三機、起動させた。
「じゃ、始めるよ? 準備は良い?」
「……なんか緊張してきた」
だって一度に何千人も視聴者が見るんだろ?
同接一人だぞ、俺は。想像できねえ……。
「あー、もう! 肝心なところでイモ引いたら、有名配信者にはなれないよ? やるからね!」
「ちょ、ま」
「三、二、一……はい、皆さん、こんスター! プレアデスの食後の運動雑談配信の時間だよー!」
ドローンに向かい、満面の笑みとポーズを見せるスバル。その様は一流のアイドルのようだ。
俺は空間に表示されるコメントを見ると、凄まじいスピードで流れていく。開幕からスパチャも飛び交っていた。
『こんスター!』
『こんスター!!』
『こんスター、一日の癒しきちゃあああああ』
・スーパーチャット
『¥2.000 本日の推し代』
『ナイすぱ~』
・スーパーチャット
『¥5.000 待ってた。今日も可愛いよ、プレちゃん』
『今日は何処で雑談?』
人気配信者って、スゲー……。
っと、感心してる場合じゃない。盗めるところは盗んで、学ばないと!
「今日は、横浜の『逆ランドマークタワー』で配信しまーす!」
『逆ランドマーク!? マ?』
『流石にプレちゃん単騎きつくね? それともアークちゃん復帰した?』
『まさかの高レベルダンジョンで草』
『食後の運動とは(哲学)』
・スーパーチャット
『¥9.000 最 初 か ら 盛 り 上 が っ て ま い り ま し た』
「まだアークちゃんは戻ってこれないかなー。でも、復帰の目途はついたと思うよ! でね、ピンチヒッターとして今日はなんと、アタシのお姉ちゃんを連れてきました!!」
「ッ!?」
ドローンのカメラが一斉に俺へ向く。
「え、あ、ちょ、まだ、心の準備がッ!?」
俺は顔を手で隠そうとするが、ドローンはあらゆる角度から撮影してくる。
『お姉ちゃん……だと!?』
『!?!?!?!?』
『か、可愛い……』
『アホ毛も一緒で草』
・スーパーチャット
『¥10.000 神 回 確 定』
・スーパーチャット
『¥15.000 ありがとう……』
『プレちゃん、まさかの妹ちゃんかよ……パーフェクトだ』
うわぁ、すっげえ反応……。どう返せば良いんだ。と、とりあえず無難に挨拶か?
「俺はプ、プレアデスの姉のコメット、です。み、皆さんよろしく、お願いします」
俺は頭を下げる。
ホウキだから、ホウキ星(彗星)を意味するコメット。単純だ。なお、ブルームスターではない。
『コメットちゃん!』
『俺っ娘、キタアアアアアアアアアアアアアアアアア』
『初々しくて最高か』
『ステラ・スフィアーズに加入するの? というかしてくれ! 頼む!!』
『ん? というか、……どっかで見たような?』
『姉妹共演とか、今日の配信見れて良かった……』
『笑顔引き攣りまくっててワロタ』
『妹ちゃんと違ってツリ目なのがすここここ』
とんでもない量のアクションに俺は頭が真っ白だった。こんな観衆の最中、トークが出来るスバルは何モンだよぉ……。
「予想通り、大人気だね。お姉ちゃん」
ニヤッといたずらっぽく笑うスバル。
「配信はこれからだよ? 頑張ってね!」




