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二十話 迷える星を導くホウキ星


 俺はアーク――今はオフだからサツキと呼ぶべきか――に高位の回復アイテムを使ったから後遺症とかは無いと思っていたけど、実際に会ってみて身体の方は元気そうで安心した。

 ただ、少し気になる点もある。さっき、スバルに会う時顔を乱暴に拭っていた。汗を拭いたにしては、なんか慌ててるようにも見えたし。目も少し充血している。


「リハビリ中に邪魔してゴメンね」


「ううん。来てくれてありがとう。それにもう終わるところだったから」


 ライフルを収納ケースに片付けながら、サツキはふとその手を止める。


「スバルちゃん、ボクのリスナーたちは何か言ってる?」


「え? みんな心配してるよ。早く元気になって欲しい、とか。ゆっくり休んで、とか」


「……そう」


「サツキちゃん。もしかして……配信出来ない事、気にしてる?」


 ピクリ、とサツキの肩が反応する。


「……うん。分かった?」


「そりゃ、友達だもの」


「……手の震えがね、どうしても銃を撃つ時に出ちゃうんだ。あとは何でもないのに、これさえなければみんなの前に出て安心させられるのに」


 サツキは自分の手を広げて見せる。

 ……精神的な物か。こればっかりはお手上げなんだよな。解決策はあるにはあるが、魔法で洗脳するとかゾンビパウダーで意志を持たない怪物にするとか、そんなダーティな手段くらいだ。


「いっそ、震えないように誰かが手を支えてやるとか?」


 俺は何となく言ってみるが、担当の看護師さんは首を横に振った。


「訓練用のモデルガンならまだしも、実銃でそれをやるのは危ないですよ。特にサツキちゃんはスキルや魔法を重ね掛け、何十倍、何百倍にも強化された弾頭を扱うんですから。凄まじいリコイルが起こるんです。本人はそれを肉体強化で強引に相殺しているので、下手したら大の男でも大怪我をしかねません」


 ……なるほど。見た目はスバルと変わらないが、かなりのパワータイプのようだ。

 かく言うスバルも剛腕で殴り飛ばすスタイルだし……父さんの好みなのだろうか。


「うーん。まあ、そんなんで良くなるわけ無いか」


「お兄……お姉ちゃんらしい発想だけどね」


「それ、褒めてるのか?」


「……あの! やってみます。それで、そのやり方で!」


 しかし何故か、サツキはやる気のようだ。


「やっても良いですよね? 訓練用のモデルガンだし、魔法やスキルは使わないので」


「……良いわ。でも根詰めるのは駄目よ」


「はい。ホウキさんもお願いします」


「分かった。あと、スバルの時と同じくタメで良いよ。(見た目が)同じくらいの年齢なんだしさ」


「ん、じゃあよろしくねホウキちゃん」


 言い出しっぺだから辞めますなんて言えない。こんな気休めで良くなるのだろうか? 失敗してサツキの負担にならなければ良いが……。

 豊和M1500を構えたサツキの背後に立ち、後ろから抱き締めるように銃身を支える左手、引き金に添える右手を優しく掴む。


「え、え!? お兄……お姉ちゃんそうやってやるの!?」


「んふぅ!」


 なんかキャーキャー言いまくる妹と、また鼻を抑えてる宇佐美さん。

 なんやねん、この二人。


「じゃー、どうやって支えんだよ」


「……う、撃ちます!」


 サツキも妙に上擦った声で告げる。乾いた音と共に飛んでいく弾は、全く見当違いな方向へ去っていった。


「悪化……してますね」


「スマン。やっぱ余計な事したわ」


 人助けって、難しいよな。


「ううん、ボクが頼んだ事だからホウキちゃんは悪くないよ。そ、それに、今のは集中できなかっただけだから。も……もう一度、今みたいにやって下さい」


「え? そう言うなら」


 俺はまたサツキの身体に密着して手を支える。


「お姉ちゃん……無意識でやってるね。そういう所はパパにソックリだよ」


「ハァハァ……あ、あの隙間に入りたい……がっ! あそこは不可侵の聖域……! 私のような煩悩塗れの俗物には耐えられないっ!」


 呆れたようにヤレヤレと肩を竦めるスバル。そしていよいよ奇怪なセリフを言い始める宇佐美さん。


「………」


 俺はそんな二人は無視して、サツキのリハビリを手伝う。


「撃ちます」


 僅かにトリガーに添えられた手が震えている。魔物に襲われ、銃弾を外して殺されかけたトラウマ。その傷の深さは分からないし、分かってやれるなんて無責任な励ましは言えない。

 だけどせめて、少しでも安心させたいな。


「大丈夫。外しても俺が守るから」


「――!」


 パン、と飛んだ弾は、今度は的のど真ん中にヒット。続けて、二発、三発と一寸たりともズレない精密射撃を披露した。

 これは成功した……で良いよな?


「あ、当たった……当たったよ……凄い、本当に小さなキッカケだったんだ。よく頑張ったね、サツキちゃん……!」


 看護師さんは口を押え、感極まったように涙ぐんでいる。サツキは振り返り、ライフルを置いて俺の両手を握る。


「今の、本当?」


「そうだな。まだステラ・スフィアーズに加入したわけじゃないけど、スバルと一緒に組んで配信するのも面白そうだなって。サツキが復帰したら一緒にやれるぞ?」

「……!」


 パァッとサツキの表情が輝く。


「よ、よろしく……ホウキちゃん!」


「うん、よろしくなー」


 そんな俺たちをスバルはジト目で見てくる。

 何だよ?


「我が姉ながら、恐るべし……。こりゃアークちゃんガチ恋勢が憤死しちゃうね」


「? よく分からんが……あれ、宇佐美さんは?」


「『尊すぎて鼻血が止まらない!』って叫んで医務室に駆け込んだよ」

 

 ホントあの人、何してんだ?

 

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