十八話 これから
「しかしまあ、その前に課題が山積みだがな。特異性落下世界に、それを生み出すとされる存在。魔王と地球のダンジョンの関連も気になる。お前にかけられた女になる呪いも、何とかしなければならん」
むぅ、と渋面を作り腕組する父さん。
「俺の呪いは後回しでも良いよ。全部解決したら、最後にやればいいさ。別に……、何が何でも男に戻りたいって状況でもないし」
「むしろ今の内に女の子にしか出来ないコトをして、楽しもうよお兄ちゃん!」
「例えば?」
「えー? やっぱかわいい服着たり?」
「嫌だ」
「即答!? 何でよー!」
スバルは俺の顔を覗き込んでくるが、顔を背ける。
「……恥ずかしいから」
そしてボソッと呟く。露出が多かったり、露出が無くてもフリフリしてたり……もっとカジュアルでシンプルなもので良い。
「あ、っふん!」
「……宇佐美君?」
「あらあら、今ティッシュを持ってきますね」
何故か鼻を抑える宇佐美さん。クシャミか?
「す、すみません……大丈夫です。今の反応、油断しました。ブッ刺さりました」
「?」
小声で何か言ってるが、大丈夫なら良いか。
「それで、ホウキ。これから何かしたいことはあるか?」
「とりあえず……引っ越しの準備でも」
もうあのアパートにいる意味はない。あそこは、帰る場所が無い人に用意された居場所。
必要としている人のために空けるべきだろう。
「ああ。それなら業者にやらせることも出来るが……」
「いや。自分でやるよ」
大した荷物はないしな。全部什匣に突っ込めばいいし。
「そういやパパ、アークちゃんの具合はどう?」
「ケガはホウキが治してくれたし、問題なしだ。ただ、やはり精神的な面でな」
あの空虚で広大な世界をたった一人で彷徨い、魔物に囲まれ殺されかけたのだ。その恐ろしさはよく分かる。俺も何度、序盤は死にかけたか……。
「アークちゃん、大丈夫かなホント……」
一部では引退説も囁かれてるとか。どうせ飛ばし記事だろうけど。
「本人は続投を強く望み、必死でリハビリに専念してる。良くなると信じよう。……見舞いに行くか?」
「うん」
「俺も行くよ」
助けた手前、ここで知らん顔は筋が通ってない。
「では、そうと決まれば」
「社長は会社に戻ってください。仕事中でしたし、そろそろ戻らないと社員たちに示しがつきません」
「う……そもそも、休日に何で出社しなければならないんだ! せっかくの家族団らんが……」
「仕方ないでしょう。特異性落下世界の対策やホウキさんのためなんですから」
「くぅ……残念だ」
父さんは名残惜し気に車に乗り込み、何度も手を振ってようやく車を発進。なんか今生の別れみたいになってるけど……。
「では、行きましょうか」
電話で呼んだタクシーに乗り込むと母さんが窓越しに、
「夕飯前には帰るのよ。あと、アークちゃんに宜しくねぇ」
そう言ってくる。俺は頷いて返事をすると、タクシーは発進した。




