十七話 ゲームチェンジャー
ローファンタジー日間6位、週間15位になりました。ありがとうございます!
「では、社長……そろそろ本題を」
会話に区切りがついた時、秘書の宇佐美さんが促す。
「ああ、そうだな……ホウキ、今やステラ・スフィアーズは日本を代表するダンジョン配信専門の企業だ。設立した最大の目的はお前を探し出す事だったが……そうも言ってられんのが世の常だ」
父さんは苦虫を噛み潰したような顔で頭を掻く。
「先日、我が社の専属配信者の麦星アークが未知の穴に落下。そこで異形の生命体に襲われた。その時、アークを助けてくれたのは……お前なんだな?」
「……そうだ。あの画像は俺だよ」
まさか、ネットや掲示板でめちゃくちゃ有名になるとはね……。テレビでも取り上げられたらしいけど、暇な時に流し見するだけなので気付かなかった。
「……お前は異世界でも、似たような連中と戦ってきたようだが。あの穴の奴らはどうだった?」
「アイテムや装備を使ってたのもあるけど、正直言って弱かった。あのくらいの奴らは、異世界だと割とすぐに出てきたよ。最後に倒したボスっぽい奴も、な」
「……なるほど。スバル、お前も交戦したな? 手応えはどうだ?」
「うん、強かった。アタシの本気の一撃を受けても――あいつは死ななかった」
「………」
そのシーンは俺もテレビで見てる。化け物を吹き飛ばす様は凄かったし、贔屓目に見てもスバルが負けるとは思えない。一撃で倒すばかりが強さの価値観じゃない、と思うけど。
「ホウキ、スバルはな、こう見えても配信者としての人気はもちろん、実力も国内ランク3位、世界ランク22位のトップランカーの一角なんだ。親バカかもしれんが、世界の猛者にも負けてないと私は考えてる」
「え、お前そんなに強いの? 流石だな。お兄ちゃん、鼻が高いよ」
「へへ、ありがとう」
俺はスバルの頭をワシャワシャ撫でる。
オホン、と父さんは咳払いした。
「陸自も普通科連隊壊滅を教訓に、ステラ・スフィアーズの対ダンジョン攻略を部隊間で徹底している。それこそ特殊作戦群は、高レベルダンジョンで遭難した配信者の救出を担うくらいだ。そんな彼らをも全滅させ、スバルの一撃を耐え得る魔物を――」
コップに注がれた麦茶に浮かぶ氷がカラン、と音を立てた。
「お前はたった一人で蹴散らした。これは、今までの世界のパワーバランスをひっくり返す『ゲームチェンジャー』と言えるだろう」
そうなのか? ……なんだか話がワールドワイドになってきたぞ。
「ダンジョンは今や国力の一つになっています。豊富な資源、未発見の生物、強力な武器防具財宝、アイテム。各国の配信事務所は活発に活動していますね」
宇佐美さんの言う通り、ニュースで見ていたから何となくは俺も分かっていた。
資源のない国は輸出大国に。
大国はより強大な超大国に。
今の日本のパワーは、ダンジョン出現前のアメリカや中国に匹敵するらしい。
しかし、同時にアメリカ、ロシア、中国は更なる力を誇る異次元の国家へ変貌……正しく【千年王国】の到来、あるいは令和の三国時代だった。
前述の世界ランクもトップ10位は全て米・中・露に独占され、日本を含む他のアジア勢や欧州勢は全く歯が立たないという。
「そんな中、お前が現れた。今はただのネット上で囁かれるだけの伝説の存在に過ぎないが、もし実在するものになった時……世界は震撼するだろうな」
父さんの顔はどこか楽しげだった。
「ホウキ、大事な話だからよく聞きなさい。ダンジョンで料理配信するのも、スバルと一緒に活動するのも自由だ。高レベルダンジョンに入るためのライセンスが欲しいなら、試験を受ける用意をしよう」
そう、この顔は昔から見てきた戦う時の父さんの顔だ。全力で、本気で、勝利を獲りに行く時の。
「だがな、もし配信者として頂点を目指したくなったら、本気でやると良い。お前の凄さ、世界に見せつけてやるんだ。我々も全力でサポートしよう」
確かに、ランキングの独占は気に入らないな。その固定された世界に風穴をブチ開けてやるのも、一興だろう。
「まあ、考えておくよ」
とは言え、料理配信も続けたいな。せっかくリスナーさんがいるわけだしね。




