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十三話 昂り



 プレアデス――本名、大東スバルはその日はずっとネットサーフィンに精を出していた。親友であるアークを助けてくれたのは誰なのか? 

 

 その正体を探すため――と言えば聞こえがいいが、やってることは匿名掲示板を漁るくらいである。

 アークは入院中だが、容体は問題ないようだ。

 ただ、少し心的外傷の傾向が見られることがスバルの心に暗い影を落とす。


「あんな場所に一人だったら、アタシでも無理だよね……」


 だからこそ、そんな状況から救ってくれた人の正体が知りたいのだ。

 しかしニュースサイトは何処も同じ文言を繰り返すばかり。


 なら荒唐無稽でもたまに奇跡的な答えが見つかる掲示板を探す方が良い、と思った。


 どのスレもアークが残した五十秒間の映像の剣士の話題で白熱している。


「水色の髪の毛……」


 ふと思い出す。自分がアークの救難ビーコンに気づき、攻略途中のダンジョンを切り上げて向かった時。あのダンジョンで、一人配信していた少女。


「あの子も、水色だった……」


 スバルは首を振る。あの少女は新米配信者だ。水色の髪の毛なんて、気軽にスプレー一吹きで好きな色に染め上げられるようになった昨今、それこそ何十万もいるだろう。


「………」


 でもなぜか、無性に気になる。

 何かに引き寄せられる。

 スレの検索ボックスに「二十七号ダンジョン 水色」と打ち込んだ。


「あ……」


 一つだけ、ロクに伸びてないスレがヒットした。




【水色の少女】ゲストちゃん応援スレ【魔物料理】



01. 名無しの配信者

二十七号ダンジョンにいたあの子、ついに見つけたぞぉおおおおおおおお

【URL】



02. 名無しの配信者

は? きっしょ



03. 名無しの配信者

糞スレ立てんな



04. 名無しの配信者

見たけど、何コイツ。画質ゴミだし、魔物の料理ってw

誰も食わねぇよwww

あ、自演?w再生数一桁、悲しいねw



05. 名無しの配信者

てか、何が水色なん? 手しか映ってねぇだろボケ



06. 名無しの配信者

>>05

よく見ろ。12:02秒辺り、食器に一瞬顔が反射して水色の髪の毛だってわかる



07.名無しの配信者

>>06 お前がきしょい事が分かった



08. 名無しの配信者

お前、底辺の女配信者に付きまとう奴だろ?通報しとくわ




「ハァ」


 スバルは呆れたように息を吐く。確かに掲示板の人たちは面白い。その一方で、平然と暴言を残す人種もいる。それが匿名掲示板の良さでもあり、悪さでもあった。


「この子、滅多糞に言われてて可哀想ね……」


 変なストーカーにチャンネルを晒され、挙句に叩かれる。せめて高評価を押そうと、スバルは動画を開く。


『で、いきなりなんですが、ゴブリンは食えません。いや、食えますがゲロマズです。ドブみてぇな味です。病気になるかもしれないので、皆さんはやめましょう。でも一ツだけ、良い所もあって――』


 そのついでに適当に動画のシークバーを動かし、流し見する。


「あ、本当にあの時の子だったんだ。てかあのスレ主この事を言ってるなら、アタシのリスナーじゃん……」


 二本目の動画の最後まで見ると、自分が映っていた。水色髪の少女もスバルに気づいてカメラの視点が流れる。


 やはり新米なのだろう。名前もアイコンもデフォルトのままなのが、右も左も分からない初心者なのだと物語る。あの剣士とは無関係に過ぎない、と思ってスバルは動画を閉じようとした。


(……あれ?)


 最後にカメラに映るように、手を振るシーン。何気ない別れの挨拶だ。

 しかしその瞬間――。


『スバル!』


 記憶が蘇る。

  

 ――誕生日プレゼント、買ってくるから。じゃあな、すぐ帰るからさ!

 

 手を振り、外に出ていった兄。その日以降、二度と帰らなかった兄。

 兄はとある特撮ヒーローが好きだった。だから現実でも同じように困ってる人は、必ず助けようとした。


 あの日、あの時も……。


「お兄、ちゃん……」


 近所の猛犬が逃げ出した時――スバルはその犬に襲われかけた。そんな彼女を守ったのが兄だった。金属バットを振り回し、犬を追い払おうと懸命に立ち向かい……右手を噛まれる。


 血が噴き出し、流れ出ても兄は逃げなかった。ぶん回したバットが犬の鼻っ面を偶然にも強打し、犬は悲鳴を上げて逃げていった。


 ――大丈夫か?


 自分が大怪我をしても涙一つ流さず、優しく微笑む。

 幸い狂犬病のワクチンは接種していたので、兄は右手に大きな咬み跡を残すだけで済んだ。


 その傷跡は特徴的だったから、よく覚えている。

 動画の中の手の甲にも全く同じ傷跡があった。


 偶然か、画質の関係でそう見えるだけか。

 本来なら常識的に考えるべきだろう。


「お兄ちゃん!」


 ――だが、スバルは駆け出していた。溢れ、昂る気持ちが理性を追いやり、身体を突き動かす。

 母親の驚く声を背に受けても迷わずに。

 靴を履き、暑い日差しが照り付ける真夏の街中を全速力で。


 二十七号ダンジョンへ向かって。


 ついに、別れた二つの運命が一つに戻る地に向かって。



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