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九話 異形


 俺は姿を消す魔法を使い、昨夜のダンジョン入り口まで出向く。規制線が張り巡らされ、あらゆる緊急車両が集結し、更に各局の報道屋の車まで出揃っている。


 流石に人が多すぎるな……。姿を消す魔法はあくまでも消えるだけだ。そこに居る事に変わりはない。バレないと思うけど……高位の探知スキル持ちには気取られるかもしれない。


 仕方ない、夜まで待つか。


 俺は一旦、出直すことにする。自宅に戻り、またテレビをつけると進展があったらしい。何やら騒がしかった。


『こちら、リポーターの島田です! う、動きがありました! 特殊作戦群の隊員が帰還したそうです! ただいま、穴から上がって――』


『作戦は失敗だ!! 今すぐ下がれ!! 奴が来る!!』


 這い上がってきた隊員は負傷していた。顔は流血で真っ赤に染まり、戦闘服は千切られ、至る所に切り傷が刻まれている。


『撃ち方、はじめ! 撃て!!』


 激しい混乱の最中、ブレるカメラが二十式小銃を構える隊員たちをズームする。マズルフラッシュが洞窟の暗闇を灼き、地面から這い出てきた【何か】を狙い撃つ。


『下がれ、下がれ!!』


『退避だ!! 総員退避!!』


『くそ、射撃が効いてない!』


『奴の弱点は口だ! 口を狙うんだ!!』


 何かが叫ぶような金切り声。備え付けられたライトが【何か】を照らし出す。それは魔物とも異なる異形の生物だった。


 姿こそ人型に近かったが、目も鼻もなく、縦長の唇のようなものが頭頂部から股間にまで伸びている。


『みんな、離れて!』


 そしてその怪物の前に一人の少女が立ちはだかる。星のように瞬くピンク色の長髪を靡かせ、特徴的なアホ毛も一緒に揺れる。

 両手には不釣り合いなほどに厳ついガントレット。その拳に青白い光が収束する。


星崩拳アマ・デトワールッ!!』


 腰を落とし、深く叩き込まれた拳が怪物をくの字に曲げる。


『弾け飛べェ!!』


 閃光が迸った。強引に振り抜かれた剛腕が怪物の躯体を吹き飛ばし、穴の方へと押し込む。そのまま金切り声を発しながら、怪物は再び穴の底へと消えていく。

 少女の振り抜いたガントレットの排気口から、ブシュッと蒸気が吐き出された。


『ふぅ……皆さん、大丈夫ですか!?』


『ああ。助かったよ、プレアデスさん』


 プレアデス……? 振り返ったその顔は、見覚えがある。とてもよく似ていた。でもまさか、あいつ本当に……配信者になったのか? 信じられないけど、他人の空似とは思えない。


『アレが穴の底にいた魔物ですか?』


 リポーターの島田がおずおずと近づいてきた。転んだのか、身体中砂まみれになっている。


『そうだ……。見たことのない連中だ。――我々はまんまとハメられたのさ!!』


 隊員は地面を殴りつける。


『……おかしいと思ったんだ。何で通信機器が役に立たないあの空間内から、救難ビーコンの電波が届いていたのか? 奴らは模倣したんだよ。ビーコンの電波を。あの化け物じみた口を見ただろ? あれで様々な波長の声を生み出せるらしい。同行した魔物専門の先生はそう言ってた』


 カメラに向けて、探知アプリの画面を見せる。そこにはビーコンの電波は点滅する赤丸で示されていたが、それが二つ、三つ、四つ、五つ……数え切れないほどに一気にブワッと増加していく。


『――ッッ!』


 島田が顔を引き攣らせた。


『内部は広大だ。そして狂っている。何で空があるんだ? 何で太陽が浮かんでいるんだ? 我々はそれでも敵を打ち倒したが……私以外は全滅したよ』


 そう言い切ると、隊員は項垂れる。


『……アーク』


 横では唇を噛み締めるプレアデス。島田はマイクを握り締め、カメラに向かって呟いた。


『我が国の地底に、一体何があると言うのでしょうか。まさか、地獄の入り口が開いたのでしょうか……』

 



 深夜……俺は再びダンジョンへ近づく。流石に人は少ない。今が好機だろう。忍び足で内部へ入り、問題の最下層へ降りる。

 俺は規制線を潜り抜け、ブルーシートで隔離された場所へ近づいた。


「ここだな」


 シートをめくると、何の変哲もない地面があるだけだ。


「さてさて……どんな場所なのかね」


 俺は迷わず飛び出す。両足はあるべきはずの地面を通り抜け、落ちていった。

 

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