第5話 思い出したくもない出来事ってあるよな
俺が生前ゲーム内で得た情報によると、双連式演算宝珠を手に入れる方法はふたつ。
ひとつはアイテムを購入する。
しかしアイテムの入荷が本当に稀なのと、その前に価格が高すぎて買えない。この世界の通貨で一番安いポーションが5ジュエルなのだが、双連式演算宝珠は驚きの十億ジュエルもする。
十億もジュエルを貯めようと思うと、ゲーム終盤まで無双し続けてようやくたどり着く数字と言っていい。
もうひとつは【秘密の部屋】で手に入れる。
【秘密の部屋】というのは、ゲームの特性である恋愛としての要素を満たすことで出現する部屋のことだ。しかもこの場合、対象は異性でなくてはならない。
ゲームでは擦った程度だが、俺はその部屋の存在も入室条件も知っている。手に入れるとしたらこのルートが一番手っ取り早い。
「しかし、異性とかぁ……」
いくらヒロインの見た目となっているとはいえ、男とラブラブなんて気持ち悪いことは遠慮したい。ゲームの画面でも精神的にはシンドかったのに、今はいわば生身だぞ?
あまりこの先を思い出したくないので、日記のページをめくる手が止まる。
ここから先はサクッと行くか。
あれこれなんやかんやあって、俺は双連式演算宝珠を手に入れた。
え……? ちゃんとやれ? はい、すみません。回想を続けまぁす。しくしく。
【秘密の部屋】に入るには、異性と一緒でなくてはならない――しかも、ある程度ラブラブである必要がある。
転生三カ月目の俺の恋愛ステータスは、女子はその時点で出るイベントは全てカンスト、男は女子イベントに必要な程度の攻略でそこそこだった。
俺は必死で考えた。俺の中で許せるキャラクターはどいつだろうかと。せめて相手が男リンなら迷わないんだが……顔が良いもんな。
何度でも言うが、俺は主人公であるリンゼル・レイヴンハートのキャラデザが好みだ。それは女キャラだけでなく、男キャラもだ。どれくらいかと言うと、性癖をゴッソリえぐられたくらいだから相当格好良いと言っても過言ではない。
だから、誰かを選べと言われたら迷わずリンを推す。
ということは、だ。他の男キャラに大した感情を持ち合わせていないってことだ。他に男キャラで好みなのはキリアンくらいだが、俺が女主人公転生してしまっているのでキリアンも女……当然選ぶことができない。
……となると、誰を選んでも一緒な訳だが……
①ツンデレ系の優男、眼鏡をかけた短髪男子【セレスト】
②ムキムキ脳筋系男、笑顔がカワイイさわやか男子【マキシミリアン】
③ヒョロっとした闇系男、顔はキレイだが心は真っ黒男子【ルキウス】
④お元気担当系男、裏表のないオール普通男子【リアン】
候補は四人だが、正直コイツらと仲良くなんてしたくねえ。どうしても選ばなきゃならないなら、人畜無害なリアン一択なのだが……コイツは上級者用キャラのため、俺と一緒に居ても手を出すかどうか……多少なりともラブラブ出来なきゃならんのだ。
この中で一番面倒くさくなさそうなのは…………
……………………
「ぐああああああ! ロクな男がいねええええ! なんでこれで乙女ゲームなんだよ? 女の趣味って闇かよ!」
ルミナス・セレナーデで遊んでいる層は大半が大人女子とかで、普通の爽やかイケメンではなく少々面倒くさいキャラが多いとか何とか。だからって、面倒くさいヤツしか居ねえのってどうなんだ?
同性の友達としては良い奴らだけど、女が絡むと途端に面倒になる。
セレストは恋愛が加速すると嫉妬の鬼になるし。
マキシミリアンは秘め事を隠すことができないし。
ルキウスは監禁しようとしてくるし。
リアンは……イイ奴だよ。
こうなると知っていたらリアン一択だったのに、転生直後に戻りたい! 選択肢が狭すぎなんだよ。
とにかく迷いに迷った揚げ句 、俺はまだマシな男の【セレスト】をセレクトした。
……悪い、寒いダジャレでも言わないとやってられないんだよ。