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第四十七話

 国境線の意味合いを持つ連山・双竜山は、各山々に出入り口を設けている。これには、お互いの国々を安心して往来できることと、他国の情報をいち早く知ることができる利点があった。しかし、中にはその出入り口を利用せず、秘密裏もしくは緊急事態のため山を越えようとする者たちもいる。そんな輩を取り締まっているのが、白竜族と黒竜族なのである。そして、彼らが誇りをかけて守る山々は今日も何事もなく、多くの旅人たちが山道を行き交っていた。

 その人々に混ざり、双竜山を西側、つまりはトラロック王国側へと下山するひときわ目立つ二人組があった。

 若き黒竜族長ルーガと、左竜ギルウスである。

 二人とも長身で、特にルーガなどはその輝く金色の髪と端正な容貌が人目をひいたが、やはり何といっても、両者からあふれる力強い気力と自信が並々ならぬ存在感を示し、すれ違う人々の視線をくぎ付けにした。

「ああ、白竜族長の説教は長かったな。あんなに誰かにしぼられたのは何年振りだろうな」

 もうすぐ山裾に到着するという時に、様様なことを思い出したルーガは、辟易した様子でため息をついた。

 すっかりいつもの調子を取り戻している黒竜族長に、ギルウスが小さく笑った。

「お前を本気で反省させることができるのは、白竜族長様しかおられないだろうな。たまにはいいだろう、落ち込んでみるのも」

「そのたまにが、あんな雷を食らうことだなんてごめんだね。同じ失敗はしないと肝に銘じたよ」

「良い心がけだ。やはり今回の件はお前にとって悪いことばかりではなかったようだな」

「……まぁね。これでルシカにも堂々と会えるんだ。さぁ、急ごうか、アニス伯爵家の別宅へ」

 気を取り直したルーガが歩く速度を上げた。それに余裕の表情で続くギルウス。

 そんな二人が双竜山を下り、トラロック王国へ一歩足を踏み入れると、そこで一人の青年が待っていた。

 青年は仕立ての良い服装から高貴な家柄の者であることがわかる。さらに、物静かなたたずまいが良く似合い、やや感情表現に乏しいが堅実そうな光を宿した切れ長の目が見るものの心を捉え、只者ではない印象を与えた。

 青年は、ルーガたちの姿を見ると、迷いなく悠然とした足取りで近寄り声をかけてきた。

「不仕付けで申し訳ない。あなたは黒竜族長、ルーガ・レクスで間違いないだろうか」

 見た目の印象を裏切らず、抑揚が少ない口調が一瞬、ルーガの中で王立図書館員のセルジュ・ディローヌの面影と重なる。青年からは危険な気配を感じることはなく、それは傍らのギルウスが態勢を変えていないことで確信が持てた。

 何も言わないルーガの心を読み取ったかのように青年が淡々と続けた。

「私はジェイス。――ジェイス・ヴァロアルス・アニス。ルシフェルカの義兄だ。あなたを迎えに来た」


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