第二十七話
黒竜族長の館で『白い悪魔』と呼ばれる少女・ルシフェルカについて話し込んでいたルーガと白竜族長は早々に会談を終え、『ブラン・オール』を探しに出かけた一行を追う結論に達していた。理由は、西の大国トラロックから王立図書館員たちが不法侵入してくる可能性が高まってしまったからである。
「とりあえず、私のもとに入山許可を求めに来た図書館員らは白竜族の里にて足止めをしてあります。もし、里を出て行ったとなれば、即座に伝達できるよう人員を配備してきました」
「重ね重ね、ありがたいご配慮に感謝いたします。では、私はさっそくルシフェルカたちを追うことにいたします。リノン、ギルウス――あとは頼む」
急を要するため、玄関口で白竜族長に礼を言い、背後に控えた右竜・左竜に後を任せると、ルーガは風の精霊『流星』を呼び寄せた。
青い瞳に強い願いを込めて風の精霊に呟く。
「流星、ルシカに持たせた風の石を感じてくれ……」
昼間は分かりづらいが、淡く発光する珍しい風の精霊・流星は、しばらく館の前庭をゆったりと旋回したようで、等間隔に植えられた木の葉が順序良くざわざわと揺れた。
そして、数周したところでルーガのもとへ帰ってくると、導くかのように一方向へ飛んで行った。
「ルシカの山小屋の方角か。――それじゃあ、行ってくる」
それだけ言い残すと、ルーガは膝をバネにして一気に駆けだしていったのだった。
ルシフェルカら一行が王立図書館員に出会わぬよう祈りながら……。
そんな青年の後ろ姿を見送った白竜族が、館に残った右竜・左竜に問うた。
「貴殿らのどちらかがついて行かなくて良かったのですかな? 王立図書館員は恐ろしい守護獣を連れていますぞ」
心配というよりは確認といった口調の白竜族長に、左竜であるギルウスが苦笑交じりに答えた。
「ついて行くことができればそうしておりますが……。ご存知のとおり、黒竜族の領域において、速さ・強さともにルーガの右に出る者はおりません。あのようにおよそ争いごととは無縁そうな外見ではありますが、殆どの場合、我らが足手まといになる可能性が高いのです。ですから、後処理のために追いかけはいたしますが、ともについて行くことは今回のような場合は無理でしょう」
「なるほど。たしかに、あの速さについて行くのは至難の業でしょうな。いや、若き黒竜族長殿はまさに『竜星』。竜のごとく猛々しく、星のごとき美しさを持つ。その竜星が『白い悪魔』と呼ばれる少女に出会ったことには、何か意味があるのでしょうな」
白竜族長は目じりの皺を深めて穏やかに笑ったのだった。