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第二十五話

 黒竜族長と白竜族長が急遽(きゅうきょ)族長会談を持つことになっていた頃、希少植物であるブラン・オールを求めて山へ分け入っていたルシフェルカら四人は、順調に歩を進めていた。

 連山である双竜山の中でも黒竜族の人々が暮らす領域は天候が安定しているため、初めて訪れる旅人にとっても歩きやすい山だ。それゆえ、関所町とは違った意味で、西と北の大国を往来する人々の良き玄関口となっていた。 

「ルシカさん、疲れていませんか。休憩してもいいですよ」

『ありがとう。でも、大丈夫みたい。きっと、双竜山の草木のお陰ね』

 気遣うイオンに、言霊を吹きかけた手巾で答えたルシフェルカの顔色はとても良く、無理をしている様子はなかった。

 春の泉を彷彿させる優しい瞳をした少女の笑顔に、おのずから口元が綻んでしまったイオンは、背中を軽く叩かれた。背後には師匠であるユルグ老がいたのだと思い起こし、慌ててニヤけた顔を引きしめる。

「どうされたんですか」

 ルシフェルカと彼女の右隣を陣取ったルーエから数歩退き、ユルグ老の隣に並んだイオンは、いつもどおり厳つい面持ちをした師匠が少々歩く速度を落とし、前を歩く二人と距離をとったことに首をかしげた。

「イオン、それにしてもルシフェルカは迷いなく歩くものだな」

「ああ、そのことですか。彼女は――」

「ルーガ様から大筋は聴いている。例の連中から追われていることも含めてな」

 イオンは表情にうっすら緊張の色を滲ませたが、すぐにユルグの声やまなざしが穏やかであることに気づき安堵した。

「ルシカさんはあらゆる精霊に愛されたひとです。だから、暗闇の森でも道に迷うことはないと言っていました。ブラン・オールのことも、山小屋で独り暮らしをすることになって体が弱り果ててしまったときに、大地の精霊が教えてくれたそうです」

「なるほど。彼女は生きるためにその能力が必要だということだな。その能力を解明しようとする輩に無理やり力を使わされて、さぞ辛い思いをしたことだろう。お前の仮定が正しければ、免疫力がつけば能力を自分で制御できるようになり、普通の生活を送ることができるようになるのだな」

 前を見据えたまま淡々と言を紡ぐユルグ老は、ルシフェルカに同情するとともに、薬草学を修める者として冷静に事の全容を把握しようとしているようであった。

「師匠、ルシカさんはごく普通のひとです。優しくて、かわいらしくて、たまにこちらが驚くほどの強さを見せる、本当に――」

 そこまで言い、イオンは顔を真っ赤にした。ユルグ老が呆れた顔でじっと見ていたからだった。

「あああの、その、ですね……。俺が言いたいのはっ」

 言葉をもつれさせながら弁解する美少年に、ユルグはポツリと漏らした。

「やはりお前とルーガ様は似た者同士だ」

 それを聞いたイオンが憤慨したのは言うまでもなかった。


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